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No.3 果実
File:3 非常時避難用大結界『エヴァラックの盾』
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私は今、ジョセフ君に詰められている。いや指をとかではなく、ただ話を。ジョセフ君は心底不快そうな顔をして、私が持って来たメモ用紙をつついている
「……で?その正体不明なナイスガイの言う事を信じろと?」
「それ以外にどうしようもない。情報収集をしてほしい」
「今考えるべきはそっちじゃねぇだろ!」
ジョセフ君はそう言って机を叩いた。コップが揺れ、ほんの少しだけ冷えた紅茶が机んい零れる。勿体無い。
「今考えるべきはお前が協会にバレてる可能性だ!お前が魔術師だってのがバレるのはまだ良い!問題は絵画だ!絵画を強奪する為にやった事が協会に知られれば……」
「そこの心配は要らない。ここにまだ私が居る事が証拠だ。バレていたとしても、法に縛られたノロマ共は私達を、現時点ではどうこうする積もりが無いんだろう」
「そういう話じゃ……!」
「今考えるべきは、私の身の安全じゃない。だろう?」
元から死ぬ覚悟はできている。今更協会にバレているかも知れないなんて、考えた所でどうしようも無い事を考えるべきではない。それに、絵画が今後移動されない保証は無い。今は少しでも動くべきだ。
考えるべきは、情報の信憑性と今後の動きだ。太平洋の底ともなれば、直に行く訳にも行かない。侵入経路を見つける所から始める必要がある。出入りに制限はあるのか、どこから出入りするかを考えなければ。
「分かっているんだろう?これ以外に方法が無い。情報が無い以上は、唯一と呼んでも良い情報であるこのメモ一枚を頼りにするしか無い」
「それは……ぐむぅ……」
馬鹿の癖に他人を説き伏せようとするからこうなるんだ。まぁ、他人を心配するのは良い事だから何も言わないでおくが。
「頼んだよ。私はこれから、少し予定があるんだ。あ、代金はここね」
「……分かった……」
消え入りそうな声だな。子供っぽい彼らしくない。そんな事を考えながら、私は紅茶の代金だけ机の上に置いて、建物から去った。
どう突入するかがまだ決定していない以上、私ができる備えは無いに等しい。詰まり気長に待つしか無い訳だ。これが協会の魔術師なら、ただ時間を無駄にするだけの所だが、幸い私は協会の魔術師ではない。私には表の生活もあるのでね。
「で、僕に連絡したという訳だね?」
「そう言わないでくれよマーズ。最近羽振りが良いらしいじゃないかこの金持ちめ」
「デカいヤマがあったんでね。だけどもう……使い過ぎちゃった」
「君の浪費癖は変わらないね……」
彼の名はマーズ・ハンター。とあるバーを経営している青年だ。威厳があるかと言われればそうではないが、求心力も行動力もある。要は人徳がある。結果、良い常連達に恵まれ、今日まで店を続けられている。
しかし、彼の浪費癖はいつになったらマシになるんだろう。これでは老後の彼が心配……いや。そもそも彼が無事に老後を迎えられるかだな。まぁ、彼のしぶとさは折り紙付きなので、心配する程でもない訳だが。
「いや、今回は僕のせいなんかじゃ断じてない。酔っ払った馬鹿二人が喧嘩始めたんだよ。落ち着いた頃には酒もグラスも、壁や天井、アーケードゲームまで穴だらけだよ。今回のは僕の浪費じゃなくて、馬鹿の尻拭い代さ」
「でも、それでまた金が回ったんだろう?」
私がそう問い掛けると、マーズ君はにっこり笑いながら、大量の紙幣を取り出した。
「死んだ方に百ドル掛けてた。倍率十八倍で千八百ドルさ」
「変わらずの豪運だね」
「あぁ愛すべき馬鹿共だ」
