怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.??? 魔女の絵画

File:12 血

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「情報は?」
「要らないですよ。見てましたから」
「それもそうだね。じゃ、やろうか」
 リアムは雷の槍を、私は光の剣を魔術で作り出す。対するギルベールは先程からある炎の剣に代わり、炎の斧を作り出した。それに多分、空気の弾丸も容易している筈だ。どこから攻撃が来てもおかしくはない状況。
 なら先手必勝だ。私はギルベールの懐まで飛び込み、足を斬り落とそうとするが、やはりそれは空気の壁に防がれる。同時にリアムの槍が飛んで来るけど、そちらは炎に掻き消される。ギルベールは大きく息を吸い込み、纏っていた炎を広範囲に広げる事で、無理矢理に距離を取らせて来る。私はそれを魔術の壁で防ぎながら、分身を作ろうとする。
 しかし奴も、同じ手を何度も許す程馬鹿じゃない。私を囲むように炎を這わせ、そこから炎の槍を伸ばす事で私を仕留めようとする。しかし私は、既に分身と入れ替わっている。ギルベールの背後に回った私は、もう一度魔術を展開しようとするが、ギルベールがそれよりも前に炎の斧を繰り出す。
 首元に熱い物が近付いてくる感触。だが、それが実際に私の首まで到達する事は無く、私はリアムによって、奴の攻撃が届く一歩外側まで運ばれていた。
 リアムは高速で移動しながら、ギルベールに雷の矢を飛ばし続ける。それらはやはり防がれるが、リアムの本命はこれじゃない。雷の矢は、それぞれプラス、マイナスの電気で作られる。当然それらは互いに引き合う。結果、ギルベールは弾いた筈の矢に貫かれ、一瞬怯む。私はその隙に複数の分身と共にギルベールの体を光の剣で串刺しにするが、奴は炎の斧で攻撃しようとするが、私には当たらなかった。しかしその直後、私の足を何かが貫通したのは、恐らく空気の弾丸のせいだろう。
 怪我自体は治癒魔術で治せる。問題は、それが終わるまでのほんの一瞬、私の動きが鈍る事だ。その隙を逃す敵じゃない。リアムが一歩届かない距離。確かに、私じゃなければここで詰んでいただろう。ただ良かったのは、付加しの攻撃を持っていたのが敵だけじゃないという事だ。
Camouflage Bullet迷彩柄の弾丸
 弾丸はギルベールではなく、斧に向かう。軌道が逸れ、斧は私よりも僅かに右に逸れた地面にめり込んだ。私はその隙にギルベールの顔面に蹴りを入れようとするが、やはり空気の壁に阻まれる。奴は斧から手を放し、左の裏拳で私を大きく吹き飛ばす。
 図体がデカければ速度は落ちる筈なんだけど……早過ぎるな。魔術の強化に加え、炎を推進力にして無理矢理速度を上げてるのかな?それにまだ巨大化が止まっていない。このままじゃちょっと不味い。
 ただ、分かった事もある。さっきリアムが抉り、奴が炎で置換した所が、肉に戻っている。炎のままじゃ不都合な事があるんだ。体の大部分を一気に消し飛ばせば、きっと向こうもただじゃ済まない。なら攻めの姿勢は崩さない。
「リアム!時間稼いで!」
 私は光の剣を消し、右腕を構える。そしてその前の空間に水を収束させる。そして圧縮。さらに水を増やしながら、圧縮を続ける。やっぱり魔力をかなり持って行かれる。だけどこの程度なら、まだ動ける。
 当然、ギルベールがすぐ目の前まで近付いてくる。だが、炎の槍で体を貫かれる寸前、リアムはそれらを弾いてくれた。そしてその瞬間、準備は整った。私は右の拳を更に振り被り、圧縮した水を解放する。
Gáe Bolgボルグの槍!」
 圧縮された水は無数の槍に枝分かれしながら、ギルベールの体を貫いた。当然、心臓も。ただこれだけで死ぬなんて思っていない。どうせならダメ押しだ。
「リアム!」
Keraunos雷霆!」
 彼の言葉と同時に、遥か天空から光の柱が地面に突き刺さる。熱には耐性があるだろうギルベールも、一瞬動きが止まる。私はそれと同時に、槍を構成していた水をギルベールの心臓付近に集め、圧縮し、解放する。当然、ギルベールは体内から弾ける……筈だった。
 ギルベールは自分の体に、炎の剣を突き刺していたのだ。その熱で、私の水が蒸発してしまう。当然、体内から弾けるなんて事も起こらない。リアムの雷が消えると同時に、ギルベールは再び動き出し、私たちを同時に、別々の方向へ弾き飛ばす。
 受け身を取れなかった私の体は、思い切りコンクリートの壁にぶち当たり、その衝撃で息が詰まる。そして当然のように、激痛。更に吐血。不味い。強化していたのに骨にヒビが入っている。多分内臓にも何かしらダメージが言ってる。治癒で治せるけど、問題はそこじゃない。動けない。これは不味い。これは……
 ギルベールの斧が直ぐ目の前まで迫っていた。当然、反応が遅れ、防御は間に合わない。殺される筈だった。そして次の瞬間、本日何度目かも忘れてしまった想定外が、ギルベールの代わりに、私の視界に現れた。
 それは、炎を纏う巨体を横から吹き飛ばした。そして軽薄そうな仕草で煙草を取り出し、いつの間にか火が点いているそれを咥える。
「なんで……君……」
「『ヒーローは遅れてやって来る』って奴だ。まぁ安心しろよお嬢ちゃん。俺はお前より弱ぇが、アイツを殺すのに十分な手札を持ってる」

 私の目の前には、ジョセフ・ラインハルトが立っていた。
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