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No.6 後悔
File:1 『絵画保管状況』
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私達が未知の世界で死闘を演じたなんと二日後。異例の速さでジョセフ君から呼び出された。『なるべく会わない』みたいな話はどこへ消えたんだか……まぁ、私は別にどちらでも良い訳だが。
ジョセフ君のカフェに向かうと、前に見た時と比べ、明らかに人が増えていた。満席という訳ではないが、前は二人や三人程度だったのが、十人程度に増えている。全員退店するまでまっていられる程利口じゃない私は、見慣れたドアを慣れない感覚で開け、微妙に賑わう店内に入る。
「おぉソフィア。もうちょい待っててくれるか?」
「見たら分かるとも。ポテトとコーヒーを頼むよ」
いつも座っている窓際の席が取られていたので、店の端の方にある、別の席に座った。同じ建物の同じ内装の筈なのに、座る場所が違うだけで景色はそこそこ変わる。私は慣れない光景に少し胸を躍らせながら、思っていたよりも早く来たコーヒーカップを手に取った。
「人が多いようだね」
「インターネットってやっぱスゲェんだな」
「全くその通りだよ。それと、私はここで待っているから、安心すると良い」
「あぁ分かった。ありがとな」
考えてみれば、この店のフライドポテトを食べるのは初めてな気がする。時間を潰す意味合いも込めて、冷め過ぎない程度に味わって食べよう。
店内から私以外の客が消えたのは、それから二十分後の事だった。ジョセフ君は私の向かいの席に座って、「よう」と言いながら、最後に一本残っていたポテトを口に放り込んだ。
「……冷めていたとは言え、余り褒められた行為ではないね」
「別に良いだろ?いつもの席じゃねぇから不機嫌になってんのか?」
「私以外にはするなという話だよ」
「へいへい。次この店に来る時は、あの席に予約入れといてやるから許してくれ」
「許すと言っているんだがねぇ……」
とは言ったものの、そこらのファストフード店で出る物よりも美味しかっただけに残念だ。今度は冷めない内に全部食べてしまおう。
「で、本題というのは?」
「二日前のSDカードだよ。ボスからお達しが入ってな。俺とお前で中身を確認して、内容をまとめてレポートで渡せってよ」
内容確認を丸投げとは。『黒猫』を殺すのは、私が思っているよりは急務ではないのか、それとも反社会的勢力の頭ともなると、一々こんなカードの中身に目を通してもいられない程忙しいのか。いやそれでもしかし……
「妙だね」
「やっぱそう思うよな」
私はジョセフ君の相棒的なポジションに収まってはいるが、彼の組織に入った訳ではない。私と彼が関わりを持っている事を黙認している事はまだ理解できるが、私を名指しした上で、同じ作業をするように言うのは明らかにおかしい。
何か思惑があるのは確実。そういうのが得意でなければ、巨大な組織の頭などやっていられないだろう。しかしその核心が掴めない。名前も顔も知らないような他人に、都合の良い人形として扱われるのは御免だ。
「取り敢えず応じよう。この状況では、そうするしか無い」
「……意外だな。断るか相当嫌がるかと思っていたんだが」
「茨だろうが石畳だろうが、道である事には変わらない。歩き始めればね」
「嫌味として受け取っておくぜ」
「君が賢くて助かったよ」
ジョセフ君はパソコンにカードを挿入し、表示されたファイルを開く。暗号化されている訳でも圧縮されている訳でもないらしいファイルは、馬鹿正直に自分の中身を晒した。
「……『Untitled』ばっかだな」
「しかも多い。一つ一つ目を通すのは骨が折れそうだ」
「ま、やるしか無ぇよな」
ジョセフ君は面倒臭そうな表情をしながら、一つ目のファイルを開いた。するとその中にも無数のファイル。その一番上のファイルを開くと、更に無数のファイル。その一番上を開くと、更に無数のファイル。その一番上を開くと……
「だぁ~クソ!マトリョーシカ万引きした覚えは無ぇぞ俺ぁ!」
「あるだろう一度位。私は無いが」
「無ぇわ!あ~クソ虎の子だ」
ジョセフ君は一個のUSBを取り出し、それをパソコンに差し込んだ。すると画面に瞳をデフォルメしたかのようなアイコンが現れ、『こんにちは。私はAI『Todomeki』です』と自己紹介をした。
「彼は?」
「俺の兄弟が開発したAI。コイツならある程度の情報が纏められてるファイルを選別、表示できる」
「便利だね」
彼の組織に多用な人材が揃っている事は知っていたが……人工知能の開発までやっているとは思わなかった。と言うかなんで最初から使わなかったんだ?まぁ別に良いんだが……