全く以て羨ましい。それなら何か、美味しいご飯でも奢ってほしいね。
しかし、今回はそこに期待して来たんじゃない。私は彼に、一つの絵画を差し出す。どうやら喜んでくれたようで、彼はそれを受け取ってから、自分の横に置いた。
「羽振りが良いのはそっちもじゃないか」
「こないだ良いお酒をくれたお礼だよ。お代とは別のね」
「あぁ全く最高だね。コイツが穴だらけにならない事を祈ろうかな」
「祈る神も、君にはそっぽを向くだろうね」
喜んでくれて私も嬉しい限りだよ。まぁ、額縁は防弾防刃コーティング済みで、ミサイルでも飛んでこない限り、中の絵画は無事な訳だが。
「さて。本題に入っても良いかな?」
「『お礼』なんて持って来たんだし、覚悟はしてたさ」
覚悟とはこれまた……まるで悪霊や疫病神みたいな扱いだ。まぁ、今まで彼に頼んで来た事を考えれば仕方が無い事なのかも知れない訳だが。
とは言え、これが彼が選んだ仕事だ。思う存分に利用させてもらおう。私は彼に一枚の写真を渡し、ついでに彼が注文したポテトの山から一本をくすねた。彼は写真の人物を見て、あからさまに顔をしかめた。
「……まさか、『こんな見るからにヤバそうな奴を探せ』なんて言わないよね?」
「ご明察」
「人探しは探偵に頼めよこっちの仕事じゃない!」
「君程の頭脳なら現代のシャーロック・ホームズも夢じゃないだろうさ」
マーズ君は「いややるけどさ……」と言いながら、ポテトを摘まんだ。こういう所で断らないから、彼は便利なんだ。私もくすねたポテトを口に放り込みながら、にっこり笑った。
「若……これって……」
「信じられねぇ……まさか……」
俺達は、太平洋に放った式神を通じて、海底に存在する『それ』を見つめている。信じられない。巨大過ぎる。こんな物を作っておいて、一切の情報を外部に漏らさないとは……信じ難い。
「これが……ソフィアさんが言ってたという……」
巨大な神隠し。既に名を付けられているらしいそれの名を、俺は思わず呟いた。
「『エヴァラックの盾』……」
次の瞬間、俺達の式神は何者かによって消滅させられ、それ以上の偵察は不可能となった。
「……で?その正体不明なナイスガイの言う事を信じろと?」
「それ以外にどうしようもない。情報収集をしてほしい」
「今考えるべきはそっちじゃねぇだろ!」
ジョセフ君はそう言って机を叩いた。コップが揺れ、ほんの少しだけ冷えた紅茶が机んい零れる。勿体無い。
「今考えるべきはお前が協会にバレてる可能性だ!お前が魔術師だってのがバレるのはまだ良い!問題は絵画だ!絵画を強奪する為にやった事が協会に知られれば……」
「そこの心配は要らない。ここにまだ私が居る事が証拠だ。バレていたとしても、法に縛られたノロマ共は私達を、現時点ではどうこうする積もりが無いんだろう」
「そういう話じゃ……!」
「今考えるべきは、私の身の安全じゃない。だろう?」
元から死ぬ覚悟はできている。今更協会にバレているかも知れないなんて、考えた所でどうしようも無い事を考えるべきではない。それに、絵画が今後移動されない保証は無い。今は少しでも動くべきだ。
考えるべきは、情報の信憑性と今後の動きだ。太平洋の底ともなれば、直に行く訳にも行かない。侵入経路を見つける所から始める必要がある。出入りに制限はあるのか、どこから出入りするかを考えなければ。
「分かっているんだろう?これ以外に方法が無い。情報が無い以上は、唯一と呼んでも良い情報であるこのメモ一枚を頼りにするしか無い」
「それは……ぐむぅ……」
馬鹿の癖に他人を説き伏せようとするからこうなるんだ。まぁ、他人を心配するのは良い事だから何も言わないでおくが。
「頼んだよ。私はこれから、少し予定があるんだ。あ、代金はここね」
「……分かった……」
消え入りそうな声だな。子供っぽい彼らしくない。そんな事を考えながら、私は紅茶の代金だけ机の上に置いて、建物から去った。
