おじろよんぱく、何者?

月芝

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664 七福神めぐり 七柱

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 頼みの綱であった芽衣が足つぼ地獄へと落下。
 ミニゲームのスラックライン、踏破失敗!
 だからバカ高い御朱印代を払わされるのかとおもいきや、「ノーッ」と悶えるタヌキ娘の姿に腹を抱えてケラケラ笑っていたミイちゃんが「あー、二千円でいいよ。おもしろいものを見せてもらったし。でも文福茶釜が芸に失敗するなんて、プークスクス」

 文福茶釜とはタヌキの昔ばなし。
 世話になった和尚さまへの恩返しにと、タヌキが綱渡りの芸で荒稼ぎをして、寂れた寺を盛り返すというお話。
 ここでそいつを持ち出したということは、ミイちゃんは芽衣がタヌキの変態であることを見抜いていたことになる。
 だからてっきり彼女もご同輩かとおもいきや。

「私? あー、ちがうちがう。私はこっち系だから」

 言いながら着ぐるみの尻尾をひらひら。
 まるで本物のネコの尻尾のようにうねうねしている。
 ただし数が一本多い。それすなわち……。
 ハッと気がつき正体を口走りそうになったところで、彼女が自身の口元にひとさし指を当てて「しーっ」のポーズ。
 あわてておれは口をつぐむ。

  ◇

 覚住寺のマスコットキャラクターのミイちゃん。
 そのモデルは昔、住職に可愛がられて居ついていたノラネコ。とにかく人懐っこいネコにて、彼女目当てに客がちらほら寺を訪れていたそうな。
 そんなネコちゃんだが、長らく功徳のある住職の唱えるありがたい読経を耳にし、境内に充ちた神気に触れて、だらだら過ごすうちに気がついたら尾っぽが二つに分かれていたそうな。
 で、どうしたのかというと、あいかわらず寺に居ついてだらだら過ごしている。
 マスコットキャラクターに扮して。

 なんぞという土産話をもらって第六の霊場を出発したおれたち。
 いよいよ七福神めぐりもラスト。

  ◇

 第七の霊場は寿老人を祀っている宝生寺。
 寿老人は神仙。酒好きの長寿の神さま。頭部がわりと長めなこと意外は、杖を持った白美髭の好々爺といった容姿。

「あれ? それって第三の霊場である長林寺の福禄寿さまとモロかぶりじゃないの」

 とおもったそこのあなた。じつにお目が高い。
 たしかに見た目がけっこう似ている。というか、そっくり。
 ゆえに一時期は同一視されていたこともあったんだとか。
 しかしちがいもあるっちゃある。
 どちらもおでこがにょーんとしているのは同じだけれども、福禄寿さまは耳たぶがとにかくデカい。でもって寿老人の方はやたらと桃やシカを連れている。
 でもやはりまぎらわしい。
 そこで寿老人の方は頭巾をかぶってるオシャレバージョンもある。ぱっと見、各地を旅しているえらい俳句の人っぽい格好。
 神さまも七人グループともなれば個性を出さなければ埋没してしまうのは、どこぞのアイドルグループと同じ。

 いろいろたいへんそうだなぁ、とかぼんやり考えているうちに、はや宝生寺に到着した一行。
 さっそく境内を散策しはじめようとしたのだが……。

「橋がありますね。えーと、宝生寺長寿橋ですか。えーとなんていいますか」

 表現に困って言い淀む芽衣。しかしそれも無理からぬこと。
 むきだしコンクリートのアーチに鉄の欄干。そんなシロモノが川や池にかかるでなし、地面の上にぽんとおかれている。
 あえてこれ以上は語るまい。
 物の見え方、感じ方はひとそれぞれなのだから。
 どうしても気になる方は現地を訊ねるか、インターネットで画像検索でもかけるなり、御随意に。
 ちなみに境内にあるこの橋を渡ると十年寿命が延びるそうだ。
 だからって、みんな目の色を変えて何度も行ったり来たりするのはどうかと思う。

 爺婆たちの猛烈な姿を目の当たりにして、芽衣がポンっと手を打ち言った。

「あっ! わかっちゃった。だからコンクリート製なんだ。こんな調子じゃあ木とか蔓だと、すぐに橋が落ちちゃうもの」

 う~ん、はたして真偽やいかに?

  ◇

 本堂の内部はけっこう色彩豊か。
 両脇の壁に飾られた大きな曼陀羅図のタペストリーも見事。
 あと鉢型のお鈴が立派。どれくらい立派なのかというと、鳴らすのに少年野球チームで使っているバットくらいの棒が必要なぐらい。うかつに持ち上げようとすれば、たちまち腰を痛めることであろう。

 仏さまのほかに寿老人専用のブースも設けられており、高月中央商店街の一行はこちらを熱心に拝み倒す。

「へこへこ頭を下げて、橋をぴょんと渡るだけで寿命がのびるんだから、チョロいもんだよ」

 とは花伝オーナー。罰当たりの因業化石タヌキババアは、まだまだいじきたなく現世にしがみつく気マンマンだった。
 やや呆れたおれと芽衣は適当に拝んでから先に表へと出る。
 するとそこで待っていたのが、ここ宝生寺のマスコットキャラクターなのだが、これがまたツッコミどころ満載のとんでもキメラだった。


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