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26 混沌の渦
しおりを挟む魔女ダリアがまた食堂にやってきた。
おかげでラメダさんの機嫌がすこぶる悪い。
なにせここは女嫌いの巣窟、そこに見慣れぬ女人の姿があるだけで、露骨に売り上げが減少するのです。城内に複数ある食堂は基本的に独立採算制ゆえに、これは私たちの生活に直結する問題なのです。
だから私が慎ましやかな胸を反らして「迷惑だからとっとと帰れ」と言ってやりましたら、だったら「協力しろ」と大きな胸を見せつけられて丸め込まれました。しょせんは未亡人とおぼこ娘、相手になりませんでした。わずか二十秒たらずでノックアウトですよ。
姉御に涙目で救いを求めたら、邪険に手を振られて「しっしっ」とされました。
同僚のお姉さま方も面倒事はゴメンだとばかりに、さっと目を逸らして誰もこちらを見ようともしません。見事に揃った動作は騎士たちの行軍のごとき美しさ、なんたるチームワークの良さか、伊達に日頃からともに死線を掻い潜っているわけじゃないようです。
いささか業腹ですが、しかたがないので私が人身御供になって、この迷惑な魔女を連れ出すことにしましょう。
それで協力とは何かとダリアさんに訊ねたら「訓練場に連れていけ」と無茶を言ったので必死に止めておきました。ただでさえ殺気立っているところに、渦中の女人がズカズカと踏み込もうならば、事故に見せかけて抹殺されかねませんので。
表面化している副長以外にもクラウセン隊長を慕っている人は大勢いるのです。こればっかりはマジで危ない、だから脅して宥めてすかして、どうにか渋々にて断念させることに成功したものの、代わりに執務室に付き合わされるハメに……。
トボトボと廊下を連れだって歩きながら私から彼女に話しかけます。
こうなれば少しでも情報を引き出しておかないと、わりに合いませんので。
「そういえば絵画展はどうだったんですか?」
「それなりに感触はよかったわよ。騎士の活躍や闘いの絵ばかりを集めた展覧会だったから、殿方でも楽しめたみたいで喜んでいたわ」
「へー、でもあの手の絵って、けっこう血みどろのグロい場面も多いから女性にはキツイんじゃあ」
「そこも狙い目よ。怯えたフリをして堂々としがみつけるじゃない。それを目当てにしたカップル客も多かったわね」
まさかあのチケットにそんな奸計までもが潜んでようとは……、おそるべし未亡人の魔女。「本気になった三十路を舐めんじゃねぇぞ」と仰ったメイドのお姉さまの言葉が、私の脳裏で勢いよく反復横跳びをしております。そして可哀想な絵画展の主催者さん、まさか高尚な芸術のための場所が、そのような下劣な魂胆に利用されていようとは、よもや夢にも思うまい。でもこれがイケるのでしたら、もう少し幅を広げてお化け屋敷っぽい商売も受けるかもしれませんね。こんど商業ギルドのマスターに会ったら、ちょっと話を持ちかけてみましょう。上手くやれば地域振興の一手になりますので。
商売って自分だけが儲かっても駄目なんですよ。いくらウチの宿屋が繁盛したところで周囲が寂れた終わりなんです。地域全体が活性化しないと待っているのは先細りなんです。油断していたらあっという間に閉店ガラガラ状態に。
そんなことを考えているうちに、早や執務室に到着してしまいました。
とりあえず先触れとして私が扉をトントンしますと、中から隊長さんの返事がありました。
「失礼します」と言いながら扉を開けた私は、すぐにバタンと閉めました。
だってそこにはクラウセンさんだけでなく、カインさんにアデルくんにおまけにレストさんまで揃っているんですもの。これは不味いです。こんなことなら横着せずに訓練場にひとっ走りして、ちゃんと状況を確認しておくべきでした。
だというのに背後からグイグイと私を押してくるダリアさん。
こっちの気も知らないで「なによ、グズグズしてないで早くしなさい」ですって。
それで扉付近でごちゃごちゃしていたら、内側からガチャリと開けられてしまいました。扉を開けたのは如才ないとの評判のレストさん。ここにきて気遣いの良さが裏目に出ました。未亡人の顔を見て思わず「あっ」と小さな声を上げたレストさん。この分だとたぶんダリアさんのことを知っていたな。なにせ顔がマズった! という風な表情をしていましたから、しかし扉を開けてしまった以上は招き入れるしかありません。
でもそんな修羅場なんてゴメンな私は、早々に退散することにしました。
だって私には関係ありませんから……、だというのにガッシと魔女に腕を掴まれて、そのまま扉の向こうに引き釣り込まれました。やだやだと、なおも抵抗を示す私の背をグイと押したのはレストさんの手、どうやら彼は私を道連れにする腹積もりのよう。
おのれ茶髪め! お前なんて今度から呼び捨てにしてやるからな、あとオカズの盛りを減らしてやる、覚えてろよ、チクショー。
こうして期せずして発揮された二人の連携により、私の身は不穏な空気が渦巻く執務室へと呑み込まれてしまいました。
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