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No.??? 魔女の絵画
File:11 懐かしさ
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エラニの自己紹介を聞いた私は、まだその事実を受け止め切る事ができず、茫然としてしまった。そんな私を現実に引き戻したのは、ギルベールがコンクリートや木材を砕きながら、エラニを攻撃する音だった。その音は一瞬のうちにグラウンドの方へ移動して行く。
エラニとギルベールの戦闘は、遠目に見ているだけでも圧倒される程レベルの高い物だった。ギルベールが炎の剣を振り下ろそうとしたと思えば、無数の分身と共にエラニが攻撃を仕掛けている。そしてその次の瞬間には、それらの分身が消えている。
あそこに割り込んで行くのは恐らく自殺行為。エラニの使う魔術も詳細は不明だ。だがただ待っているだけではダメだ。現時点、あの二人は拮抗している。だがギルベールの体が巨大化すればするほど、エラニの攻撃も通り辛くなる筈だ。早々に決着を決し得る何かを手に入れる必要がある。
だがそんな物がどこにある?私には無い。魔眼を発動するまでの数秒間、私には何もできない。その間に殺されて終いだ。メデューサの特性も発現していない。ならばどうやって……
そう考えていた私の目の前に、一つの袋が差し出された。それは、かつてファミリーに拉致されるまで私が持っていた、絵画を格納した結界だった。そして、懐かしいそれを差し出して来た人物もまた、懐かしい物だった。
「……マテオさん!?」
「お久しぶりですソフィアさん。まさかこんな所でお会いする事になろうとは」
なんで彼がここに?いやエラニが教会の魔術師だったなら、そう不思議な事じゃ……いややはり理解できない。というか理解できる程、私の頭が働いていない。
「これ、貴女の物ですよね?殆どエラニさんが回収した物なのですが……取り敢えず、お返しします」
「あ、りがとう」
「状況の説明が必要でしょうから、簡潔に。私たちは、ヤガミソウスケさんからの指示で動いています。自身の偽物が犯罪組織を率い、暗躍している事を知ったエラニさんは、自分の死を偽装する事で偽物の活動を活発にさせ、頭を一気に叩く事を決断したそうです。貴女に自分と同じ姿をした分身を殺させる事は業腹だったそうですが……兎に角一連の行動によって、状況は最高の状態に仕上がりました。感謝します」
「見張りは?どうなっているんだ?」
「ご安心を。既に私の仲間が制圧しています。敵の増援は無いでしょう」
まさかここに来て、教会の本格的な支援を受けられる事になろうとは。少しばかりではあるが、気分も前向きになっているような気がする。必然、こちらの切り札に関する思考も明瞭になる。
ジョセフ君の血はまだ固まり切っていない。まだ死んでから間もない。諦めるには些か早過ぎる。それに私の特性はメデューサだ。私の知識が正しければ、まだ希望はある。私は懐から短剣を取り出しながら、マテオ君に「頼みたい事がある」と言った。
ギルベールは空気の塊を足場に、ギルベールは自在に空中を移動しながら攻撃を仕掛けて来る。私はなるべくコンパクトな動きでそれを避けながら反撃しようとするが、空気の壁で防がれる。
「何故生きている『黒猫』。お前は死んだ筈だ」
「私を騙って私の親友を良いように使ってる屑を殺す為なら、私は冥界の番人でも殺せるよ」
「そうかそれなら、もう一度殺してやろう」
「向こうにはドーナツが無いから、お断り」
私は岩石の弾丸を作り出し、それらをギルベールにぶつけようとするが、やはりそれらも空気の壁に弾かれる。
この壁を貫けるような攻撃は……うん。私には無理かな。やっぱりこの防御をどうにかしない限り、私に勝ち目は無い。だけど空気を操る魔術なんてマイナーなの、そもそも情報が少ないんだよなぁ。空気なんて、いくら操作しても大した事にはならないと思ってたんだけど、まさかここまで強いとは思わなかった。
