665 / 1,029
665 七福神めぐり フランケンシュタインの怪物
しおりを挟む三つ首にて、左から順にツルとシカとカメの生首が並ぶ。揃いも揃って瞳孔が開いた死んだ魚の目をしている。
ぷりんと丸い胴体は大きな桃をかたどったもの。ただしあまり美味しそうに見えない。というかうっすらと色褪せているせいか、ちょっと青味がかっている。
背には桃の葉の小さい翼。
手足が極端に短い。
なのに両手がヒョウタンと杖で塞がっている。
ちょいと小突いただけでひっくり返って起き上がれなくなりそう。
宝生寺のマスコットキャラクターのバサラユセイくん。
名前の由来は真言の「おん、ばさらゆせい、そわか」から。なんでもこれはありがたい菩薩さまの延命呪らしい。
桃といえば西遊記で孫悟空が食べた逸話が有名で、不老長寿の果実の代名詞。
ツルは千年、カメは万年。これについては言わずもがなであろう。
シカにかんして長寿と自然との調和のシンボルとして、知る人ぞ知る。
ヒョウタンの中身は寿老人の好物であるお酒にて、酒は百薬の長。
でもって杖は……、ちょっとわかんない。
たぶん長いから長生きとか、桃の木で出来ているとか、そんなところであろう。
いかに長命のご利益が売りの神さまがだからとて、なでもかんでも盛ればいいというわけじゃない。なにごともバランスが大事。詰め込み過ぎはよくない。
それを無視して欲張った結果の失敗作が、いまおれたちの目の前に……。
◇
バサラユセイくんにジト目を向けつつ芽衣がぼそり。
「わたし、あの怪獣映画に登場する三つ首龍のすごさにあらためて気がつきました」
長く愛されるデザインにはちゃんと理由がある。
しびれるほどに憧れる破壊の権化。荒々しくも雄々しい勇姿。敵なのに金ぴかボディで、主役を喰うほどの存在感とカッコよさ。おまけに空まで飛べちゃうわ、首だけからでも再生しちゃうわ、何度でも復活するわ。
倒されても倒されても蘇るということは、それだけファンが多く、制作陣からも愛されているということ。
洗練され完成された造形美。
う~ん、あれはいいもの。
だというのにである。
比べてこのバサラユセイくんは何だ?
目の前に立つ醜怪なキメラ。中途半端なマネはけっしてリスペクトとは云えない。もはや悪ふざけの域に突入している。デザインの煮詰め方が甘い。全然足りてない。
モデルとなったであろう怪獣が俊逸すぎて、その雑さが浮き彫りとなってしまっている。
せめてゆるキャラ寄りにするのか、リアル系にするのか、はっきりして欲しかった。
とにかく残念な仕上がりにて、ガッカリマスコットキャラクターランキング、七福神めぐりの中でもぶっちぎりのワースト第一位。
わー、おめでとう、パチパチパチ。
なんぞと探偵と助手が言いたい放題していたら、そこに高月中央商店街の一行も合流。
ひと目見るなり開口一番、「ひどいねこりゃ」「ないわぁ、これはさすがにないわぁ」「方々にケンカを売ってるのか?」「おれだったら発注元に殴りこんで火をつけてる」「もはや金をとっちゃいけないレベルだね」「いまどき素人でももう少しマシだろうよ」「いっそ手作りだったら、まだもう少し愛嬌があったのかもな」「なまじプロ仕様が鼻につく」「うちの商店街もゆるキャラ導入をとか考えていたけど、ちょっと考えなおした方がようさそうだな」「もういいから、とっとと最後の御朱印を記帳しろ」などなど。
酷評の嵐である。
七福神めぐりもいよいよ大詰め。
これまでに六体の個性あふれるマスコットキャラクターたちと触れあってきた面々は、良きにつけ悪しきにつけ、目が肥えていた。そしてテンションもほぼマックス状態にて、気もずいぶんと大きくなっている。
そんな状態の高月中央商店街の一行を迎え入れることなったことが、バサラユセイくんの悲劇。
だがバサラユセイくんはおもいのほかに打たれ強かった。こんなことではへこたれない。
「ふっ、その程度の罵詈雑言でひるむ我ではないわ。日頃からエゴサーチで鍛えている我の精神力を舐めるなよ」
なんという悲しい告白。
これを耳にして、一同「うっ」と顔を伏せる。なかにはおもわず目頭を押さえ天を仰ぐ者もいた。店を構えて客商売をしているからこそ、無責任なレビューのつらさは骨身に染みている。
そしておれたちはそろってハッと気がついた。
悪いのは彼じゃない。悪いのは彼をこんな風に作って、世に送り出した製造元だということを。
彼は憐れなフランケンシュタインの怪物。
真に唾棄すべきはやっつけ仕事をしたそいつらであって、世間の冷たい目にさらされながらも健気にがんばっているバサラユセイくんではない。
だというのに、おれたちは……。
いつのまにか自分たちがとんだクソ野郎に成り下がっていた。
そのことを自覚し猛省したおれたちは、輪となって不細工な着ぐるみを取り囲んでは、ヒシと抱きつく。
「うわーん、ごめんよう」「すまんかった」「勝手ばかり言って悪かったなぁ」「そうだよな。オケラだってアメンボだって便所コオロギだってダンゴムシだって、みんなみんな一生懸命に生きてるんだもんな」
かくして境内が感動に包まれたところで、「じゃあ宴もたけなわにて、そろそろ御朱印を」とはならずに、きっちりミニゲームがスタート!
バサラユセイくん、感情と雰囲気には流されない。そこんところの線引きはとってもシビアだった。
チャレンジするのは「落ちたら負けよ、いやん、桃尻相撲」とかいう、いかがわしさ満点のゲームであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
41
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる