怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.9 死に至る病

File:9 襲撃者

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 俺たちが塀に隠れてから、敵は一発も撃って来ねぇ。俺たちと敵の間に塀が挟まってる状況なのか、それとも様子見してるだけなのか……どちらにせよ、敵の居場所を早々に特定しねぇ事には話にならねぇよな。
「ソフィア。敵を探して来るが、良いか?」
「あぁ勿論。こっちも上手くやり過ごすから、心配しないでくれ」
 一体どこまで俺の考えを見透かしてんだか……ま、良いか。俺は全身を蝙蝠の群れに変化させ、恐らく弾丸が飛んで来たのであろう方向に向かって飛ばした。これで敵が見つかるのも恐らく時間の問題。後はソフィアが無事に生き残れるかどうか。敵は俺たちを殺そうとしてる訳だから、どうも心配だ。
 あぁいやそんな事を考えてる場合じゃねぇ。さっさと見つけて殺せば良い話だ。先手は取られたが、もうヘマはしねぇ。俺自身は撃たれても平気なんだ。こっちに狙いを定めさせるような行動を取れ。
 突然、蝙蝠の群れにいくつかの銃弾が突き刺さった。勿論それに当たったのは両手で数え切れる程度の数な上、既に再生して問題無く飛行できている。今の弾丸のお陰で、敵のおおまかな居場所も分かった。俺はそこへ向けて数匹の蝙蝠を向かわせる。
 しかしそこに人影は無く、また人が居たような痕跡も無かった。あったのは巨大な犬……或いは狼の足跡だけだった。俺はその足跡を調べながら、敵が向かった方向を推理し始める。
 向かったのは……不味いな。ソフィアが居る方向だ。アイツも隠れちゃいるだろうが、安心はできねぇ。そもそもなんだこの足跡。使い魔の上に乗って移動してやがるのか?確かにそれなら消音かつ高速の移動手段になる。魔力を感じねぇのは……良く飼いならされてるか、そういう魔術を使ってると考えて良いだろう。腕の良い魔術師だ。
 敵が比較的高速で移動してんなら、蝙蝠の群れの状態じゃ追い付けねぇ。俺は蝙蝠の群れを一か所に集め、再び俺の全身を形成しながら走り出す。
 しかしその瞬間、真横から俺の心臓に向けて銀の短剣が突き出された。俺はそれを間一髪防ぎ、脇腹に拳を叩き込む。だがその拳は、鋼鉄で作られた鎧……のように硬い、鱗によって防がれた。
 自然と、視線が合う。俺はその目を知っている。俺はその顔を知っている。それは敵も同じ事。口角を上がる。他にも考えるべき事はある筈だが、俺はそれを頭から無くしてでも、

「会いたかったぜ四人目。二か月振りだ」

「私もだ三人目。ずっと、貴様の事ばかり考えていた」

 熱烈なプロポーズに感涙を流す暇も無く、俺たちは殺し合いを始めた。


 取り敢えず民家の地下室に隠れてみたが……どうやらここは防犯意識が低い家庭のようだ。お陰で助かる。ピッキングを覚えておいて助かった。やはり身に付けておくべきは、命を救える教養か。
 放って来てしまったが、オオツカは生きているだろうか。流石に死んでいないとは思うが……霊力で強化していなければ、彼もただの人だろう。そこに弾丸を打ち込まれたとなれば、ただでは済まない筈だ。
 しくじったなぁ……先手を取られたのもそうだが、敵が直ぐにでも攻撃できる可能性を排除できていないのにも関わらず、監視カメラを見付けて直ぐに隠れようとしなかった。私の失態だ。
 外は静かだ。まだ戦闘が始まっていないのか、それとも遠方で始まったのか……いずれにせよ、早く終わる事を願うばかりだ。私も戦闘に参加できれば、幾分かマシだったんだろうが、今の私ではジョセフ君の足手纏いになるだけだ。我慢しなければ。
 しかし突然、地下室への扉が何者かによって破壊された。私は身構え、その方向を睨み付ける。しかし敵の姿は五秒経っても現れず、ただ不気味な余韻だけが私の感覚器官に届く。
 私は懐から拳銃を取り出し、それを前方へ構え、深呼吸しながら壁に沿うように置かれた棚まで後退る。棚と背中がぶつかった所で私は横へ移動し始め、一回へ続く階段へ登ろうとする。この家の持ち主には申し訳無いが、ここを破壊すれば逃げられるかも知れない。私は構えを解き、扉を蹴破ろうとする。
 しかし次の瞬間、外から地上へ続く扉から何かが飛び出し、私の体を床へ押し倒した。両腕両足を上から抑え付けられた私は抵抗できず、コンクリートで作られた床の冷たい感触を背中に受ける。
 私を押し倒しているのは、直立した状態であれば二ヤード強は優に超えるであろう巨体の人狼だった。敵はおもむろに口を開くと、聞き覚えのある女性の声で「何故だ?」と問い掛けた。それが自分へ向けられている物だと咄嗟に理解できなかった私が黙っていると、人狼は続けて口を開いた。
「何故、魔術で私を殺そうとしない?」
「……悪いが、こちらにも事情がある」
「……残念だ」
 人狼は大きく口を開き、私の肩に噛み付こうとする。しかし私は、口の中に仕込んでいた毒を敵の口の中へ向かって飛ばした。一定以上の魔力と反応するように調合されているらしい。眼鏡で魔力が抑えられている私が粘膜で触れても何も起こらないが、膨大な魔力を持つこの人狼が相手なら、効く筈だ。
 敵は不意の事だったからか、それとも単に凄まじく不味いからか、短く悲鳴を上げながら後退した。私はその隙に手から離れていた拳銃を拾う。
 一瞬余裕ができたからか、目の前の人狼が何者なのかを考える事ができた。見覚えのある銀色の体毛、聞き覚えのある声……靄が掛かったような感覚ながら記憶に刻まれたそれらのお陰で、私は敵の事を思い出す事ができる。
「……ロンドンで会ったかな?」
 敵は答えず、呻き声を上げるばかりだ。毒のせいで体が痺れて来ているのだろう。生きたまま捕えたいが、正直それは贅沢が過ぎるな。まぁ、だからと言って諦める気も無い訳だが。
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