二秒程度のロードの後、画面に表示されたファイルはたった一つ。『絵画保管状況』というファイルだけだった。まさかあれだけの量のファイルがあって、何か意味ありげなファイルはたったこれだけとは……何とも嫌がらせが得意そうな奴らだ。
しかし『絵画』ねぇ……十中八九『魔女の絵画』だろう。これで、『黒猫』が私と対立する理由が見つかった。今後も面倒は多そうだ。
「よくやったトド。ソフィア。覚悟は良いな?」
「何の覚悟なのかな?まぁ、大丈夫だよ」
「よーしじゃあ……開くぞ」
ジョセフ君がそのファイルを開くと、いくつかの絵画のタイトルが表示された。そしてその中には、私が保管している絵画も含まれている。勿論、『絵画泥棒』として協会にマークされる前から所持している物もだ。
「……どれから見る?」
「そうだね……『No.6 後悔』を見よう」
これは私が、一番最初に手に入れた絵画のタイトルだ。どういう風に書かれているのかも気になるが、それ以上に少し思い入れのある作品なだけに、最初に見ておきたい。勿論、私の思い入れについては掛かれていないだろうが。
「了解。じゃ、表示っと……」
『魔女の絵画 No.6 後悔
所持者 【削除済み】→【削除済み】→ソフィア・アンデルセン
協会内部の構成員【削除済み】に絵画を譲渡した後、ソフィア・アンデルセンによって、当該人物が殺害された。殺害された構成員はゴールドクラス魔術師だった為、ソフィア・アンデルセンを要警戒対象とする。
ボスの決定に従い、今後組織の障害は、ソフィア・アンデルセンを利用して排除する事に決定。手順以下の通りとする。
【削除済み】
ソフィア・アンデルセンは危険である。なるべく早くに始末する事を提言すると共に、記録を終了する。』
表示された文章を読み終わった時、ジョセフ君は状況を飲み込み切れていないようで、「そんな……まさか……」としきりに声を漏らしている。私は私で、この文章から読み取れる情報を、必死に脳内で組み上げながら、それを声に出す。それは、今までの都合の良い全てを説明するような、信じ難いような事実だ。
「これじゃあ……これじゃあまるで……」
「今までの行動の全てが何者かによって仕組まれたような……」
そう言い掛けた瞬間、ジョセフ君の携帯電話が声を上げた。彼がその画面を表示すると、そこには短く二文字。『ボス』と表示されていた。彼はスピーカーをオンにして、通話を始める。
「何の用ですかボス」
『ソフィアを連れて家に来い』
「は?なんで……」
通話はそれだけを言い残して終了された。ジョセフ君は茫然と、今自分を取り巻く情報を咀嚼しようともがいている。しかし私は、今までに何度も、数え切れない程何度も繰り返して来た予感を噛み締めている。
「……嫌な感じだ」
この予感がする時はいつも、私の命が脅かされる時だ。
ジョセフ君のカフェに向かうと、前に見た時と比べ、明らかに人が増えていた。満席という訳ではないが、前は二人や三人程度だったのが、十人程度に増えている。全員退店するまでまっていられる程利口じゃない私は、見慣れたドアを慣れない感覚で開け、微妙に賑わう店内に入る。
「おぉソフィア。もうちょい待っててくれるか?」
「見たら分かるとも。ポテトとコーヒーを頼むよ」
いつも座っている窓際の席が取られていたので、店の端の方にある、別の席に座った。同じ建物の同じ内装の筈なのに、座る場所が違うだけで景色はそこそこ変わる。私は慣れない光景に少し胸を躍らせながら、思っていたよりも早く来たコーヒーカップを手に取った。
「人が多いようだね」
「インターネットってやっぱスゲェんだな」
「全くその通りだよ。それと、私はここで待っているから、安心すると良い」
「あぁ分かった。ありがとな」
考えてみれば、この店のフライドポテトを食べるのは初めてな気がする。時間を潰す意味合いも込めて、冷め過ぎない程度に味わって食べよう。
店内から私以外の客が消えたのは、それから二十分後の事だった。ジョセフ君は私の向かいの席に座って、「よう」と言いながら、最後に一本残っていたポテトを口に放り込んだ。
「……冷めていたとは言え、余り褒められた行為ではないね」
「別に良いだろ?いつもの席じゃねぇから不機嫌になってんのか?」
「私以外にはするなという話だよ」
「へいへい。次この店に来る時は、あの席に予約入れといてやるから許してくれ」
「許すと言っているんだがねぇ……」
とは言ったものの、そこらのファストフード店で出る物よりも美味しかっただけに残念だ。今度は冷めない内に全部食べてしまおう。
「で、本題というのは?」
「二日前のSDカードだよ。ボスからお達しが入ってな。俺とお前で中身を確認して、内容をまとめてレポートで渡せってよ」
内容確認を丸投げとは。『黒猫』を殺すのは、私が思っているよりは急務ではないのか、それとも反社会的勢力の頭ともなると、一々こんなカードの中身に目を通してもいられない程忙しいのか。いやそれでもしかし……
「妙だね」
「やっぱそう思うよな」