とは言え、まったく望みが無い訳じゃない。空気を圧縮して壁を作っている以上、一度に作れる壁の体積には限界がある。全方向からの攻撃は流石に防げない。そういうのは、私の得意分野だ。
「Shady Walking Path」
「分身か」
「ただの分身じゃないよ?」
私は大量の分身と共に、ギルベールに魔術で作り出した剣を向ける。しかしギルベールは突発的に纏う炎の温度を上げ、剣を溶かし、分身と私たちを一歩後退させた。その隙に奴は私へ炎の剣を向けるが、私はとうに分身と入れ替わっている。当然のように、剣は分身をすり抜ける。
「成程。面倒な技を使う」
「まだまだここからだよ」
「面白い。見せてみろ」
あまり手の内は見せたくないけど、そう言ってられる状況でもなさそうだ。それに、どうせ私が開発した魔術じゃない。彼らには悪いけど、存分に使わせてもらおう。
「Magician's Cards」
トランプの形をした魔術の刃が、様々な方向から、ギルベールに向かって飛んで行く。その大部分は防がれるけど、やはり全部は防がれない。一部はギルベールまで到達し、刺さり、切り裂いた。
「これだけじゃないだろう?」
「頭上注意だよ」
ギルベールの頭上まで跳んだ分身たちは、先程の私と同じように魔術の弾丸を降らせる。ギルベールはそれを防ぐ為に炎の剣を盾替わりにしながら跳躍し、消え去るまで分身たちを切り裂いた。攻撃は殆ど当たっていない。だけど、それで十分。
「頼んだよ!」
空中。敵は魔術を利用すれば身動きが取れるけど、この状況なら問題無い。私はギルベールの真下から退き、遥か上空で力を溜めていた仲間に合図を送る。
そしてその直後、雷鳴と共に一人の魔術師が地面に降り立った。当然、その中間地点に居たギルベールの体は大きく抉れ、傷口から鮮やかな赤色が噴き出している。
「遅かったですねエラニさん」
「愛する親友と話をしたくてね」
「まぁ、構いませんよ」
「ありがとうリアム君。じゃ、もうちょっとお願いするよ」
「勿論。協会からの特別手当も弾むでしょうからね」
敵もこれで終わる程弱くない。抉れた肉が炎の塊に置換され、出血が止まる。成程これは確かに、高いお給料貰わないと割に合わないな。
エラニとギルベールの戦闘は、遠目に見ているだけでも圧倒される程レベルの高い物だった。ギルベールが炎の剣を振り下ろそうとしたと思えば、無数の分身と共にエラニが攻撃を仕掛けている。そしてその次の瞬間には、それらの分身が消えている。
あそこに割り込んで行くのは恐らく自殺行為。エラニの使う魔術も詳細は不明だ。だがただ待っているだけではダメだ。現時点、あの二人は拮抗している。だがギルベールの体が巨大化すればするほど、エラニの攻撃も通り辛くなる筈だ。早々に決着を決し得る何かを手に入れる必要がある。
だがそんな物がどこにある?私には無い。魔眼を発動するまでの数秒間、私には何もできない。その間に殺されて終いだ。メデューサの特性も発現していない。ならばどうやって……
そう考えていた私の目の前に、一つの袋が差し出された。それは、かつてファミリーに拉致されるまで私が持っていた、絵画を格納した結界だった。そして、懐かしいそれを差し出して来た人物もまた、懐かしい物だった。
「……マテオさん!?」
「お久しぶりですソフィアさん。まさかこんな所でお会いする事になろうとは」
なんで彼がここに?いやエラニが教会の魔術師だったなら、そう不思議な事じゃ……いややはり理解できない。というか理解できる程、私の頭が働いていない。
「これ、貴女の物ですよね?殆どエラニさんが回収した物なのですが……取り敢えず、お返しします」
「あ、りがとう」
