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月芝

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027 先触れ

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 どんちゃん騒ぎの祝勝会の夜が明け、早朝。
 朝モヤの中、ポポの里の入り口にあらわれたのは五頭の騎竜。背には武装した軍人の姿があった。
 ちなみに騎竜とは、二足歩行をする大きなトカゲの銅禍獣を品種改良し、人が乗れるように飼育されたもの。いかなる悪路もモノとはしない機動力を誇るが、長距離はちょっと苦手。
 先頭にて集団を率いる隊長の男。
 騎竜の手綱を操り、粗末な門へと近づく。
 するとそこには酒瓶片手に「ぐーすか」高いびきの老爺の姿があった。隻腕隻足にて、そばには不細工な杖が転がっている。
 鼻ちょうちんにてだらしない寝姿。
 これを見下ろし、隊長はうしろにいる部下たちに「おおかたケガを負って働けなくなったから、門番のカカシにでもされたのだろうよ。不憫なことだ」と告げ、口角をやや歪める。
 丁寧な口調ながらも言葉には蔑みがこもっており、察した部下たちは追笑を浮かべた。
 隊長は手にした槍の穂先を寝ている老爺に向け、「おい、ジジイ」と横柄に声をかける。
 それがどれだけ危険な行為なのか、気づきもしないで。

 パチンと鼻ちょうちんがはじけた。

  ◇

 昨夜の祝勝会はおおいに盛りあがった。
 あまりの盛りあがりっぷりに、あやうく婆さま連中の裸踊りが炸裂するところであった。
 せっかくサルどもの脅威から里が守られたというのに、衝撃にて男たちが減退期を迎えたら元も子もない。
 寸前でどうにか食い止めた里長のモゾさん。あんたこそ真の勇者だ。
 なんてこともありつつ、大人に混じってすっかり夜更かし。
 いささか寝過ごした朝。
 小さな白銀のスコップとなったままのミヤビを懐に、井戸から水を汲む。わたしがバシャバシャ顔を洗っていたら、父タケヒコがふらりと姿を見せた。
 おはようの挨拶もそこそこに水を所望するしかめっ面の父。こめかみのあたりを親指でグリグリしている。どうやら二日酔いにて頭が痛むらしい。母とはちがって父の酒量は並みよりちょい上ぐらい。昨夜の勢いで呑めばこうなってもしようがない。
 けれどもわたしが差し出した水をゴクリと飲むなり、元気ハツラツ!
 これはわたしの持つ水の才芽による恩恵。手ずから関わった水に効能が宿る。
 とはいえ、よもや二日酔いにまで効くとはね。
 びん詰めにして酒場で売ったらイケるか? あー、でも、やっぱりダメだ。呪い師のハウエイさんに、きっとにらまれる。医療行為に抵触する商活動は、呪い師の領分を犯すからね。わたしはまだ死にたくない。

 元気になった父が畑へと向かうのと入れ違いに、姿を見せたのはホラン。
 これまた父同様のしかめっ面。調子にのって浴びるようにハチミツ酒をガブ飲みしていたから当然であろう。だから汲んだ水を飲ませたら、とたんにスッキリシャッキリ。

「すげーな嬢ちゃん。聖都で売り出そうぜ! がっぽり稼げるぞ!」

 ここにもまた欲にまみれた亡者が……。
 昨夜は「やるじゃん、影矛」とかひそかに見直していたのに、キレイにふり出しに戻る。
 ダメな大人の背中をみて、子どもはすくすく育つ。
 ゆえにもちろん提案はお断り。
 だってそれをしたら、きっと聖都中の医師や魔術師、呪い師たちを敵に回し、商人たちからつけ狙われる身となるだろうから。
 ただでさえ剣の母に選ばれたことで恋愛運が壊滅的なのに、穢れた大人たちばかりからモテる灰色の青春なんて、まっぴらごめんである。

「で、早くから何の用? 朝ごはんならないよ。お母さんもカノンもまだ寝てるし。昨日のサル汁の残りならあるけど」
「べつに朝めしをたかりに来たんじゃねえよ。それよりもすぐにいっしょに来てくれ。じつはちょっと面倒なことになってなぁ。ほら、祝勝会のときに悲鳴をあげて逃げていったヤツがいただろう?」

 昨夜の出来事を思い出し、わたしも「あー、そんなのもいたねえ」
 ホランによると、その逃げた人ってのが、聖都から剣の母たるわたしを迎えにきた使節団の先触れだったらしい。
 で、辺境の里の狂気の祭り……。
 というか、完全に誤解だけれども。紛らわしい光景を目の当たりにして、ビビッて逃げた。
 逃げ帰った先触れさんは、自分がいかに恐ろしい目にあったのかを、自己弁護を交えつつおおいに吹聴。
 すると報告を受けた使節団の警護役の中でも、武闘派を気取っている自称猛者な軍人たちが「辺境の蛮族、何するものぞ。自分が国と皇(スメラギ)さまの御威光を存分に示さん」と息巻き、夜明けを待ち、意気揚々とポポの里へと出向いてきた……っぽい。

 この話を聞いて、わたしは容易にあとの展開を予想する。

「なるほど。でもってホランさん同様に、ロウさんにちょっかいを出して、ボコボコにされちゃったと」
「ぐぬっ。いささか口惜しいが、まぁ、そういうことだ。でもオレの場合は一人だったが、連中は五人がかり。しかも騎竜にまで乗っていたんだから、どちらかといえばオレの勝ちだろう」

 妙なところで張り合うホラン。
 確かに数的には彼の主張の一部が認められないこともない。けれどもサルどもとの死闘をくり広げた直後という事情を加味すれば、むしろ五人組こそがお気の毒。
 長らく錆びつくままに放置されていた剣が、血を吸って乱舞。かつて最強の座へと手をかけていた武。片鱗とはいえ、そいつが蘇った状態のロウさんと対峙することになるとか、ちょっと同情を禁じえない。

「にしても、昨夜の先触れの人といい、今朝の軍人さんたちといい、ホランさんといい。聖都の人たちってさぁ、つくづく間が悪いよね」

 どうしてなのかしらん。
 わたしが首をひねると、「さぁ」とホランも首をかしげた。
 とはいえ皇の使者を、ぶちのめしたのはいささかマズイ。
 はてさて、どうなることやら。


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