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562 七宝院グランモール
しおりを挟む駐車場は地上、本棟隣の立体型、地下の三か所。
おれが運転するレンタカーが停まったのは、地下一階にある駐車場。
エレベーターに乗り込み、一階へと降り立ったおれたち五人。
七宝院グランモール内の景色にしばし呆然。
◇
全体として角度のゆるい「く」の字を横倒しにした形状にて、シンメトリーな建物。
中央の連結部分に丸い塔があって、左右に翼を広げるようにして棟が並ぶ。内部構造の概略は以下の通り。
屋上、庭園とガラス張りの植物園があるが、非公開につき立ち入り禁止。
五階、屋内公園、ゲームセンター、映画館などがある遊戯エリア。運営事務局も同階にアリ。
四階、レストラン街。古今東西の料理がここだけで堪能できる。価格帯はピンからキリまで。
三階、商業エリア。雑貨や家電などを扱う店がひしめく。
二階、商業エリア。衣類やアクセサリーなどを扱う店がひしめく。
一階、商業エリア。食料品や酒類を扱う店がひしめく。催事用の会場もアリ。
地下一階、駐車場およびバックヤード(※荷物置き場みたいなもの)。
地下二階、電力や水道を管理するインフラ設備が集まっている。立ち入り禁止。
◇
上を見ても、左を見ても、右を見ても、どこもかしこもピカピカ。
ついでに下を見たら床もピカピカに磨き込まれており、のぞき込んだ自分のマヌケ面が映る。
空間が煌びやかで満ちている。華やかさ、ウキウキ加減は、シーズン真っ盛りなクリスマスのイルミネーションも裸足で逃げ出すほどの浮かれ具合。
「すげえ、なんちゅう広さだ。端っこがまるで見えねえぞ」
おれは年甲斐もなく、キョロキョロ、キョドキョドしっ放し。
「ほへー、丸いビルだぁ」
中央にそびえ立つ塔を前にして、折れそうなぐらいに首をそらしては見上げている芽衣。
「こいつは見て回るだけでくたびれちまいそうだ」
あまりにも大きな施設の規模に、はやくもげんなりしているタエちゃん。
「本当に……、というか一日で全部を見て回れるのかしらん? 自転車が欲しいかも」
そんな感想を口にしたのはミワちゃん。
すると彼女のすぐうしろにいた桔梗が「それなら」と、ある場所を指差す。「自転車は無理みたいですけど、移動手段は用意されてあるみたいですよ」
みれば小さな駅のホームのようなモノがあり、チリンチリンとベルを鳴らしながらゆっくりと走る七両編成のミニ機関車の姿があった。
遊園地とかにある電車の乗り物。
そんなシロモノが施設内を走行している。
どうやら客たちの足代わりとなり、もてなす趣向らしい。もちろん利用は無料にて乗り放題。
「ほぅ、いかにも子どもが喜びそうな仕掛けだな」
「いえいえ、大きなお友達にも大人気になりますよ、きっと」
「そうそう、鉄道オタクには熱心なヤツが多いからなぁ」
「えーとパンフレットによれば、各階で走っている車両がちがうみたいです。そればかりか、天候やら季節、催し物などに合わせて期間限定にて特別列車も運行するとか」
「なにやら並々ならぬ情熱を感じますわね。責任者はよほどの鉄道好きなのでしょうか」
五人しておもいおもいの感想を述べていると、ピンポンパンポーン。
聞こえてきたのは館内アナウンス。
『皆さま、本日は七宝院グランモールにご来場いただき、誠にありがとうございます。お知らせいたします。まもなく一階催事場におきまして説明会を開始します。つきましてはイベント参加者は、お手数ですが催事場への移動をお願いします』
アナウンスを聞いて、「せっかくだから電車に乗っていこうか」とおれは提案するも、みんな考えることは同じだったらしく、停留所にははやくも長蛇の列。
出遅れてしまった。あの分では待っている時間で、目的地についてしまいそう。
ゆえに電車移動は諦めて、自分の足で歩いて向かうことになるも、内心、ちょっとガッカリしている自分におれ自身が驚いている。
◇
一階催事場はひらけた空間、そこにはパイプ椅子がずらりと並び、はやくも席が埋まりつつある。座席の数からしてイベント参加者って二百人ぐらいいるんじゃないのか、これ?
おれたちは五人固まって座れる場所をどうにか探し、「やれやれ」と腰を下ろすも、その時のことであった。
「げっ、雑種! なんでアンタがここにいるのよっ」
「なっ、駄犬! どうしておまえがここにいるんだ」
たまさか隣合わせになったのは、一流ブランドのスーツをピシっと着こなしているドーベルマンカマこと千祭史郎(せんやしろう)。
我が尾白探偵事務所の商売敵、駅向こうに看板を掲げている桜花探偵事務所の高月支店を預かる男。おれとの仲は互いの呼び方により一目瞭然であろう。
よりにもよってそんな男と並んで座ることになろうとは……。
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