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No.7 天籟
File:16 封印
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夢だ。昔よく来ていた広場に寝転んでいる。晴れている。雲は無い。晴天だ。太陽が見えている。真夜中のように暗い。
光が見えた。こちらへ手を伸ばしているようにも見える。それに手を伸ばす。手を取る。手に引っ張られる。上へ向かって行く。
逆側へ引っ張られた。その方向へ目を向ける。沢山の蛇が居る。喉や手足に巻き付いて来る。ソレは口を開いた。
「だめだよ」
なつかしいこえのようなきがした。
病室の扉を開けると、白衣を来た数人の魔術師共がソフィアを検査しながら、話し合っていた。俺は魔術師共の間を縫うようにして、ソフィアが寝かされていたベッドの直ぐ横へ来た。ソフィアははっきりとしない表情を浮かべながら、上体を起こしている。
「腐り落ちた部分の修復は済んだんだな」
「皮膚の再生は簡単ですし、筋肉も完全に腐り落ちる前でしたから。内臓が腐るより早く済んだのが、最大の幸運でした」
「感謝する」
ソフィアは微動だにしない。焦点の合わない目でどこかを見つめている。まだ意識がはっきりしてねぇのか?まぁ、腹部がかなり腐食してたらしいから、それを再生した反動とでも考えれば自然か。
「ソフィア。大丈夫か?」
「あぁジョセフ君か。大丈夫だけど……全身が怠い……」
「魔術の反動です。食事を摂って休めば一日で治りますよ。一応、献立はこっちで組んでおきますので」
「ありがとう」
これで一安心……と思った途端、俺の腹が大きく声を上げた。一晩中動き回ってたんだから当たり前な事だが、かなり腹が減った。それを今まで自覚してなかった辺り、俺は自分で思ってた以上にソフィアが心配だったんだな。気付いてなかっただけで。
「……済まん」
「仕方が無いですよ。この時間でしたら……もう食堂は開いてると思いますので、是非ご利用ください。私もこれから朝食です」
「助かる。じゃあソフィア、またな」
「あぁ。また後で」
食堂の場所はもう頭に入ってる。俺は白衣を来た魔術師の横を歩き、食堂へ向かう。騒がしいのは変わらないが、さっき病室へ向かってた時よりも人が多い気がする。
「そう言えば、お二人はどの位ロンドンに滞在されるので?」
「今んとこハッキリ決めちゃいねぇが……なるべく早いとこ、日本に行きてぇな」
「日本ですか。退魔師のお知り合いでも?」
「まぁ、そんな所だ」
人が多い割に食堂は空いてるんだな。朝食抜いてでも研究を続けたいのか、それともこの騒がしさの原因に気を取られ、朝食を食べる余裕が無いのか……
まぁどちらにしても、俺には関係無ぇ話だ。並ぶ手間も、他人を気にする必要も無いという事実の方が、俺にとっては重要だ。俺は長机に並べられたトレーの中から、卵やベーコン、野菜を皿に取って行く。
「日本に行くとして、行っとくべき場所や行っといた方が良い場所ってあるか?」
「東京ですか?」
「日本の協会本部があるんだろ?なら東京だ」
「浅草とか良いと思いますよ?前に一回行った事があるんですよ。人気の観光地なので人が頑丈な塀のようになりますが……」
「気にしねぇよ。観光地なんてそんな物だろ?」
クロワッサン二個で朝食の盛り付けを皿に締め括った俺は、適当な場所に座って朝食を食べ始めた。向かい側の席には勿論、ここまで一緒に歩いて来た、白衣を着た魔術師が座っている。考えてみれば、ソフィア以外の人間と飯を食う事自体、かなり久し振りな気がする。だからと言って何か物思いに耽る事も無ぇが。
「そういや、なんでこんな騒がしいんだ?」
