優の異世界ごはん日記

風待 結

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森の恵みと初めてのごはん(?)

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日記、二日目。



昨日、僕はこの世界に来た。  
エルドリア大陸、なんて名前を聞いただけでも頭がクラクラする。  
でもリナと出会ってほんの少しだけ希望が見えてきた。  
明るい彼女の笑顔と、料理への期待が、僕をこの世界に繋ぎ止めてくれる。  
リナに出会えなかったらきっとあのまま…。いや、やめよう。

僕たちは村を目指して森を歩き続けた。  
そして、初めてこの世界の食材に触れたんだ。  

朝、目が覚めたとき、身体がガチガチだった。  
昨日、森の地面で寝たせいだ。  
リナが焚き火を起こしてくれてて暖かかったけど、地面は固くて冷たかった。  
リナは慣れた手つきで火を調整しながら干し肉みたいなものを焼いていた。  
その匂いはちょっと焦げ臭くて、でも妙に食欲をそそる。  

「あ、優、起きた? ほら、これ食べて。  
あんまり美味しくはないけど、腹は膨れるよ。」  

リナが、串に刺した黒っぽい肉を差し出してきた。  

「えっと…これ、なに?」  

僕は、ちょっと警戒しながら受け取った。  
見た目は、牛肉のジャーキーみたいだけど、表面に妙な光沢がある。  

「モンスターの肉だよー。ゴブリンホッグの干し肉。結構硬いけど、栄養はあるから。」  

「ゴ、ゴブリンホッグ!?」  

思わず叫んでしまった。  
モンスターの肉!?  
食べるの!?  
食べれるの?!
いや、確かにこの世界にモンスターはいるって言ってたけど!
まさか食材として出てくるとは。  

リナは、僕の反応を見てクスクス笑った。  

「そんな顔しないでよ。この世界じゃモンスターの肉は普通に食べるんだから。 まぁ…味はイマイチだけどね。 硬くて、噛むのに顎が疲れるんだ。」  

恐る恐るかじってみた。  
確かに硬い。  
そして、味は……なんというか、塩辛くて、ちょっと獣臭い。  
正直、美味しいとは言えない。  
でも、腹が減ってるから、黙って噛み続けた。  

「ねえ…リナ、この世界の料理って…いつもこんな感じなの?」  

「うーん、まぁ、村じゃこんなもんかな?冒険者ギルドで高級な食材を手に入れればもっと美味しいものもあるよ。でも、普通の人はこんな干し肉か、薄いスープで生きてる。」  

リナは、肩をすくめてそう言った。  
彼女の目は、どこか遠くを見ているみたいだった。  

「そっか……。じゃあ、僕が美味しい料理を作ったら、みんな喜ぶかな?」  

リナの顔がパッと明るくなった。  

「絶対喜ぶよ! 優、ほんとになんか作れるんだよね?  村に着いたら、絶対お願いね!」  

その期待の目にちょっとプレッシャーを感じたけど、同時にワクワクしてきた。  
この世界の食材で、どんな料理ができるんだろう?  
ゴブリンホッグの肉はちゃんと調理したら、美味しくなるかもしれない。  
スパイスがあれば、臭みも消せるはずだ。  

「よし、じゃあ、村に着くまで、食材になりそうなものを採取していこう。僕はこの世界の食べられるものわからのいから教えてくれる?」

リナは、ニコッと笑って頷いた。  

「勿論いいよ!この森は実は食べられる植物やモンスターがいっぱいあるんだ。私が教えてあげるよ。でも、危ないやつもいるから気をつけてね!」

そうして僕たちは森を進み始めた。  
リナは弓を手に、軽やかな足取りで歩いていく。  
彼女はこの森のことをよく知っているみたいだ。  
時々立ち止まって、木の根元や茂みを覗き込む。  

「ほら、優、これ見て!」  

リナが指差したのは、地面に生えた小さなキノコだった。  
紫色で、傘の先に白い斑点がある。  
なんか、めっちゃ怪しい見た目だ。  

「えっ、これ、食べられるの?」  

思わず顔が引きつる。

「うん、ミストマッシュルームってやつ。  
生だとちょっと苦いけど、焼くと甘みが出て美味しいよ?そんな変な顔しなくても毒はないから安心して。」  

リナは、ナイフで器用にキノコを切り取って、布の袋に入れた。  

「これでよしっと。村に帰ってスープにするとかいいかもね。」  

「スープか……。もし、塩とかハーブがあれば、いい味になるかも。それにしてもこのキノコ、どんな味なんだろう?」  

頭の中で、ミストマッシュルームを使ったレシピを考え始めた。  
クリームスープにしたら、濃厚な風味になるかな?  
でも、クリームがないなら、シンプルなスープでもいいかもしれない。  
何かこの世界のハーブを探したいな。  

その後も、リナは森の恵みを次々と教えてくれた。  
青い実をつける低木は『サファイアベリー』
甘酸っぱくて、デザートに良さそう。  
川辺に生える草は『リバーリーフ』で、ほのかにミントみたいな香りがする。  
サラダやスープのアクセントに使えそうだ。  