「状況の説明が必要でしょうから、簡潔に。私たちは、ヤガミソウスケさんからの指示で動いています。自身の偽物が犯罪組織を率い、暗躍している事を知ったエラニさんは、自分の死を偽装する事で偽物の活動を活発にさせ、頭を一気に叩く事を決断したそうです。貴女に自分と同じ姿をした分身を殺させる事は業腹だったそうですが……兎に角一連の行動によって、状況は最高の状態に仕上がりました。感謝します」
「見張りは?どうなっているんだ?」
「ご安心を。既に私の仲間が制圧しています。敵の増援は無いでしょう」
まさかここに来て、教会の本格的な支援を受けられる事になろうとは。少しばかりではあるが、気分も前向きになっているような気がする。必然、こちらの切り札に関する思考も明瞭になる。
ジョセフ君の血はまだ固まり切っていない。まだ死んでから間もない。諦めるには些か早過ぎる。それに私の特性はメデューサだ。私の知識が正しければ、まだ希望はある。私は懐から短剣を取り出しながら、マテオ君に「頼みたい事がある」と言った。
ギルベールは空気の塊を足場に、ギルベールは自在に空中を移動しながら攻撃を仕掛けて来る。私はなるべくコンパクトな動きでそれを避けながら反撃しようとするが、空気の壁で防がれる。
「何故生きている『黒猫』。お前は死んだ筈だ」
「私を騙って私の親友を良いように使ってる屑を殺す為なら、私は冥界の番人でも殺せるよ」
「そうかそれなら、もう一度殺してやろう」
「向こうにはドーナツが無いから、お断り」
私は岩石の弾丸を作り出し、それらをギルベールにぶつけようとするが、やはりそれらも空気の壁に弾かれる。
この壁を貫けるような攻撃は……うん。私には無理かな。やっぱりこの防御をどうにかしない限り、私に勝ち目は無い。だけど空気を操る魔術なんてマイナーなの、そもそも情報が少ないんだよなぁ。空気なんて、いくら操作しても大した事にはならないと思ってたんだけど、まさかここまで強いとは思わなかった。
とは言え、まったく望みが無い訳じゃない。空気を圧縮して壁を作っている以上、一度に作れる壁の体積には限界がある。全方向からの攻撃は流石に防げない。そういうのは、私の得意分野だ。
「Shady Walking Path」
「分身か」
「ただの分身じゃないよ?」
私は大量の分身と共に、ギルベールに魔術で作り出した剣を向ける。しかしギルベールは突発的に纏う炎の温度を上げ、剣を溶かし、分身と私たちを一歩後退させた。その隙に奴は私へ炎の剣を向けるが、私はとうに分身と入れ替わっている。当然のように、剣は分身をすり抜ける。
「成程。面倒な技を使う」
「まだまだここからだよ」
「面白い。見せてみろ」
あまり手の内は見せたくないけど、そう言ってられる状況でもなさそうだ。それに、どうせ私が開発した魔術じゃない。彼らには悪いけど、存分に使わせてもらおう。
「Magician's Cards」
トランプの形をした魔術の刃が、様々な方向から、ギルベールに向かって飛んで行く。その大部分は防がれるけど、やはり全部は防がれない。一部はギルベールまで到達し、刺さり、切り裂いた。
「これだけじゃないだろう?」
「頭上注意だよ」
ギルベールの頭上まで跳んだ分身たちは、先程の私と同じように魔術の弾丸を降らせる。ギルベールはそれを防ぐ為に炎の剣を盾替わりにしながら跳躍し、消え去るまで分身たちを切り裂いた。攻撃は殆ど当たっていない。だけど、それで十分。
「頼んだよ!」
空中。敵は魔術を利用すれば身動きが取れるけど、この状況なら問題無い。私はギルベールの真下から退き、遥か上空で力を溜めていた仲間に合図を送る。
そしてその直後、雷鳴と共に一人の魔術師が地面に降り立った。当然、その中間地点に居たギルベールの体は大きく抉れ、傷口から鮮やかな赤色が噴き出している。
「遅かったですねエラニさん」
「愛する親友と話をしたくてね」
「まぁ、構いませんよ」
「ありがとうリアム君。じゃ、もうちょっとお願いするよ」
「勿論。協会からの特別手当も弾むでしょうからね」
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