どう突入するかがまだ決定していない以上、私ができる備えは無いに等しい。詰まり気長に待つしか無い訳だ。これが協会の魔術師なら、ただ時間を無駄にするだけの所だが、幸い私は協会の魔術師ではない。私には表の生活もあるのでね。
「で、僕に連絡したという訳だね?」
「そう言わないでくれよマーズ。最近羽振りが良いらしいじゃないかこの金持ちめ」
「デカいヤマがあったんでね。だけどもう……使い過ぎちゃった」
「君の浪費癖は変わらないね……」
彼の名はマーズ・ハンター。とあるバーを経営している青年だ。威厳があるかと言われればそうではないが、求心力も行動力もある。要は人徳がある。結果、良い常連達に恵まれ、今日まで店を続けられている。
しかし、彼の浪費癖はいつになったらマシになるんだろう。これでは老後の彼が心配……いや。そもそも彼が無事に老後を迎えられるかだな。まぁ、彼のしぶとさは折り紙付きなので、心配する程でもない訳だが。
「いや、今回は僕のせいなんかじゃ断じてない。酔っ払った馬鹿二人が喧嘩始めたんだよ。落ち着いた頃には酒もグラスも、壁や天井、アーケードゲームまで穴だらけだよ。今回のは僕の浪費じゃなくて、馬鹿の尻拭い代さ」
「でも、それでまた金が回ったんだろう?」
私がそう問い掛けると、マーズ君はにっこり笑いながら、大量の紙幣を取り出した。
「死んだ方に百ドル掛けてた。倍率十八倍で千八百ドルさ」
「変わらずの豪運だね」
「あぁ愛すべき馬鹿共だ」
全く以て羨ましい。それなら何か、美味しいご飯でも奢ってほしいね。
しかし、今回はそこに期待して来たんじゃない。私は彼に、一つの絵画を差し出す。どうやら喜んでくれたようで、彼はそれを受け取ってから、自分の横に置いた。
「羽振りが良いのはそっちもじゃないか」
「こないだ良いお酒をくれたお礼だよ。お代とは別のね」
「あぁ全く最高だね。コイツが穴だらけにならない事を祈ろうかな」
「祈る神も、君にはそっぽを向くだろうね」
喜んでくれて私も嬉しい限りだよ。まぁ、額縁は防弾防刃コーティング済みで、ミサイルでも飛んでこない限り、中の絵画は無事な訳だが。
「さて。本題に入っても良いかな?」
「『お礼』なんて持って来たんだし、覚悟はしてたさ」
覚悟とはこれまた……まるで悪霊や疫病神みたいな扱いだ。まぁ、今まで彼に頼んで来た事を考えれば仕方が無い事なのかも知れない訳だが。
とは言え、これが彼が選んだ仕事だ。思う存分に利用させてもらおう。私は彼に一枚の写真を渡し、ついでに彼が注文したポテトの山から一本をくすねた。彼は写真の人物を見て、あからさまに顔をしかめた。
「……まさか、『こんな見るからにヤバそうな奴を探せ』なんて言わないよね?」
「ご明察」
「人探しは探偵に頼めよこっちの仕事じゃない!」
「君程の頭脳なら現代のシャーロック・ホームズも夢じゃないだろうさ」
マーズ君は「いややるけどさ……」と言いながら、ポテトを摘まんだ。こういう所で断らないから、彼は便利なんだ。私もくすねたポテトを口に放り込みながら、にっこり笑った。
「若……これって……」
「信じられねぇ……まさか……」
俺達は、太平洋に放った式神を通じて、海底に存在する『それ』を見つめている。信じられない。巨大過ぎる。こんな物を作っておいて、一切の情報を外部に漏らさないとは……信じ難い。
「これが……ソフィアさんが言ってたという……」
巨大な神隠し。既に名を付けられているらしいそれの名を、俺は思わず呟いた。
「『エヴァラックの盾』……」
次の瞬間、俺達の式神は何者かによって消滅させられ、それ以上の偵察は不可能となった。
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