私はジョセフ君の相棒的なポジションに収まってはいるが、彼の組織に入った訳ではない。私と彼が関わりを持っている事を黙認している事はまだ理解できるが、私を名指しした上で、同じ作業をするように言うのは明らかにおかしい。
何か思惑があるのは確実。そういうのが得意でなければ、巨大な組織の頭などやっていられないだろう。しかしその核心が掴めない。名前も顔も知らないような他人に、都合の良い人形として扱われるのは御免だ。
「取り敢えず応じよう。この状況では、そうするしか無い」
「……意外だな。断るか相当嫌がるかと思っていたんだが」
「茨だろうが石畳だろうが、道である事には変わらない。歩き始めればね」
「嫌味として受け取っておくぜ」
「君が賢くて助かったよ」
ジョセフ君はパソコンにカードを挿入し、表示されたファイルを開く。暗号化されている訳でも圧縮されている訳でもないらしいファイルは、馬鹿正直に自分の中身を晒した。
「……『Untitled』ばっかだな」
「しかも多い。一つ一つ目を通すのは骨が折れそうだ」
「ま、やるしか無ぇよな」
ジョセフ君は面倒臭そうな表情をしながら、一つ目のファイルを開いた。するとその中にも無数のファイル。その一番上のファイルを開くと、更に無数のファイル。その一番上を開くと、更に無数のファイル。その一番上を開くと……
「だぁ~クソ!マトリョーシカ万引きした覚えは無ぇぞ俺ぁ!」
「あるだろう一度位。私は無いが」
「無ぇわ!あ~クソ虎の子だ」
ジョセフ君は一個のUSBを取り出し、それをパソコンに差し込んだ。すると画面に瞳をデフォルメしたかのようなアイコンが現れ、『こんにちは。私はAI『Todomeki』です』と自己紹介をした。
「彼は?」
「俺の兄弟が開発したAI。コイツならある程度の情報が纏められてるファイルを選別、表示できる」
「便利だね」
彼の組織に多用な人材が揃っている事は知っていたが……人工知能の開発までやっているとは思わなかった。と言うかなんで最初から使わなかったんだ?まぁ別に良いんだが……
二秒程度のロードの後、画面に表示されたファイルはたった一つ。『絵画保管状況』というファイルだけだった。まさかあれだけの量のファイルがあって、何か意味ありげなファイルはたったこれだけとは……何とも嫌がらせが得意そうな奴らだ。
しかし『絵画』ねぇ……十中八九『魔女の絵画』だろう。これで、『黒猫』が私と対立する理由が見つかった。今後も面倒は多そうだ。
「よくやったトド。ソフィア。覚悟は良いな?」
「何の覚悟なのかな?まぁ、大丈夫だよ」
「よーしじゃあ……開くぞ」
ジョセフ君がそのファイルを開くと、いくつかの絵画のタイトルが表示された。そしてその中には、私が保管している絵画も含まれている。勿論、『絵画泥棒』として協会にマークされる前から所持している物もだ。
「……どれから見る?」
「そうだね……『No.6 後悔』を見よう」
これは私が、一番最初に手に入れた絵画のタイトルだ。どういう風に書かれているのかも気になるが、それ以上に少し思い入れのある作品なだけに、最初に見ておきたい。勿論、私の思い入れについては掛かれていないだろうが。
「了解。じゃ、表示っと……」
『魔女の絵画 No.6 後悔
所持者 【削除済み】→【削除済み】→ソフィア・アンデルセン
協会内部の構成員【削除済み】に絵画を譲渡した後、ソフィア・アンデルセンによって、当該人物が殺害された。殺害された構成員はゴールドクラス魔術師だった為、ソフィア・アンデルセンを要警戒対象とする。
ボスの決定に従い、今後組織の障害は、ソフィア・アンデルセンを利用して排除する事に決定。手順以下の通りとする。
【削除済み】
ソフィア・アンデルセンは危険である。なるべく早くに始末する事を提言すると共に、記録を終了する。』
表示された文章を読み終わった時、ジョセフ君は状況を飲み込み切れていないようで、「そんな……まさか……」としきりに声を漏らしている。私は私で、この文章から読み取れる情報を、必死に脳内で組み上げながら、それを声に出す。それは、今までの都合の良い全てを説明するような、信じ難いような事実だ。
「これじゃあ……これじゃあまるで……」
「今までの行動の全てが何者かによって仕組まれたような……」
そう言い掛けた瞬間、ジョセフ君の携帯電話が声を上げた。彼がその画面を表示すると、そこには短く二文字。『ボス』と表示されていた。彼はスピーカーをオンにして、通話を始める。
「何の用ですかボス」
『ソフィアを連れて家に来い』
「は?なんで……」
通話はそれだけを言い残して終了された。ジョセフ君は茫然と、今自分を取り巻く情報を咀嚼しようともがいている。しかし私は、今までに何度も、数え切れない程何度も繰り返して来た予感を噛み締めている。
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