怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

文字の大きさ
146 / 153
No.??? 魔女の絵画

File:11 懐かしさ

しおりを挟む
 エラニの自己紹介を聞いた私は、まだその事実を受け止め切る事ができず、茫然としてしまった。そんな私を現実に引き戻したのは、ギルベールがコンクリートや木材を砕きながら、エラニを攻撃する音だった。その音は一瞬のうちにグラウンドの方へ移動して行く。
 エラニとギルベールの戦闘は、遠目に見ているだけでも圧倒される程レベルの高い物だった。ギルベールが炎の剣を振り下ろそうとしたと思えば、無数の分身と共にエラニが攻撃を仕掛けている。そしてその次の瞬間には、それらの分身が消えている。
 あそこに割り込んで行くのは恐らく自殺行為。エラニの使う魔術も詳細は不明だ。だがただ待っているだけではダメだ。現時点、あの二人は拮抗している。だがギルベールの体が巨大化すればするほど、エラニの攻撃も通り辛くなる筈だ。早々に決着を決し得る何かを手に入れる必要がある。
 だがそんな物がどこにある?私には無い。魔眼を発動するまでの数秒間、私には何もできない。その間に殺されて終いだ。メデューサの特性も発現していない。ならばどうやって……
 そう考えていた私の目の前に、一つの袋が差し出された。それは、かつてファミリーに拉致されるまで私が持っていた、絵画を格納した結界だった。そして、懐かしいそれを差し出して来た人物もまた、懐かしい物だった。
「……マテオさん!?」
「お久しぶりですソフィアさん。まさかこんな所でお会いする事になろうとは」
 なんで彼がここに?いやエラニが教会の魔術師だったなら、そう不思議な事じゃ……いややはり理解できない。というか理解できる程、私の頭が働いていない。
「これ、貴女の物ですよね?殆どエラニさんが回収した物なのですが……取り敢えず、お返しします」
「あ、りがとう」
「状況の説明が必要でしょうから、簡潔に。私たちは、ヤガミソウスケさんからの指示で動いています。自身の偽物が犯罪組織を率い、暗躍している事を知ったエラニさんは、自分の死を偽装する事で偽物の活動を活発にさせ、頭を一気に叩く事を決断したそうです。貴女に自分と同じ姿をした分身を殺させる事は業腹だったそうですが……兎に角一連の行動によって、状況は最高の状態に仕上がりました。感謝します」
「見張りは?どうなっているんだ?」
「ご安心を。既に私の仲間が制圧しています。敵の増援は無いでしょう」
 まさかここに来て、教会の本格的な支援を受けられる事になろうとは。少しばかりではあるが、気分も前向きになっているような気がする。必然、こちらの切り札に関する思考も明瞭になる。
 ジョセフ君の血はまだ固まり切っていない。まだ死んでから間もない。諦めるには些か早過ぎる。それに私の特性はメデューサだ。私の知識が正しければ、まだ希望はある。私は懐から短剣を取り出しながら、マテオ君に「頼みたい事がある」と言った。


 ギルベールは空気の塊を足場に、ギルベールは自在に空中を移動しながら攻撃を仕掛けて来る。私はなるべくコンパクトな動きでそれを避けながら反撃しようとするが、空気の壁で防がれる。
「何故生きている『黒猫』。お前は死んだ筈だ」
「私を騙って私の親友を良いように使ってる屑を殺す為なら、私は冥界の番人でも殺せるよ」
「そうかそれなら、もう一度殺してやろう」
「向こうにはドーナツが無いから、お断り」
 私は岩石の弾丸を作り出し、それらをギルベールにぶつけようとするが、やはりそれらも空気の壁に弾かれる。
 この壁を貫けるような攻撃は……うん。私には無理かな。やっぱりこの防御をどうにかしない限り、私に勝ち目は無い。だけど空気を操る魔術なんてマイナーなの、そもそも情報が少ないんだよなぁ。空気なんて、いくら操作しても大した事にはならないと思ってたんだけど、まさかここまで強いとは思わなかった。
 とは言え、まったく望みが無い訳じゃない。空気を圧縮して壁を作っている以上、一度に作れる壁の体積には限界がある。全方向からの攻撃は流石に防げない。そういうのは、私の得意分野だ。
Shady Walking Path日陰者の散歩道
「分身か」
「ただの分身じゃないよ?」
 私は大量の分身と共に、ギルベールに魔術で作り出した剣を向ける。しかしギルベールは突発的に纏う炎の温度を上げ、剣を溶かし、分身と私たちを一歩後退させた。その隙に奴は私へ炎の剣を向けるが、私はとうに分身と入れ替わっている。当然のように、剣は分身をすり抜ける。
「成程。面倒な技を使う」
「まだまだここからだよ」
「面白い。見せてみろ」
 あまり手の内は見せたくないけど、そう言ってられる状況でもなさそうだ。それに、どうせ私が開発した魔術じゃない。彼らには悪いけど、存分に使わせてもらおう。
Magician's Cards手品師のトランプ
 トランプの形をした魔術の刃が、様々な方向から、ギルベールに向かって飛んで行く。その大部分は防がれるけど、やはり全部は防がれない。一部はギルベールまで到達し、刺さり、切り裂いた。
「これだけじゃないだろう?」
「頭上注意だよ」
 ギルベールの頭上まで跳んだ分身たちは、先程の私と同じように魔術の弾丸を降らせる。ギルベールはそれを防ぐ為に炎の剣を盾替わりにしながら跳躍し、消え去るまで分身たちを切り裂いた。攻撃は殆ど当たっていない。だけど、それで十分。
「頼んだよ!」
 空中。敵は魔術を利用すれば身動きが取れるけど、この状況なら問題無い。私はギルベールの真下から退き、遥か上空で力を溜めていた仲間に合図を送る。
 そしてその直後、雷鳴と共に一人の魔術師が地面に降り立った。当然、その中間地点に居たギルベールの体は大きく抉れ、傷口から鮮やかな赤色が噴き出している。
「遅かったですねエラニさん」
「愛する親友と話をしたくてね」
「まぁ、構いませんよ」
「ありがとうリアム君。じゃ、もうちょっとお願いするよ」
「勿論。協会からの特別手当も弾むでしょうからね」
 敵もこれで終わる程弱くない。抉れた肉が炎の塊に置換され、出血が止まる。成程これは確かに、高いお給料貰わないと割に合わないな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...