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No.3 果実
File:11 光の魔術師
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戦術を変えさせる暇を作らせない為の攻め方だったんだがな。結局余裕を与えてしまった。先程物量で押し切れなかったんだ。次は攻め手を変えて来る。
「無事だよな?」
「クッションになってくれたのは君だ。無事だよ」
「どうする?」
「相手の魔術は看破できたかい?」
「まだ」
「じゃあ、先手は譲るしか無さそうだ」
一番最初に見せた、見えない弾丸を繰り出して来るだろう。拳銃の弾丸とほぼ同じスピード……見てから避けるのは不可能。タイミング勝負になる。外せば死ぬ。外せば……
魔力!どう来る?どの方向からどの角度でどんな形状の物が……
「……え?」
そう身構えた私の体は、一瞬で後ろへ投げ飛ばされた。そして私を投げ飛ばした筈のジョセフ君は、体中に風穴を空けたまま、男へと向かって行く。私を後ろへ投げ飛ばす反作用で、自分は前に進んだ訳だ。
だが、弾丸が体を貫いている。武術と魔術である程度ごまかせる私と違って、身体能力が向上しただけのジョセフ君では、あの老人の相手は難しい。このままではジョセフ君が負ける。
そうならない為に私が居るんだろうが!今のジョセフ君が発揮している身体能力と魔術のコンボに、私のスペックでは合わせられない。魔眼を使おうにも、相手は私、ジョセフ君、自分の順に一直線になるようにしているせいで使えない。なら、相手の魔術を見破り、対策すれば良い。
何故弾丸が見えない?質量はあった。魔術で物体を具現化させ、それを高速で移動させ、弾丸として利用しているのだろう。だが、透明な材質を使った訳ではない。もしそうなら、弾丸がある所は風景が歪んで見える筈。なら、どうして……
魔術を組み合わせている?あり得る話ではあるが、詠唱も魔法陣も無しで、複数の魔術の組み合わせなんて……いや。私の常識で推し量るな。既に奴は、私の想像を超えた場所に居る。
もし魔術を組み合わせているのなら、ただ観察するだけでは見破れない。私の眼は確かに便利だが、ただ見るだけなら、起きている事を処理する能力が上がるだけでしかない。
「ぐっ!」
「何をしたかは知らんが、身体能力も再生能力も段々と元に戻って来ている。時間の問題だな」
ジョセフ君も余裕がある訳じゃない。絶えず浴びせられる見えない弾丸と、卓越した武術と魔術のせいで押されている。早くしなければ。
仕方が無い。あんまりこの手は使いたくなかったんだがな。魔眼とは別の、私の切り札。何が起こるかなんて保障できない、本当の意味での『最後の奥の手』。
写実主義は、現実を写し取る絵画。現実を見据え、現実を正しく捉え、それを一枚の紙に描き、写す。創作は現実に近付き、やがて超越する可能性すら秘めた物。ならば、全てを絵画として見据える私の眼で、それができない筈が無い。趣味ではないが、趣味を貫く余裕は無い。
私は、千里眼に魔力を流し込んだ。
どうやら、上手く一対一に持ち込めたらしい。近接戦ならどちらが来ても負けない上、不可視の弾丸も混ぜれば、こっちが一方的に叩く事も容易い。あの女が何もして来ないのは不気味だが、ジョセフに合わせられないと判断した上での決断だろう。
だが、本当に強い男だ。体を貫かれようと内臓を潰されようと腕や足を折られようと、少しも怯む事無くこちらに向かって来る。吸血鬼の再生能力があるとは言え、こんな芸当ができるとは……狂人でしかない。だが……
「狂っているだけでは、私は倒せないぞ」
「あぁそうだな!ならこういうのはどうだ!?」
鎖……血液を操る魔術か。だが今回は一味違うようだ。先端に刃がある上、鎖も無数に針が生えている。昔の私なら兎も角、今の体で受け止めれば、体中が傷だらけだ。
だが、受け止める必要は無い。強度が低いのは確認済み。散らし続けて一滴にも満たない程度の大きさにすれば操れないのも確認済み。この量を捌くのは苦労するが、短縮詠唱込みなら問題無い。
「Camouflage bullet」
四方八方、私の体に当たらない軌道で、鎖を破壊する。これで一瞬、ジョセフは血液は操れない。
「そっちに気ぃ取られてる暇あんのかよ!?」
突っ込んでくるか!体中穴だらけだろうに!流石に怯むと思ったんだが!?