「リナ、すごく詳しいね。いつもこんな風に食材集めてるの?」  

「んー、まぁ、冒険者やってると、こういう知識がないと生きていけないからね。モンスターを狩るだけじゃなくて、森で生き延びる術も必要だし。」  

リナは、ちょっと自慢げに笑った。  
でも、彼女の言葉には、どこか重みがあった。  
この世界で生きるって、簡単じゃないんだな。  

昼過ぎて僕たちは小さな開けた場所にたどり着いた。  
大きな木の根元に赤い花が咲いていた。  
花びらがキラキラ光ってて、まるで宝石みたいだ。  

「キレイだね…。これ、なんの花?」  

「ルミナフラワーだよ。この花の蜜はすごく甘いんだ。でも採るのにはちょっとコツがいる。あそこを見て。ほら、近くに蜂みたいなモンスターがいるから。」  

リナが指差した先には、確かにでかい蜂がブンブン飛んでいた。  
いや!あれ蜂なんてもんじゃない!  
体長50センチくらいある!金属みたいな光沢の翅を持ったモンスターだ。  

「うっわ…めっちゃ怖いんだけど!?」  

「大丈夫!アイツはルミナフラワーの蜜を守ってるだけ。刺激しなければ襲ってこないよ。でも、蜜を取るならちょっと戦う必要があるかも。」  

リナは、弓を手に構えた。  
彼女の目は、まるで狩人みたいに鋭い。  

「優、ちょっと下がってて。私がアイツを仕留めるから。」  

「え、待って、リナ、一人で大丈夫!?」  

「ふふ、弓使いを舐めないでよ。このくらい、朝メシ前!」  

リナは、素早く矢を放った。  
シュッという音とともに、矢は蜂モンスターの翅を貫いた。  
モンスターは、キィッと甲高い音を上げて地面に落ちる。  
リナは、すぐにナイフでトドメを刺した。  

「よし、終わり!  これで蜜が採れるよ。」  

「す、すごい……。 リナ、めっちゃ強いね。」  

「まぁね!  冒険者やってると、こういうのに慣れるんだ。ほらほら、優、蜜の採り方、教えてあげる。」  

リナに教えてもらいながら、ルミナフラワーの蜜を採った。  
花の中心を軽く押すと、粘り気のある黄金色の液体が出てきた。  
匂いを嗅ぐと、まるでハチミツと花の香りが混ざったような甘い香り。  
おお!これ絶対デザートに使える!  

「この蜜はチーズケーキに合うかもしれないな。いや、この世界にクリームチーズはないかもしれないけど……何か代わりになるものがあれば。」  

リナは、目を輝かせて言った。  

「チーズケーキ!?  なにそれ、めっちゃ美味しそう!  優、ほんと、村に着いたら作ってよ!」  

「うん、約束するよ。でも、火とか調理器具が必要だな。村にそういうの、ある?」  

「村には鍛冶屋がいるから、鍋とかフライパンくらいなら借りられるよ。火も、焚き火でなんとかなるでしょ。」  

「そっか、火加減とか大変そうだな…まあなんとかしてみるよ。」  

その後も、僕たちは森を進んだ。  
夕方近くになって、ようやく森の出口が見えてきた。  
遠くに、木造の家々が並ぶ小さな村が見える。  
煙突から煙が上がっていて、どこか懐かしい匂いが漂ってくる。  

でも、やっぱり、どこかこの世界の独特な雰囲気がある。  


「もうすぐ村だよ。優、疲れたでしょ? でも頑張って歩いたね。」  

リナがこちらを振り返り、笑顔で言った。  

「う、うん、疲れたけど……なんか、楽しかったよ。この世界の食材は僕の世界のものと違って面白いね。」  

「でしょ! 優が料理してくれるなら、もっと面白いもの見せてあげるよ。モンスターの肉とか、すっごいレアなハーブとか!」  

リナの言葉に、胸がドキドキした。  
この世界での料理にはどんな可能性があるんだろう?  
ゴブリンホッグの肉を柔らかくするにはどう調理すればいいかな?  
ミストマッシュルームのスープ、サファイアベリーのデザート、ルミナフラワーの蜜を使った何か……。  
考えるだけでもワクワクが止まらない。  

村に着いたら、まずキッチンを借りて、みんなを驚かせる料理を作ろう。  
リナの笑顔を見たら、絶対美味しいものを作りたいって思った。  

この日記も、リナが貸してくれた紙とペンで書いている。  
村に着いて、彼女が宿屋の主人に頼んでくれたんだ。  
「優、せっかくの冒険の記録なんだしちゃんと残しなよ!」って。  
ほんと、いいやつだな。  

明日からは村での生活が始まる。  
どんな人たちがいるんだろう?
どんな食材があるんだろう?
そして僕の料理が、この世界でどんな風に受け入れられるのか。  
全部、楽しみだ。  



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