怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.8 ふじのやま

File:6 契約履行

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 協会まで絵画を持ち帰り、事情を知っているらしい退魔師達にそれを渡した。どうやらソウスケ達は留守にしているらしく、嬉しい事に自由時間が訪れた。
 取り敢えず、あの記録媒体を見るか。俺にはもう、『黒猫』を追う義理は無ぇ。興味本位で踏み込んで良い人間なのかも分からねぇ。それでも、奴はソフィアとただならぬ関わりがある。自然じゃなくとも当然、知りたいとは思う。
 俺は資料室のパソコンを拝借し、記録媒体に保存されていたファイルの中身を確認する。どうやら以前のように、『Untitled』で埋め尽くされているなんて事は無いらしい。さてどれから手を付けようか……俺は一番上に表示されていたファイルを開き、保存されていた文章を表示する。
 日本語か……読めねぇ事も無ぇ。取り敢えずこのまま進めるか。読めねぇ所があれば英語への翻訳を通せば良い。今は時間が惜しい。

『指令

・絵画『ふじのやま』を保管せよ。
・当該の絵画の使用、研究は、原則として自由とする。
・当該の絵画を構成員が使用する場合、可能な限り協力せよ。
・当該の絵画が強奪されかねないと判断した場合に限り、殺人を許可とする。


 追伸

 ジョセフ・ラインハルトが現れた場合、拘束、確保せよ。不可能と判断した場合は、可能な限り肉体を完全な状態のまま保存せよ。』

 ……短ぇな。まぁ、指令ってだけならこの程度か。他のファイルを調べよう。

『研究

 二〇二六年 六月十日

 協会によって絵画の中に確認された、『魔法の断片』について研究する。私は魔力を使用できないが、魔法の研究は、神秘の解明に大きく貢献できる事だろう。
 ドイツから来た【編集済み】の協力の元、絵画の中に存在する特異な気配を一つの塊として抽出する。魔術、退魔の術の二つを用いて、同時並行で絵画を解析する。

 結果

 一年に渡る研究の結果、絵画の中の特異な存在を確認し、その存在特有の波長の記録に成功した。これにより、魔法の断片の抽出に関する研究の効率化が可能となった。
 尚、抽出に関しては、絵画の補修に関する魔術を使用した場合のみ、一定の効果を得られる事が確認できた。しかし抽出には至らず、今後、魔術の運用方法を変える事で、この試みを続ける。』

 魔女の絵画を集めるのではなく、魔女の絵画を研究する事で、直接魔法を扱えるようにする実験か。確かに、百枚ある絵画を強奪し合うよりも建設的に思えるが、まぁ確実じゃねぇわな。
 しかし黒猫の奴ら、随分と魔女の絵画の収集、研究にお熱だな。アダルトビデオを見ようとする思春期のガキかよ。まぁ、ソフィアも同じようなモンか?兎に角、次のファイルを見よう。

『研究

 二〇二八年 八月二十七日

 魔法の断片の抽出に関して、大きな進展があった為、記録する。
 絵画から特定の物質、物体を取り出す事に特化したこの魔術を使用する事により、絵画から魔法の断片と思われる存在を一時的、また部分的に抽出する事に成功した。これにより、研究を第二段階へ移行する。
 今後は、魔法の断片と思われる存在を解析する事とする。現代では存在しない魔法のサンプルを解析する事で、魔法を現代魔術体系に組み込む事を可能とする試みだ。尚、魔法の断片の抽出に関する研究も、並行して行う物とする。』

 続きは……無ぇな。研究に関するが居るはたった二つか?まぁ良い。だが奴ら、相当凄ぇ実験をしてやがるな。保守的で安全第一な協会じゃ、中々できねぇ研究だ。その上ある程度成果も伴ってると来た。黒猫ってのは、腕の良い神秘学者達の集まりらしい。
 もし、魔法を現代の魔術体系に組み込めたなら、魔力を扱う事ができる全ての人間が魔法を使える事になるだろう。研究自体は応援してぇが……少なくとも今までの行いで、俺は奴らから敵視されている事だろう。『ジョセフが来たら拘束しろ。殺しても死体は残せ』なんてわざわざ指令の追伸で言う位だし、相当嫌われてるな。多分拷問の末に殺すか、死体を剥製にでもして飾るつもりだろ。最悪だ。
 他のファイルは……日毎の細かい研究結果か。これを全部読んでる暇は無ぇな。二年分丸々とかやってられねぇわ。
 進展と言えるかは甚だ疑問だが……取り敢えず、黒猫の中期目的が魔法の再現だって事は分かった。だがにしては、わざわざ絵画を協会の奴に渡して、俺達を利用してそいつらを消す意味が無ぇ。自分の手を汚さずに邪魔者を消すってんならそれでも良いが、わざわざ絵画をソフィアに渡す理由は何だ?
 いやそうか。黒猫はソフィアを殺そうとしていた。それは奴らにとってのソフィアが、とうに有益な存在でなくなった事を示している。そうなってしまえば、ソフィアは大量の絵画を保有した一介の魔術師に過ぎない。奴らはソフィアを殺す事で、奴に渡した全ての絵画と、恐らくその他にもソフィアが収集していたであろう絵画を全て奪い去る気だ。
 黒猫がどこまで無茶をするかも分からねぇ。もし奴らが予想以上の度胸と思い切りの良さと素敵な脳味噌を持っていた場合、ファミリーの施設にわざわざ殴り込みに行かねぇとも限らねぇ。そしてそうなれば、ファミリーがソフィアに対して何をやるかも分からねぇ。やっぱ最優先は、ソフィアの安全確保だ。
 さてどうする?ソフィアの近くにはボスも居る事だろう。日本のダイアモンドクラス六人が味方になったとは言っても、ボスに勝てる保証は無ぇ。やっぱボスが居ねぇ所を狙って襲撃。戦闘を避けてソフィアを確保したらさっさと退散が一番……
「調べ物とは、存外真面目なんだな」
「……驚かすなよソウスケ」
「準備ができた。来い」
「へいへい分かりましたよ~。丁度、良いタイミングだったしな」
 ソウスケは「そうか」と言いながら振り返り、さっさと資料室を出て行った。俺はそれを追い掛けるように、資料室を出る。
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