だがまぁ、何も問題は無い。私はさらに弾丸を作りだした。穴だらけになりながら向かってきた根性は良いが、再生能力の低下を勘定に入れてなかった時点で、お前の負けは決まっていた。
「あるとも。お前は弱い」
「ジョセフ君!二歩後ろへ!」
その声で、ジョセフは後ろへ退いた。弾丸はジョセフの鼻先を掠めるだけに留まり、虚しく床に傷を付けた。
「ふむ……」
あの女、私の魔術を看破したのか?弾丸の軌道を予測したという事はそういう事だろう。見えている?魔眼の一種であればあり得ない話ではない。それでも、軌道を読めるような速度ではなかった筈なんだがな。
「私の魔術が分かったのか?」
「光と金属だろう?分身がジョセフ君の斧を受け止める時の金属音は、強化魔術や装備だけでは説明できない。そして、体だけすり抜ける分身と透明な弾丸……光を屈折させる事で弾丸を透明にし、分身はホログラムの要領で作っていたという所かな?」
成程。やはり大した目をしている。この短時間で私の魔術を見破るとは面白い。だが、手札が分かったからどうしたという事も無い。
「分かった所で対策できないだろう?」
「分かれば幾分かマシになる」
「無事だよな?」
「クッションになってくれたのは君だ。無事だよ」
「どうする?」
「相手の魔術は看破できたかい?」
「まだ」
「じゃあ、先手は譲るしか無さそうだ」
一番最初に見せた、見えない弾丸を繰り出して来るだろう。拳銃の弾丸とほぼ同じスピード……見てから避けるのは不可能。タイミング勝負になる。外せば死ぬ。外せば……
魔力!どう来る?どの方向からどの角度でどんな形状の物が……
「……え?」
そう身構えた私の体は、一瞬で後ろへ投げ飛ばされた。そして私を投げ飛ばした筈のジョセフ君は、体中に風穴を空けたまま、男へと向かって行く。私を後ろへ投げ飛ばす反作用で、自分は前に進んだ訳だ。
だが、弾丸が体を貫いている。武術と魔術である程度ごまかせる私と違って、身体能力が向上しただけのジョセフ君では、あの老人の相手は難しい。このままではジョセフ君が負ける。
そうならない為に私が居るんだろうが!今のジョセフ君が発揮している身体能力と魔術のコンボに、私のスペックでは合わせられない。魔眼を使おうにも、相手は私、ジョセフ君、自分の順に一直線になるようにしているせいで使えない。なら、相手の魔術を見破り、対策すれば良い。
何故弾丸が見えない?質量はあった。魔術で物体を具現化させ、それを高速で移動させ、弾丸として利用しているのだろう。だが、透明な材質を使った訳ではない。もしそうなら、弾丸がある所は風景が歪んで見える筈。なら、どうして……
魔術を組み合わせている?あり得る話ではあるが、詠唱も魔法陣も無しで、複数の魔術の組み合わせなんて……いや。私の常識で推し量るな。既に奴は、私の想像を超えた場所に居る。
もし魔術を組み合わせているのなら、ただ観察するだけでは見破れない。私の眼は確かに便利だが、ただ見るだけなら、起きている事を処理する能力が上がるだけでしかない。
「ぐっ!」
「何をしたかは知らんが、身体能力も再生能力も段々と元に戻って来ている。時間の問題だな」
ジョセフ君も余裕がある訳じゃない。絶えず浴びせられる見えない弾丸と、卓越した武術と魔術のせいで押されている。早くしなければ。
仕方が無い。あんまりこの手は使いたくなかったんだがな。魔眼とは別の、私の切り札。何が起こるかなんて保障できない、本当の意味での『最後の奥の手』。
写実主義は、現実を写し取る絵画。現実を見据え、現実を正しく捉え、それを一枚の紙に描き、写す。創作は現実に近付き、やがて超越する可能性すら秘めた物。ならば、全てを絵画として見据える私の眼で、それができない筈が無い。趣味ではないが、趣味を貫く余裕は無い。
私は、千里眼に魔力を流し込んだ。
どうやら、上手く一対一に持ち込めたらしい。近接戦ならどちらが来ても負けない上、不可視の弾丸も混ぜれば、こっちが一方的に叩く事も容易い。あの女が何もして来ないのは不気味だが、ジョセフに合わせられないと判断した上での決断だろう。
だが、本当に強い男だ。体を貫かれようと内臓を潰されようと腕や足を折られようと、少しも怯む事無くこちらに向かって来る。吸血鬼の再生能力があるとは言え、こんな芸当ができるとは……狂人でしかない。だが……
「狂っているだけでは、私は倒せないぞ」
「あぁそうだな!ならこういうのはどうだ!?」
鎖……血液を操る魔術か。だが今回は一味違うようだ。先端に刃がある上、鎖も無数に針が生えている。昔の私なら兎も角、今の体で受け止めれば、体中が傷だらけだ。
だが、受け止める必要は無い。強度が低いのは確認済み。散らし続けて一滴にも満たない程度の大きさにすれば操れないのも確認済み。この量を捌くのは苦労するが、短縮詠唱込みなら問題無い。
「Camouflage bullet」
四方八方、私の体に当たらない軌道で、鎖を破壊する。これで一瞬、ジョセフは血液は操れない。
「そっちに気ぃ取られてる暇あんのかよ!?」
突っ込んでくるか!体中穴だらけだろうに!流石に怯むと思ったんだが!?
だがまぁ、何も問題は無い。私はさらに弾丸を作りだした。穴だらけになりながら向かってきた根性は良いが、再生能力の低下を勘定に入れてなかった時点で、お前の負けは決まっていた。
「あるとも。お前は弱い」
「ジョセフ君!二歩後ろへ!」
その声で、ジョセフは後ろへ退いた。弾丸はジョセフの鼻先を掠めるだけに留まり、虚しく床に傷を付けた。
「ふむ……」
あの女、私の魔術を看破したのか?弾丸の軌道を予測したという事はそういう事だろう。見えている?魔眼の一種であればあり得ない話ではない。それでも、軌道を読めるような速度ではなかった筈なんだがな。
「私の魔術が分かったのか?」
「光と金属だろう?分身がジョセフ君の斧を受け止める時の金属音は、強化魔術や装備だけでは説明できない。そして、体だけすり抜ける分身と透明な弾丸……光を屈折させる事で弾丸を透明にし、分身はホログラムの要領で作っていたという所かな?」
成程。やはり大した目をしている。この短時間で私の魔術を見破るとは面白い。だが、手札が分かったからどうしたという事も無い。
「分かった所で対策できないだろう?」
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