自称異世界最強浪人のチーター達と万屋始めました

マシュウ

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諸悪の根源たり得る者

彼の日常

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 暗い空間の中、一つスポットライトが当たる木製の椅子に男が座っていた。

 外見は青年のようで、落ち着いた雰囲気をかもしだしていた。

 彼は椅子に座って本を一冊読んでいた。

 本のタイトルは『罪と罰』。

 彼は本を途中でしおりも付けずに閉じると、そのまま上を仰ぎ見た。

 すると、天井にいくつもの『窓』が現れ、そこから様々な人の顔が見えた。

 苦悩に歪むもの。

 理解しがたい恐怖に恐れおののくもの。

 怒りに顔を真っ赤にするもの。

 圧倒的絶望を前に涙を流すしかない者。

 どれも共通して、彼の好きな顔だった。

「また『星見の窓』ですか?」

 すると、唐突に暗闇から声がかけられた。

「うん……今日も世界は退屈してないみたいだね」

「ええ……何か面白そうなとこでも見つけましたか?」

「……うん、ちょっと行ってくるよ」

 そう言って暗闇に立つ人影を残して、彼は立ち上がり、外へと出た。



























「……やった………やったぁ!」

「俺達は……生き残れたんだ……」

「あぁ……これで終わりだ……」

 そこにいる人達は皆、その世界の平和が来たと、漸く安心することができると、皆んなそう思っていた。

「………ねぇ?」

「ん?なんだ?」

「……元の世界に戻ったら……私達……また会えるよね?」

「あぁ……必ず……例えどこにいようとも、君に会いに行くよ」

「……無茶はしない程度にね?」

「はは……」

 愛する人との約束をして、皆安心していた。

 彼らは別の世界から飛ばされてきて、この世界を生き残った数少ないサバイバーだ。

 あぁ、これから起こることは本当に残酷だ。

 心して聞いてほしい。

 愛を囁き合った二人の隣に暗い空間が現れて、問答無用で二人を引きずり込んだ。

 誰かに気づかれることもなく。

 二人が誰かに助けを求めるよりも先に。

 手は二人を暗闇へと引きずり込んだ。

 二人を引きずり込んだ手と闇は二人を引きずりこむと同時に、何事もなかったかのように消え去った。



























 女は気がつくと手と足が縛られていた。

 手は柱から何かにくくりつけられていて動くとこができない。

 そして、目の前には自分の愛した男が同じようにくくりつけられていた。

 自分と男にはスポットライトが当てられていて、それ以外は全くの暗闇だった。

 そして、自分と男との間をよく見るとガラスで区切られているようだった。

 女は声で男を起こした。

 男は周りを見渡して、自分らが元の世界に戻ってきたのかと言う疑問を口にした。

 そして、その答えは暗闇の中から聞こえてきた。

「うん、じゃあ始めよっか」

 突如現れた謎の声の方を見ると、自分たちと同年代ぐらいの青年が木製のバットとサイコロを持ってこちらに歩んできていた。

 女は青年が誰なのか、何者なのか、なにが目的でこんなことをしているのかを聞いた。

 青年は女に優しく微笑みかけるだけで何も言わなかった。

 女はその微笑みに戦慄が走った。

 青年はその顔をそのまま男の方へと向け、サイコロの目で偶数が出れば殴らないと言うことだけを言って、サイコロを振り始めた。

























「……貴方も物好きですねぇ?」

「まあね、うん、好きだから仕方がないよ」

「全くです」

 二人はそう言って笑いあった。

「ところでアレはどうするんですか?」

 暗闇から聞こえる声は、二つのスポットライトの下に写っている者を指した。

「うん?あぁ……彼らね……そうだねぇ……
女の子は保存して、アレは燃やして粉々にして捨てよっか」

 青年があったアレは元男だった物だった。

「そうですね、それだと粉状までにしたら誰も気づかないでしょう」

 そう言って暗闇の声は虚ろな少女の目の前で男だった物を燃やした。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 少女の絶叫が暗闇に響き渡り、その声を聞いた青年は涙した。

「……ああ……そんな……ごめんよ……?そんな……そんな……」

 青年はプルプルと顔を抑えてよろめいた。

「あぁ……まさかそんな顔をするなんて………まさか……そんな綺麗で可愛くて完璧な顔をするなんて……やっぱり人間……捨てたもんじゃあないなぁ……」

 と、涙ぐむ青年の指から見える目には狂気が走っていた。

「さて……そろそろ、彼と会うときかな?」

 そう言って青年は満足げに目を閉じてため息を吐くと、二人のスポットライトを指を鳴らして消し、木製の椅子にスポットライトを再び当てた。

 そして、その椅子にゆっくりと腰を掛けた。

「……あぁ……楽しいなぁ……美女の美少女の絶望した顔ほど美味しいものはないなぁ……」

 そう言って青年はゆっくりとまぶたを閉じた。
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