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09 エルアの会
しおりを挟むルディアちゃんとアシュリーちゃんが騎士の実態を目の当たりにして、放心してしまいました。でもこのままだと取材以前にルディアちゃんが、ショックのあまり筆を折りかねないと危惧した私は、第五隊を巡る恋物語を聴かせてあげました。
すると虚ろだった彼女の瞳に銀の輝きがランランと燈しだし、ついには「なんだか滾ってきました! ありがとうございました。エレナお姉さま」と叫んで走って行ってしまいました。慌ててアシュリーちゃんも遠ざかる友人の背中を追いかけて行きました。
どうやら創作活動のいい刺激になったようですね、良かったです。
テクテク食堂に戻ると、お姉さま方が休憩がてらお茶を飲んでおりました。
「どこをほっつき歩いてたんだい?」
上司のラメダさんに訊ねられたので「第三王女と伯爵令嬢をご案内していた」と素直に答えたら、何人かが口に含んでいたお茶を盛大に噴き出してしまいました。
あんな感じのお二人でしたので、てっきり普段からその辺をウロウロとしているものだとばかり考えていたのですが、この分ではたぶん違うのでしょう。
三日後に、またあの二人がやってきました。
最新作の原稿を持っての来訪です。
私が語って聴かせた、めくるめく男どもの熱い友情と恋の鞘当てに刺激を受けまくったルディア第三王女さまが新境地を開拓、ボーイズラブな作家さんへと転身されていました。是非、感想が聞きたいとの仰せ。
早速、仕上がったばかりの原稿を拝見します。
若干十五歳ながら、そのたわわな胸の奥に秘められた妄想力をいかんなく発揮して、なかなかに過激な作風を執筆なさっております。
登場人物のモデルであろうカイン副長っぽい人物が、想い人である上司と小悪魔系の部下との間で揺れ動く心情がありありと描かれており、これまた登場人物のモデルであろうアデル副長っぽい美少年に、夜な夜なイジメられては「ほら、先輩の体はこんなに正直ですよ」なんて言われちゃってます。
いやー、大変、面白い作品でした。
前世でもたまにかじる程度のライトユーザーでしたが、久しぶりにこの手のジャンルに触れたせいか、なんだかこっちまでウキウキしちゃいましたね。
「エレナお姉さまのおかげです。私はついに自分が進むべき道を見つけました」
目の下に隈を作ったお姫様が、嬉しそうに私に抱きついてきました。むっちゃ良い匂いがする。あとやっぱり胸がデカい。
そんな可愛らしい第三王女に私は提案しました。
「せっかくなので印刷して本にしちゃいましょう」と。
これまでは密かに書いては、友人のアシュリーちゃんや、ごく身近な知人にのみ見せて満足していたようですが、この才能を埋もれさせてしまうには惜しいと私は考えました。幸いなことに、こちらには商業ギルドに伝手もあります。これまでそれなりにギルドに貢献してきたおかげで、怪しげな印刷物を専門に取り扱う業者にも心当たりがあります。今回は作品の内容が内容なので、そちらを利用させてもらうとしましょう。
さて、そうと決まれば、やることは色々とあります。
やはり表紙や挿絵も欲しいところ。するとそれにはアシュリーちゃんが名乗りをあげてくれました。なんでも彼女は趣味で絵を嗜むそうです。試しにちょっと書いてもらったんですが、タッチが本格派過ぎて印刷には向きません。こちらの世界ではまだ初期レベルの印刷技術なので。
そこで私が漫画やイラストちっくな素人絵を披露すると、即座にそれをご自身の作風に取り入れてしまいました。どうやら彼女もまた才能の原石であったようです。
こうして作家、イラストレーターを確保、編集とその他諸々の雑事を私が引き受けることとなり、ここにこっちの世界初の同人誌サークルが設立されたのです。
サークル名は「エルアの会」。これは私たち三人の名前の頭文字をとったものです。一番最初に私の名前であるエレナの頭文字があるのは、彼女たちによると「お姉さまに対する敬意」だそうです。そしてルディアちゃんは立場上、さすがに本名での創作活動はマズイので、エルアをペンネームとすることにしました。なおアシュリーちゃんは完全に匿名希望だそうです。
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