48 / 67
048 砂の罠
しおりを挟むノドに噛みつかれてじたばたしていた白銀の小龍。ゴキリとイヤな音がしたとたんに、長い身がチカラを失ってだらりとなる。
くわえたままで三度ばかりぶんぶん振り回した黒い小龍。真上へと放り投げた。
ふっと白銀の小龍の姿がかき消え、もとの封魔の短剣となる。
落ちてきた短剣を待っていたのは大口を開けた黒い小龍。
牙にて噛み砕きゴクンと呑み込む。
ひょうしに黒い小龍の身がさらに膨れて、ついには中龍ぐらいの大きさとなる。
「うそでしょう……、封魔の短剣が負けたの?」
擬神サノミタマと異界を結んでいる神器の鎖。それと同じ材質で造られたとされる品が粉々に破壊された。
それすなわち神をも縛る鎖を断ち切れるほどのチカラを擬神ウノミタマが有しているということ。
黒き中龍、ぬめりを帯びた大きな瞳がギョロリとこっちを向いた。
呆然としているわたしの脳裏に「クスクス」という笑い声が響く。
『やだなぁ、何をそんなに驚いているんだい、剣の母チヨコ。当然だろう。姉さんがちっぽけな世界を治めるのに汲々としている間、ボクがいったいどれだけの魂を、大地の気を、血や肉や命を、愛や希望、羨望に欲望に野心、死と絶望を喰らったと思っているんだい? あの程度のチカラで抑え込めるわけがないだろう』
ペロリと舌なめずりをした黒き中龍。
『ちょっと予定が狂っちゃったけどまあいいさ。前菜はたいらげたことだし、そろそろ主菜をいただくとしようか。はじめてキミたちのことを知ったときからずっと愉しみにしていたんだよね』
黒き中龍こと擬神ウノミタマが口にした主菜の意味を知り、わたしは戦慄しつつもすぐさま帯革よりアンとツツミを放ち、自身はベニオの変身した作業着姿となった。
「こうなったら、もうやるしかない! いくよ、みんなっ」
かくして天剣五姉妹を率いる剣の母と擬神ウノミタマの戦いが始まる。
◇
漆黒の大鎌、第二の天剣・魔王のつるぎアンが激しく回転。円刃となりて先行し空を駆ける。
これに白銀の大剣、第一の天剣・勇者のつるぎミヤビに乗ったわたしが続く。
擬神ウノミタマがひと噛みにせんと牙を向けるも、アンはひらりとかわし龍体の表面を転がるようにして走り抜ける。この攻撃により黒き中龍の肌に裂傷の線があらわれ、黒くドロリとした体液が飛び散り、「がぁぁっ」とウノミタマが苦しそうな声をあげた。
これを見てわたしは「イケる! こっちの攻撃がちゃんと通じている」と勇んで、ミヤビにて突撃を敢行。
空中にて交差する刹那。
ミヤビの剣身に施された精緻な模様が輝き、刃に白き焔をまとう。
黒き中龍の横っ腹を真一文字に、斬っ!
かなりの深手を負わせたのみならず、傷口にて燻る白い炎。ちりちりとウノミタマの身を焦がす。
でもまだわたしたちの連撃は終わらない。いつの間にかミヤビよりずっと後方へとのびている紅い紐のひらひら。
それは第五の天剣・月のつるぎベニオが変じている作業着の袖の一部より生じたモノ。
紐の先に結ばれてあったのは巨大な蛇腹の破砕槌、第三の天剣・大地のつるぎツツミ。
高速飛行するミヤビにグンっと引っ張られ、存分に加速した破砕槌。勢いのままに黒き中龍の顔面にぶち当たる。その瞬間、ツツミの自重変化能力が発動!
いつもは取っ手を握るチヨコの身を案じて抑えているけれども、今回はその枷がないので遠慮なし。
ズゥシン!
地の底から届くような重苦しいくぐもった音が帝都上空に鳴り響く。
長い龍体を大きくのけ反らせた擬神ウノミタマ。痛みのせいでのたうち回っている。
ここまではひょうし抜けするぐらいに一方的な展開。わたしたちが攻め立てるばかり。
なのに黒き中龍がさっきから執拗にくり返しているのは単純な噛みつきばかり。
どうやら身に触れただけでは魂や肉体を浸蝕されないらしい。
それはこっちにとってはありがたい話。けれども、わたしはどうにも解せない。
たしかにこちらの攻撃は当たっている。手ごたえもある。なのにちっとも勝利が近づいている気がしないのだ。むしろ遠ざかっているような印象すらも受ける。
ぶっちゃけ抵抗が弱すぎるのだ。
いかに人造とはいえ神の名を冠する者。さっき自分でも言っていたではないか。いろんなモノを大量に喰らってきたと。
空飛ぶ巨体というだけでも脅威といえば充分すぎる脅威だけど、これまでにわたしと天剣たちが対峙してきた強敵たちに比べると、いまいち感が拭えない。
もしかして何か狙いがあるのか?
だからとて様子見をしている余裕はない。
いまのわたしたちに出来ることはひたすら攻撃することだけ。
擬神ウノミタマが何をたくらんでいるとしても、それごと粉砕するのみ!
「まずはヤツを帝都の外へ追い出そう。そうすればこっちも気兼ねなく大技が使える」
縮んだ紅紐にて手元にやってきたツツミを持って、アンの援護を受けながら突進。
さらなる追撃を黒き中龍に喰らわせる。
わたしが大きく振りかぶった蛇腹の破砕槌はまたしても大当たり。
ガツンと相手を吹き飛ばす。
ミヤビにて飛び、加速しながらのツツミによる殴打。この攻撃が決まること六度。
「よし! このまま押し切るよっ! そしていっきにトドメを……」
わたしの言葉が最後まで発せられることはなかった。
ふたたび殴りかかろうとしたところで、黒き中龍の目が笑っているのが見えたから。
ゾクリとイヤな予感がして、ハッと気づいたときには眼下に広がっていたのは四方を壁に囲まれた砂地。
ここは帝国の人間たちが才芽を授かるという得体の知れない場所。そして以前にシャムドと見学に訪れたときに、何者かの視線を感じたところでもある。
突如として大量の砂塵が渦を巻き吹きあがった。
上空にいたわたしの視界が一瞬にして砂に埋めつくされる。
激しい砂嵐。たまらず腕をかざして顔を守ろうとしたところで、後方からグイっと引っ張られた。砂嵐の中からのびてきた何者かの腕により、わたしの身が白銀の大剣より引き剥がされる。
「チヨコ母さまーっ」
ミヤビがの悲痛な叫びが聞こえたと思ったら、たちまち遠ざかった。
砂の奔流に呑み込まれ成す術なし。わたしに出来ることといったら固く目を閉じて、息を止めていることだけであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる