剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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016 流行り病

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 緊急事態につき案内役の人も引っ掴んで、そのままミヤビにていっきに男坂を滑りおり、街中を疾走。
 母子のいる路地へと駆けつける。
 泣いて母親にとりすがっている女の子。
 母親はえらく汗をかいて、真っ青となり、呼吸も苦しそう。

「大丈夫ですか?」

 わたしが声をかけてもロクに受け答えできないあり様。
 胸元を押さえているが、だからといって心の臓が痛いというわけじゃなさそう。
 素人判断だけれども、もしかして肺がやられてる?
 なんにせよ、このままだとマズイ。すぐに医者に診せないと。

  ◇

 わたしこと剣の母チヨコは、ラクシュ殿下にくっついてレイナン帝国へとはるばるやってきた。
 その旅の過程でいろんなモノを見聞し、その都度、驚いたり感心したりあきれたり。
 けれどもこれまでで一番の衝撃を海門イシェールで受ける。
 わたしのど肝を抜いたのは、ここイシェールではなんとなんと、タダで医師に診てもらえるというのだ!
 神聖ユモ国をはじめとして北の大陸で正規の医師のお世話になったら、場合によっては健康と引き換えに全財産を失うこともあるほどにバカ高い治療費がかかる。
 これにはいろいろと事情があるのだけれども、だからこそ安く診察してくれる呪い師やらモグラと呼ばれる医師もどきが存在しており、両者をうまく使い分けることでどうにかやりくりしているのが現状。
 なのにここでは、医術にたずさわるものはすべて国の管轄下におかれており、国から給金を貰って働いている。
 人口比率やら必要に応じて各地に配属されているから、民たちはなんら気兼ねなく医療の恩恵を受けられる。ただし帝国臣民にて二等級以上の人に限られるけど。
 母子を運び込んだ診療所でそのことを知って、わたしはおもわず「ここは楽園か」とつい声をあげたものである。そのせいで看護助手のオバちゃんからキッとにらまれた。
 まぁ、それはともかく、母子の身柄を預けたときにお医者さまがちょっと気になることを口にする。

「またか、ここのところ多いな」と。

 急に熱を出して呼吸が苦しくなり倒れる患者が、この三日ばかりで急増しているらしい。
 はじめは三人程度だったのが、翌日には十を超え、今日にいたってはすでに二十に届かんとしている。倍々の増加率。さすがに不審におもって役所の方へ報告を入れたら、イシェール内にある他の診療所でも似たような状況らしい。

「うーん、症状は季節的な感冒に似ているが、いかんせん進行が速すぎる。何かの流行り病か? だとするとやっかいだな」

 運び込まれた母親を診察しながらお医者さまがそんなことをぶつくさ。
 そのとき彼が口にした「やっかい」の真の意味をわたしが正しく理解するのは、もう少しあとになってからである。
 でもこのときはそんな暇はなかった。
 なにせ今度は母親にとりすがっていた女の子の方までもがポテンと倒れてしまったのだから。症状は母親とまったくいっしょ。

「うぅ、おかあさん、おかあさん」

 苦しみうなされている幼子を前にして、さすがにわたしも黙ってはいられない。白銀のスコップを帯革内よりスチャととり出す。
 でもっておもむろに診療所内奥に突撃。
 すぐさま水を貯めている大瓶を発見! 中身をぐりぐりかき混ぜ、存分に水の才芽と勇者のつるぎ・天剣のチカラを注入。
 わたしの持つ才芽は三つ。
 剣の母として天剣を産み出すチカラ。手づからかかわった液体にいろんな効能を宿す水の才芽。いじった土にいろんな影響をおよぼす土の才芽。
 そして水の才芽と天剣のチカラを合算すると飛躍的に治癒効果が高まる。
 お茶を淹れれば劇的に味が良くなり飲めば元気ハツラツ、超高価な薬液をじゃぶじゃぶすれば欠損した人体がたちまち再生し、井戸を掘れば数多の奇跡をもたらす神泉となる。
 今回はこのチカラを使ってのお手伝い。ただしバレたら騒ぎになりそうなので、こっそりと行う。
 大瓶の処置が終わったところで、壁沿いの棚にずらりと並ぶクスリの小瓶類が目に入る。
 ついでに片っ端から手に取り、しゃかしゃかフルフルフル。これでちったぁ効果があがるはず。
 でもこの行為、はたから見ていると子どもが悪ふざけをしているように見えたらしく、「こらっ!」と看護助手のオバちゃんに怒られちゃった。

  ◇

 ひとしきり水の才芽の恩恵を与え終わり、あとはお医者さまたちにまかせる。
 わたしはバタバタしている診療所内を抜け出し建物の裏へと移動。

「ふぃー、いい汗かいたぜ」

 井戸端にて休憩。ついでに汗を拭おうと水をくむも「うん?」となった。
 水の色は透明ですんでおりキレイだ。ニオイも特にしない。けれども顔にはねた滴をペロリとしたら薄っすら味がした。

「なんだかちょっとしょっぱいような」

 ほんのり感じる塩味。
 わたしが首をかしげてるとミヤビが「チヨコ母さま、それはたぶん海水が混じってしまっているせいだと思われますわ」と教えてくれた。
 フム。この井戸は比較的浅い層までしか掘られていないせいか、地理的な影響を受けているらしい。

「あっ! そういえばさっき混ぜた大瓶の底に、なんだか丸い石がいくつか沈められていたんだけど。ひょっとしてアレってば真水にするための工夫だったのかも」

 塩分だけでなく水を浄化する効果があるのならば、けっこう有益な石。
 遠い異国に根付いている生活の知恵。
 が、なにやら金のニオイがする。欲しがる人って多いんじゃなかろうか。この情報をシャムドに教えてあげたらよろこぶかも。
 なんぞとニヤニヤしつつ、わたしたちは診療所を辞去したんだけど……。
 宿舎に戻ってみたら、そのシャムドがぶっ倒れていた。


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