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10 彷徨える黒狼
しおりを挟むルディアちゃんの処女作「彷徨える黒狼」は大ヒット御礼につき、すぐに重版が決定しました。
アシュリーちゃんの絵も好評です。これまでの本では中にちょっこっと宗教画風な挿絵がある作品はありましたが、表紙にガッツリと描かれてあるのは初めて、おかげで気軽に手に取ってもらえて、あれよあれよと初版が捌けてしまったと、裏本屋さんがホクホク顔でした。
ああ、裏本屋さんってのは大っぴらに販売出来ない書籍を扱う方のことです。
何事にも本音と建て前があるもの、いくら厳しく取り締まったところで、人の業を失くすことなんて出来ません。沸騰した鍋に無理に蓋をしたところで、噴きこぼれてくるばかり、だったらせめて管理は無理でも把握ぐらいはしておこう、ということで裏本屋さんはちゃんと国に認められております。商業ギルドにも加入してますよ。だからキチンと届けさえ出しておけば、こっそりと裏路地に店舗を構えて商売することが許されているのです。
エルアの会としての一発目の活動は、こうしてまずまずの成功を納めました。
なお初期費用に関しては、カンパで賄いました。付き合いのあるメイドのお姉さま方に原稿の序盤だけを読ませて話を持ちかけたら、あっという間に資金が集まりました。
そして次回作についての話し合いの場を食堂にて設けたところ、やはり似合わないメイド服姿のお二人に加えて、見知らぬ黒髪メガネのメイドさんがしれっと参加なさっていました。
なにを隠そう彼女こそが第三王女と伯爵令嬢を玩具にしているメイドのターニャさんだったのです。けっこう背が高い方で、百八十近くあります。
きっとただのメイドさんじゃないんだろうなぁ、と思って私がしげしげと眺めていると、親切にもご本人が教えて下さいました。
なんでも彼女、元は王妃さま付きの護衛だったそうで、近衛の第七隊に所属していたそうです。この第七隊というのが正体不明の部隊でして、構成員や職務内容その他一切が公表されていないんです。噂では国や王家に仇なす者どもを秘密裡に処分する必殺な方々とも云われておりますが、少なくともターニャさんを見る限りでは……、きっと真実なのでしょう。
そんな彼女が今後は姫様たちが忙しくて出られないときなどに、繋ぎとして協力してくれるというお話です。「こんな面白そうなこと、黙って見ているだなんて」と少し本音が駄々洩れしていましたが、それは聞かなかったことにしておきましょう。
「私としては彷徨える黒狼のシリーズ化も視野にいれつつ、次は違う切り口をお願いしたいのですが」
「違う切り口?」
私の言葉に小首を傾げるルディアちゃん。本日も銀髪がサラサラと輝いていますな。そんな彼女に説明したのは、安易にシリーズ化に走り下手に単一コンテンツに頼ったとき、行き詰った際に身動きがとれなくなる危険性についてと、更なる読者層の開拓についてです。
「一作目では昼はオレ様な狼、夜はにゃんにゃん子猫ちゃんというギャップが描かれていました。そこで二作目は魔性の美少年が周囲の大人たちを翻弄して、次々と狂わしていくというサスペンスタッチの作品なんてどうでしょうか?」
なんちゃって編集こと、私の提案を受けて思案顔になる第三王女さま。
ちなみに主人公のモデルは金髪碧眼のアデル副長です。さすがに丸パクリは駄目なので、髪の色を変えてオッドアイにでもしてもらいましょうか。
そんなことを口にすると、すかさずアシュリーちゃんが簡単なイラストを書き上げ、それを見たルディアちゃんの中でどんどんとイメージが膨らんできたようで、「頑張ってみます」との心強いお返事が頂けました。
すると、丁度いいところに食堂にアデルくんが顔を出しました。どうやら休憩がてらお茶を飲みに来たようです。わたしはともかく違和感だらけのメイド三人から一斉にぐりんと顔を向けられて、ギョっとする彼。
なにせこのお三方、一人は気品とオーラがバリバリで存在感抜群、一人は金髪シングルドリルの自己主張が激しく、一人はヤバイ雰囲気をまとったメガネ女……、いちおう最後の方は本職なのですが。
そんな彼女たちの幾分興奮して血走った視線に晒されては、若き剣の天才もタジタジとなったご様子。
「な、なんだ? おい、エレナ、そいつらは何なんだ?」
思わず私に助けを求めて声をかけてくるアデル副長。
以前に尻を蹴飛ばしたのが縁で、いまではすっかりタメ口で呼び捨てですよ。
彼は基本的に上司のクラウセン隊長以外には、誰にでもツンケンとした物言い。好きな相手にも素直になれずに、憎まれ口をきいちゃう、天邪鬼さん。
「何なんだ」と訊ねられたので、とりあえず「知り合いの子たち」とだけ答えておきました。さすがに正体を明かすわけにはいきませんからね。でもちょっとよく観察すれば彼女たちが只者じゃないなんてことは、すぐにわかりそうなものなのに。
基本的に女嫌いな彼はろくすっぽ見ようともせずに、それどころか「こっちを見んじゃねぇ」と吐き捨てるように言って、さっさと食堂の隅っこに行ってしまいました。
えーと、仮にも副長なんですから催事とかで、王族の方とも間近で接する機会がありそうなものなのですが‥‥…。
「ありませんよ。あの手の式典とかには、それ用の方々が参列なさいますから」とルディアちゃん。
「確か……、第二隊の方々が担当じゃなかったかしら」とはアシュリーちゃん。
「ええ、公式行事などでは儀礼を重んじられるので、貴族の子息などで構成されている、そこの仕事です」
ターニャさんが情報を補足してくれました。その際の語り口に若干の嘲りが含まれていたので、私が不思議そうな顔をすると教えてくれました。
第二隊とは別名・張りぼて隊なんですって。肩書や見栄えは立派な方が多いのですが、中身はからっきしなんだとか。
おかげで同じ騎士団といっても女性陣らからは、ほとんど相手にされていないんだそうです。騎士に幻想を抱くお花畑な女たちも、そこは敏感に感じ取っているようで、彼らには食指を動かさないとのこと。ミーハーなわりに以外と判定がシビアですね。ちょっと見直しました。
そんなこんなで多少のハプニングはあったものの、会合は無事に終了。
エルアの会としての次回作への方針も固まりました。あとはルディアちゃんの筆の進行にかかっているので、私はとりあえず今後とも情報収集に勤しみたいと思います。
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