「私は一晩中あの病室に居たので、分かりません」
「ま、そりゃそうか。前にこんな事は無かったんだろ?」
「そうですね~……あぁいえ。私が覚えている限り、一度だけありました」
一度はあったのか。これと同等に騒がしかった事が前に一度はあったのか。有名なロックスターが地元に来ると知った時のファンの如き騒がしさが、この施設の中で最低二度はあったのか。
「何があったんだ?」
「大物の神秘学者が急にロンドンに来たとかで、問題が起こってないかの確認らしかったです」
「そりゃ大騒ぎにもなるか」
「とは言っても、私は医療班ですから。誰が来たとかは然程気にしてないんですよね……」
「そんなもんだろ。煩いのは少しアレだがな?」
「まぁそうですよね」
飯に然程気を使ってねぇのか、あんま旨くねぇな。不味いって程でもねぇが、栄養補給の効率重視で、味は二の次って感じだ。まぁ文句を言う程でもねぇし良いか。一人でコレを食わうに済んだ幸運に感謝しよう。
「そうだ。例の絵画は今どうなってんだ?リアムから『お前達に譲る』って言われたんだが」
「絵画であれば、ジョセフさんが持ってきた宝石と並行して封印作業が進んで居ます。とは言え、お渡しできるのは三日後とかですかね……」
三日か……まぁ、触れた部分が腐食するとか冗談じゃねぇしな。安全を考慮してって話なら、妥当な日数か。
とは言え、長い物は長い。三日間どうやって暇を潰すか考えねぇとだな……まぁどうせ、ソフィアの行きたい所を見て回ってるだけで終わるような日数だろう。幸い身の安全は保障されてる。精々観光させてもらうか。
「にしてもリアムさんのように厳格な人が、協会に所属していない人間に絵画を譲るとは驚きです」
「絶対に逆らえねぇ怖~い奴に言われたんだと」
「リアムさんを脅せる人って実在するんですかね……」
「さぁな。だがまぁ……世界は広いんだ一人位要るだろうさ」
俺は食器を返却口へ置いて、もう一度ソフィアの病室へ向かって歩き始めた。
光が見えた。こちらへ手を伸ばしているようにも見える。それに手を伸ばす。手を取る。手に引っ張られる。上へ向かって行く。
逆側へ引っ張られた。その方向へ目を向ける。沢山の蛇が居る。喉や手足に巻き付いて来る。ソレは口を開いた。
「だめだよ」
なつかしいこえのようなきがした。
病室の扉を開けると、白衣を来た数人の魔術師共がソフィアを検査しながら、話し合っていた。俺は魔術師共の間を縫うようにして、ソフィアが寝かされていたベッドの直ぐ横へ来た。ソフィアははっきりとしない表情を浮かべながら、上体を起こしている。
「腐り落ちた部分の修復は済んだんだな」
「皮膚の再生は簡単ですし、筋肉も完全に腐り落ちる前でしたから。内臓が腐るより早く済んだのが、最大の幸運でした」
「感謝する」
ソフィアは微動だにしない。焦点の合わない目でどこかを見つめている。まだ意識がはっきりしてねぇのか?まぁ、腹部がかなり腐食してたらしいから、それを再生した反動とでも考えれば自然か。
「ソフィア。大丈夫か?」
「あぁジョセフ君か。大丈夫だけど……全身が怠い……」
「魔術の反動です。食事を摂って休めば一日で治りますよ。一応、献立はこっちで組んでおきますので」
「ありがとう」
これで一安心……と思った途端、俺の腹が大きく声を上げた。一晩中動き回ってたんだから当たり前な事だが、かなり腹が減った。それを今まで自覚してなかった辺り、俺は自分で思ってた以上にソフィアが心配だったんだな。気付いてなかっただけで。
「……済まん」
「仕方が無いですよ。この時間でしたら……もう食堂は開いてると思いますので、是非ご利用ください。私もこれから朝食です」
「助かる。じゃあソフィア、またな」
