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27 魔女の思惑
しおりを挟む寄せ鍋ってありますよね? あれってなんだかんだで全体の調和をとっているからこそ、料理として成立しているのですよ。それを無視したら闇鍋に堕ちるのです。適当に具材を放り込んで煮込めば、とりあえず食べられるようになるだろうだなんて、本気で考えるのは阿呆だけです。鳥肉と野菜が煮立った鍋に牛乳をいれたら、それなりにシチューっぽくなって食べられるでしょう、ですがそこにケーキやら果物なんかを入れたら、さすがに無茶が過ぎます。挙句に蒸留酒をドバドバと大量投入しちゃったら、もうお子ちゃまにはお手上げです。
執務室内に漂う空気はそんな感じでした。
いまいち自分を取り巻く状況をちゃんと理解していないクラウセン隊長。恋愛漫画の主人公ばりの彼の鈍感さが恨めしい。
恋敵の襲来に一触即発状態のカイン副長。とりあえず誰か彼の腰のモノを取り上げるなり遠ざけるなりして下さい。
そんな想い人の様子に、これまたピリピリしちゃうアデル副長。こちらも刃物を取り上げることを強く進言したい。
これは参ったなといった表情のレスト。とりあえずテメェは後で尻を蹴っ飛ばす。
そしてこんな最悪な状況を出現させた元凶たるダリアさん。平然としているけれども、これだけ周到に行動している人が、第五隊内部の人間関係を把握していないワケがない。だとしたらコレもわざとか?
あとオマケの私ことエレナの六人が、角を突き合わせる形にて同席する羽目に……。
いやいやいや、私、食堂の給仕風情なんで、みなさんと一緒に腰を降ろしているなんてオカシイですよね。だから「お茶でもいれましょうか?」と席を立とうとしたのですが、それはアデルくんに止められました。にっこりと悪い笑みを浮かべた彼に「いいから黙って座ってろ」と言われました。どうやら彼もレストと同じ考えに至ったようです。あと、こっそりと「下手に茶なんぞ出して、長引いたらどうしてくれるんだ」と言われました。なるほど、それも一理あるかと思い私も大人しくしておくことにします。
「お仕事中にお邪魔してしまい申し訳ありません」
魔女のしおらしい物言いから始まった会合。
ダリアさんの用件とはクラウセンさんに家の武具の選別を手伝ってほしいとの申し出でした。なんでも亡くなった旦那さまが結構な収集家だったらしくて、かなりの数の品が残されているんだとか。しかしいつまでとって置いてもしようがない。なにより人に使われてなんぼの武具が、倉庫の奥にて埃に塗れているのも偲びない。かといって自分ではどれが何やら、その価値も有用性もまるでチンプンカンプン。そこでこと剣に関しては一家言あると名高き剣士である、隊長さまにおすがりしたいと。
秘蔵の剣と聞いて、クラウセンさんの目が少年のように輝いております。
どうやら魔女ダリアは極上の餌でもって、獲物を一本釣りする気のようです。大量にあるということは一度や二度ではきっと片付かない。何度も足繁く通っているうちに、お茶や食事なんぞを振舞いつつ、自然に親密度をあげて、最後には自分も鑑定してね、という算段か!
「それなら専門の業者を呼べばいいだろうが、うちの隊長は忙しいんだよ」
露骨に迷惑だと言わんばかりにカイン副長が横やりを入れました。
だがそんな児戯が魔女に通用するわけもなくて……。
「あら? だって見知らぬ殿方なんて宅に招きたくありませんわ。それともカインさまは、ほいほいと見知らぬ女性を部屋に招き入れるのですか?」
返す刀でバッサリと斬られたカインさんが撃沈。
剣をとっては無双の彼も、こと言葉の刃の応酬では分が悪すぎる。そして言うべきことだけ言ったダリアさんは、さっさと席を立ってしまいました。
「クラウセンさま、どうかご検討下さい。いきなり押しかけて申し訳ありませんでした。それではこれで失礼させていただきます」
思いのほかにあっさりと引き下がるダリアさん。しかもあくまで提案だけで結論は持ち越しというから驚きです。
何故? と不思議がる私に目で「いきますよ」と合図を送るダリアさん。彼女に促される格好にて、私もちょこんとお辞儀をして執務室を退室します。
静々と廊下を行く彼女の背に向かって、思い切って先ほどの疑問をぶつけてみると「選択や結論を急ぐ女は殿方に嫌われるのよ。よく覚えておきなさい」とのお言葉を戴きました。それからこうすると一粒で二度愉しめるんだそうです。
例え断られるにしろ、次に会う口実が自然に発生するからですって……、スゲェな魔女!
「それに今日の目的は別にありましたから」
「?」
「ふふふ、これでやっとあの方に宣戦布告が出来ました。やはりキチンと筋を通して置かないと、後であれこれ文句を言われたら堪りませんからね。これで彼が動くも良し、諦めるも良し、戦うも良し、なにせこの手の感情はちゃんと自分の中で折り合いをつけておかないと、一生引きずるハメになりますから。せっかく勝利を手にしても延々と周囲をうろつかれたら目障りですものね」
ダリアさんの真意を聞いて、私には何も言うことが出来ませんでした。
圧倒的過ぎるんですよ、この人。魔女どころか魔王なんじゃなかろうか……。女子力うんぬんどころの話ではありません。次元が違いすぎる。そんな風に内心で慄く私に彼女が言いました。
「だからさっきのやりとりをしっかりと喧伝しておいてね、エレナちゃん」
振り返った魔女がにへらと笑った。
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