怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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エピローグ・あとがき

エピローグ。そして、次の物語へ。

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 風が凪いでいる。路地裏という事もあって、建物の外は静かだ。これと言った特徴も無いありふれた休日。私とエラニは、とあるカフェでドーナツを齧っていた。
「……平和だねぇ」
「……平和だねぇ」
 ジョセフ君はカウンターから顔を出しながら、僅かに顔をしかめている。それもまぁ仕方が無い事だろう。何故ならこのカフェは今、明らかに堅気ではない人たちがひしめき合う、世紀末感漂う場所になっているからだ。
「……なぁソフィア」
「何だい?」
「平和な休日と言うには、些か物騒な風景じゃねぇか?」
「そうかい?まぁ満員御礼という事で、勘弁してくれないかな?」
「……まぁ良いけどよ」
「ありがとう。そういう所大好きだよ」
「今チョロいって言っただろ」
「はっは何のことやら」
 アメリカを出た頃、どうやら私はマーズ君に『諸事情で暫く帰れない』という話をしていたらしい。そして彼は何か危ない事が起こっているのだと察し、私たちの共通のお友達に『ソフィアの家を、気が向いたら見に行ってほしい』という話を通していたそうだ。
 結果、私の家と美術館は荒らされる事も無く、無事に私を出迎えてくれた。流石にお礼をしない訳には行かないという事で、ジョセフ君のカフェを借りてちょっとしたパーティーをする事にしたのだった。
「いやぁしかし、ありがとうございますジョセフさん」
「礼を言われる程じゃねぇ。金貰ってるんだし」
「これはありがたい。一度来てみたかったんですよ。『人が居ないから内緒話にピッタリ』と評判のお店ですから」
「不本意だ……っ!」
 どうやらジョセフ君とマーズ君も仲良くなってくれたらしい。まぁ、そこは別に心配していなかった訳だが。
「ソフィア。ここの客層、こんな感じで固定しても良いの?」
「別に構わないだろう。多分客足は途切れないし、協会の魔術師として働けば、そっちでも金になるだろう?」
 ファミリーは騒動の結果、協会によって解体された。そして騒動の渦中に居た私たちも、ある程度の責任を負う事になった。勿論、『絵画泥棒』として協会に牙を剥いたのも事実。それ相応の処分は覚悟していた。
 しかし結果は拍子抜けとも言える物で、私たちに下された命令は、協会所属の魔術師として、協会の管理下に置かれる事だけだった。騒動の解決に一役買ったのもそうだが、顔無しと共に討伐した魔術師二人が、『本物の絵画泥棒』として処理されていたのも大きい。まぁ要するに、本当に何の変哲も無い、元の暮らしが戻って来たのだ。
「あんまりアテにしちゃダメだよ?もう二人とも、ただの人間なんだから」
「分かってるとも。だけど客層をこのままにしておくのは別に良いだろう?」
「なんで?」
「客足が少なければ、いつ来ても彼とお喋りができるかも知れないだろう?」
「素直だね。そういう所大好き」
「私も愛してるよ」
 やっぱり平和だ。命を狙われる事も無くドーナツを齧り、お茶を啜る事ができる。これ以上の幸福が果たしてどこにあると言うのか。
 そうこうしていると、どうやら注文の品を作り終えたらしいジョセフ君がカウンターから出て来て、私たちと同じテーブルについた。彼は疲れを吐き出すように溜息を吐いてから、ドーナツを一つ齧る。
「あそれ次私が食べようと思ってた奴」
「同じ奴まだあるだろ。足りなかったらまた作るから許せよ」
「なら……良いか」
 エラニは少し不服そうではあるが、まぁこれと言った文句も無いらしく、次のドーナツに手を伸ばしている。
「ソフィア。これが終わったらどうする?」
「う~ん……先ずは色々買っておきたいかな。夕飯とか寝具とか」
「寝具?なんでそんなん必要なんだ?」
「エラニが今日から私の家に住むと言うからね」
 ジョセフ君は驚きのあまりドーナツを喉に詰まらせかけたらしく、慌てて水を飲み、そしてエラニの方を見た。エラニは勝ち誇ったような笑顔をしながら、ジョセフ君に視線を合わせる。かわいい。
「……マジか」
「ジョセフ君も同棲するかい?エラニも良いかい?」
「別に良いよ。手を出せる程肝座ってないだろうし」
「おぅ良い度胸だな表出ろよ」
「私に喧嘩で勝てると思ってるのかな~?」
「こんな人が居る中で魔術が使えるとでも思ってんのか~?」
 ジョセフ君とエラニも、随分仲良くなったようだ。とは言えここで殴り合いの喧嘩を始められてもこまる。私は二人を制止しながら、ジョセフ君に「それで、どうかな?」と問い掛ける。
「……そうしてぇ気持ちは山々だが、やっておくべき事がまだ残ってる。それが終わってからだな」
「やっておくべき事?」
「ソウスケとの契約でな。ちょっと手伝う事が残ってる。ま、終わるまで精々一か月程度だ。大した事じゃねぇ」
「じゃあ、それまでに君の部屋を準備しておくよ」
「そうしてもらえるとありがてぇな」
 そうこうしている内に、また新しい注文が入った。ジョセフ君は面倒そうにカウンターの内側に戻り、次の料理を作り始める。どこか楽しそうな笑顔を見るに、これこそが彼の天職なのだろう。
 素晴らしい日々だ。こういう日が続けば良いと、心の底から思う。私は最後の一欠片を口に放り込み、次のドーナツへ手を伸ばした。


 同刻。ある探偵事務所にて。

 見覚えのある男女が何か……原稿用紙だろうか……を見ながら、首を捻っている。
「……また日本なのかい?」
「そうっぽいです。しかも困った事に、使えそうな人物が少ないです」
「そうだね……ま、今は良いか」
 そう言いながら、十代半ば程度に見える女性は、林檎を口に放り込んだ。
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