「あぁ。また後で」
食堂の場所はもう頭に入ってる。俺は白衣を来た魔術師の横を歩き、食堂へ向かう。騒がしいのは変わらないが、さっき病室へ向かってた時よりも人が多い気がする。
「そう言えば、お二人はどの位ロンドンに滞在されるので?」
「今んとこハッキリ決めちゃいねぇが……なるべく早いとこ、日本に行きてぇな」
「日本ですか。退魔師のお知り合いでも?」
「まぁ、そんな所だ」
人が多い割に食堂は空いてるんだな。朝食抜いてでも研究を続けたいのか、それともこの騒がしさの原因に気を取られ、朝食を食べる余裕が無いのか……
まぁどちらにしても、俺には関係無ぇ話だ。並ぶ手間も、他人を気にする必要も無いという事実の方が、俺にとっては重要だ。俺は長机に並べられたトレーの中から、卵やベーコン、野菜を皿に取って行く。
「日本に行くとして、行っとくべき場所や行っといた方が良い場所ってあるか?」
「東京ですか?」
「日本の協会本部があるんだろ?なら東京だ」
「浅草とか良いと思いますよ?前に一回行った事があるんですよ。人気の観光地なので人が頑丈な塀のようになりますが……」
「気にしねぇよ。観光地なんてそんな物だろ?」
クロワッサン二個で朝食の盛り付けを皿に締め括った俺は、適当な場所に座って朝食を食べ始めた。向かい側の席には勿論、ここまで一緒に歩いて来た、白衣を着た魔術師が座っている。考えてみれば、ソフィア以外の人間と飯を食う事自体、かなり久し振りな気がする。だからと言って何か物思いに耽る事も無ぇが。
「そういや、なんでこんな騒がしいんだ?」
「私は一晩中あの病室に居たので、分かりません」
「ま、そりゃそうか。前にこんな事は無かったんだろ?」
「そうですね~……あぁいえ。私が覚えている限り、一度だけありました」
一度はあったのか。これと同等に騒がしかった事が前に一度はあったのか。有名なロックスターが地元に来ると知った時のファンの如き騒がしさが、この施設の中で最低二度はあったのか。
「何があったんだ?」
「大物の神秘学者が急にロンドンに来たとかで、問題が起こってないかの確認らしかったです」
「そりゃ大騒ぎにもなるか」
「とは言っても、私は医療班ですから。誰が来たとかは然程気にしてないんですよね……」
「そんなもんだろ。煩いのは少しアレだがな?」
「まぁそうですよね」
飯に然程気を使ってねぇのか、あんま旨くねぇな。不味いって程でもねぇが、栄養補給の効率重視で、味は二の次って感じだ。まぁ文句を言う程でもねぇし良いか。一人でコレを食わうに済んだ幸運に感謝しよう。
「そうだ。例の絵画は今どうなってんだ?リアムから『お前達に譲る』って言われたんだが」
「絵画であれば、ジョセフさんが持ってきた宝石と並行して封印作業が進んで居ます。とは言え、お渡しできるのは三日後とかですかね……」
三日か……まぁ、触れた部分が腐食するとか冗談じゃねぇしな。安全を考慮してって話なら、妥当な日数か。
とは言え、長い物は長い。三日間どうやって暇を潰すか考えねぇとだな……まぁどうせ、ソフィアの行きたい所を見て回ってるだけで終わるような日数だろう。幸い身の安全は保障されてる。精々観光させてもらうか。
「にしてもリアムさんのように厳格な人が、協会に所属していない人間に絵画を譲るとは驚きです」
「絶対に逆らえねぇ怖~い奴に言われたんだと」
「リアムさんを脅せる人って実在するんですかね……」
「さぁな。だがまぁ……世界は広いんだ一人位要るだろうさ」
俺は食器を返却口へ置いて、もう一度ソフィアの病室へ向かって歩き始めた。
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