剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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020 病魔

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 貯水槽の底に沈んでいる不審な像。
 そいつの引き揚げ作業中。
 上からわたしが貯水槽をのぞき込んでいたら、帯革内およびかぶっている麦わら帽子までもがビリビリ震えだす。
 アン、ツツミ、ムギらが一斉に「「「なんかヤバい!」」」
 娘たちからの警告。
 すかさずわたしはその場から駆け出し退散。周囲にも「様子がおかしいから逃げて!」と報せてすたこら。
 軍人さんたちもギョッ。すぐさま駆け出し貯水槽から距離をとる。
 直後に水中より飛び出してきたのは白銀の大剣とそれにくっついている紅紐。ミヤビとベニオだ。

「何があったの?」

 たずねたわたしに彼女たちが応じるよりも先に、答えが勝手に姿をあらわした。
 みるみる盛り上がってゆく貯水槽の水面。水がうねり巨大なヘビのような姿となる。それが二体も同時に出現っ!
 半透明な青の大蛇、そのうちの一体が口を開けてペッと吐き出したのは、水球。
 なんとなくイヤな予感がしたわたしはあわてて回避。軍人さんや兵士たちも散開して直撃をかわす。
 だというのに……。

「うぅ、くらくらする。気持ち悪い」「なんだ? 頭が、カラダが熱い」

 二人の兵士が顔を真っ赤にして膝をついてしまった。
 彼らは水球そのものは避けたものの、床に着弾して跳ねた飛沫を少しばかり浴びてしまっていた者たち。
 これを目にした軍人さんがハッとなる。

「なんということだ……。今回の流行り病は水を媒介する。あいつらは病気の塊なんだ」

 しかも大量の水によって薄められたものではなくて原液。
 濃縮された状態ゆえに、ほんの少し触れただけでもたちまち行動不能にされてしまう。
 そんなシロモノが自らうねうね動いて攻撃してくるのだからたまらない。
 塔の地下の最下層、浄水場という空間もマズイ。
 すぐさまここを死地と判断した軍人さんの決断は早かった。

「総員退避!」

 圧倒的に不利な状況下で、未知のバケモノと闘うことを避ける。
 それは正しい判断。しかし相手にはこちらをみすみす見逃すつもりがないことがすぐにわかった。
 撤退を開始したものの、みんなすぐにたたらを踏むことになる。
 濃霧が発生。視界をふさがれてしまったからだ。そばにいるはずの仲間の姿が薄墨で描かれた影のようにしか判別できない。
 たちまち方向感覚が狂わされた。自分がどちらを向いているのかもわからない。

「うっ」「くっ」「うぬっ」

 霧の向こうから聞こえてくるのは兵士たちの苦悶の声。
 その様子からして味方らが次々と膝をつき倒れているらしい。
 遅まきながらその原因に気づいてわたしは舌打ち。
 たんなる目隠しじゃない。霧は水の形状が変化したもの。すなわちこの濃霧そのものが青の大蛇の攻撃。あれの病は空気感染はしないはずだった。けれども呼吸とともに体内に吸い込まれた霧が内部でふたたび化けるとなれば話は別だ。
 いわばこれは病毒の霧。
 わたしには天剣の加護があるからへっちゃらだけど、他のみんなは耐えられない。そしてこんなヤツを外に逃がしたらえらいことになる。なんとしてもここで止めないと。

「ミヤビっ!」

 わたしの声にビカッと自らの剣身を光らせて位置を報せるミヤビ。

「ベニオっ!」

 末っ子を呼ぶなり白銀の大剣の柄にぶら下がっていた紅紐がするするのびた。
 たちまちわたしの手首にからみつき、ひょいと一本釣り。
 ふわりと宙に釣り上げられるわたしのカラダ。
 そのままスチャっと白銀の大剣へ着地を決める。
 間髪入れずにベニオも変身、作業着となってわたしの身を包み防御を固める。
 とりあえず戦闘準備が整ったところで矢つぎばやに指示を出す。

「アンとツツミは軍人さんたちの安全確保、ムギはこの霧を吸い込んじゃって」
「……がってん」「おまかせあれ」「是」

 帯革内から飛び出した折りたたみ式草刈り鎌、たちまち死神の鎌を彷彿とさせる本来の姿となる。
 同じく飛び出した金づち、たちまち巨大な蛇腹の破砕槌の姿となる。
 アンとツツミが兵士たちの方へと向かうかたわらで、吸引作業を開始したのは麦わら帽子。第四の天剣・太陽のつるぎムギには武器形態などへの変身能力がない。そのかわりに広大な収納空間を保有しており、たいがいのモノは呑み込める。
 はずだったのだが……。

「へっ? これは非。かあさま、この霧、なんか生きてるっぽい」

 ムギが困惑。
 どうやら自分の意思を持って動いているがゆえに、この霧は生き物判定されてしまったらしい。ムギの収納空間はいろいろ呑み込めとっても便利だけれども、身内以外の生き物は立ち入り禁止。
 フム。これはいささかアテがはずれた。よもやコイツが生き物だったとは……。
 いささかわたしは動揺を禁じ得ない。
 視界がロクにきかず、閉鎖空間ゆえに自由に飛び回れもしない。でもって青の大蛇は水だから切ったはったの攻撃も通らない。かといって大爆発や大雷撃とかをやらかしたら、尖塔がぽっきり逝ったり、大陥没とか起こして海門イシェールの都そのものがえらいことに。
 そんな状況下で味方を守りながら戦う。
 ぶっちゃけ、かなり厳しい。

「まずは双頭のヘビの像をぶっ壊すか。いかにもアレが元凶っぽいしね」

 それゆえに足下のミヤビに「あの像の気配を追える?」とたずねるも、「それが……、申し訳ありません」と恐縮されてしまった。
 ミヤビによると、あのヘビの像は瞳を開けているときには気配がありありとわかるのに、閉じているときにはパタリと何も感じなくなるそう。
 でもって現在はまぶたが閉じられているらしくって、どこにいるのかちっともわからない。
 うーん、まいったねこりゃあ。
 そのくせ向こうさんにはこっちの居場所がわかるのか、ズルリズルリと不穏な音が近づいてくるんだもの。


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