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021 ポポの里防衛戦。序盤戦!
しおりを挟む里の正面ではロウさんが孤軍奮闘。
というか、凶刃閃くのが危ないから、誰も近づけやしない。
里の広場では父タケヒコが囮役となって、敵の注意を惹きつけつつ、その隙に女性陣が側面より竹槍や弓矢にてちくちく数を減らしている。
これ以外にも、すでに里のあちこちにてサルとの戦闘が勃発。そこかしこにて怒号と血煙があがっている。
その様子を上空から見下ろしていたのは、勇者のつるぎミヤビに乗っている、剣の母であるわたしことチヨコ。
わたしの役割は、圧倒的機動力を活かした伝令および遊撃手。
文字通りの高見の見物ゆえに、戦場を俯瞰できる立場にて、敵味方の位置や状況がいち早く把握できる。
「ムムム、いまのところ負けてはいないけれども、やはり敵の数が厄介だね。長引くほどに不利になるのは確実だよ。せめて一か所にまとまってくれたら、殲滅も可能なんだけど」
「そうですわね、チヨコ母さま。おそらくはそれを見越しての戦力分散なのでしょう。数を活かした戦術。欲情まみれのハレンチザルのくせに、妙に知恵が回ること」
「ちなみになんだけど、ミヤビが本気になったらどうかな?」
「わたくしですか? そうですわね……、たぶん里一帯が更地になるかと」
ひとふり千殺。敵も味方も森の木々もおかまないなし。
だって斬撃は相手を選んで避けてはくれないから。
バッサリ、ザックリ、気合一閃。すべてが根こそぎ刈られる。
うちの子、とんだ環境破壊兵器だよ。
「となると、ちょろちょろしつつ援護に徹するのが無難か……」
なんぞと、わたしが今後の方針を固めていると、「あっ、チヨコ母さま。アレを」とミヤビが声をあげた。
見れば、ハチミツ酒造の三男坊のサンタ他、いつもつるんでいる悪童どもがシロザルに囲まれて、窮地に陥っていた。
子どもは隠れていろと言われたのに、じっとしていられずに勇んで参戦したのだろう。
で、あえなく返り討ちにあい、ひんむかれて、いまにもその身に黒歴史を深々と刻まれようとしている。
十一才前後の未成熟な少年たち。上衣はそのままに、下衣の袴(はかま)だけを脱がすとか。おのれサルどもめ、なかなかやりおる。
せっかくだからギリギリまで見物してから、颯爽と駆けつけ、一生返せないほどの恩を着せてやろう。そして極上のハチミツ酒を毎年貢がせるのだ。
しかしわたしのたくらみは、ホランによって阻止された。
里の住人ではない彼もまた遊撃として動いていたのだが、血刀を引っさげて救援に駆けつけてしまう。ちっ。
◇
ホランは瞬く間に三体のサルどもを仕留める。
滑るように大地を移動し接敵。流れる刃が首筋の急所を撫でたかとおもえば、吹き出す真っ赤な鮮血。宵闇に血の雨が降る。
「無事か! ガキども。ったく無茶をしやがって、ケガはないか?」
助けられたサンタたち。やや放心状態にてコクコクとうなづくばかり。
これを背に庇いつつ、襲ってくるサルを斬り、近寄るサルには切っ先を向け、周囲をにらんで牽制するホラン。
突然の乱入者。凄まじい戦いぶりにシロザルたちは怯む。
この隙を突いてどうにか血路を開こうと、ホランが動き出した矢先のこと。
敵勢を割って悠然とあらわれたのは、他の個体よりもひと回り大きなアカザルであった。
貫禄たっぷり。群れの中でも有数のチカラを誇るのは、他のシロザルどものビクビクした態度を見れば一目瞭然。
難敵の登場に表情が険しくなるのが抑えられないホラン。
さすがに子どもたちを守りつつ戦える相手じゃないと判断したわたしは、ここで参戦。
上空から急降下した勇者のつるぎ。
シロザル数体を跳ね飛ばし、地上へ。
「遅いぞ、チヨコ!」怒鳴るホランを無視し、「そっちの赤いのはお願い。こっちの白いのとサンタたちは、わたしとミヤビが引き受けるから」
空から舞い降りた白銀の大剣と小娘。
半裸状態のサンタたちとシロザルどもの間に立ちふさがる。
わたしはともかく、神々しいまでのミヤビの威容に、長い尻尾を丸めるシロザルたち。
しかし次にシロザルたちの目がそろって点になった。
なぜなら勇者のつるぎがピカッっと輝き、みるみる小さな白銀のスコップに変身したからである。
白銀のスコップを右手に握ったわたしは、何やらそれっぽい構えをとる。
珍妙な小娘の登場にサルたちはたいそう困惑した。
でも、じきに一斉に「ウキキキ」と嘲笑に転じる。
上には全力で媚びへつらい、下には居丈高となって調子に乗る。
それが野生の法則。
だからサルどものこの態度は、あながちまちがってはいない。
けれどもサルどもはひとつだけかんちがいをしている。
剣士は剣を手にして十全となり、料理人は包丁を握り十全となる。同様に農家の小娘がスコップを持つ。その意味をやつらは身をもって知ることになる。
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