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028 嵐の海の小枝
しおりを挟む請われるままに、わたしはホランといっしょに里の中央へ向かう。
道すがら聞いたところでは、ぶちのめされたのは軍人たち。あの手合いはムダに体面を重んじる。だから目を覚ますなり「無礼千万!」と顔を真っ赤にして、きっとゴネる。
その時のための予防線が、剣の母であるわたしというわけ。
迎えに来た相手から「まあまあ」と言われれば、ひょっとしたら穏便に済ませられるかもという打算である。
じきに中央広場に到着。
すると目に入ったのが、教会の表にて押し合いへし合い、ぴったり密着して寄り添っている五頭の騎竜の姿。
ポポの里に騎竜はいない。けっこうな大飯喰らいにて飼育には専門知識が必要。なので辺境の里では手がでない。
近隣では里から一日半の距離にあるタカツキの街によぼよぼのヤツが一頭いるだけ。だからとっても珍しい。
わたしが近づいてよく見ようとしたら、騎竜たちはめちゃくちゃビクついていた。固まっているのは怯えているから。
かわいそうに。
ロウさんってば昨夜は年甲斐もなくしこたま呑んでたからねえ。
たぶん二日酔いにて寝起きの機嫌は最悪。そんな状態の剣気をもろに浴びてしまったのならばムリもない。
◇
ロウさんにぶちのめされた面々は、教会の床に仲良く寝かされていた。
神父さまと里長のモゾさんが「どうしたものか」と小声でひそひそ。
「困るよぉ。いくら不可抗力とはいえ、さすがに皇(スメラギ)さまの使いを殺るなんて」
おろおろ狼狽するモゾさん。持ち前の肝っ玉の小ささを存分に発揮。
この分では残り少ない毛髪も時間の問題だな。ナムナム。
対する神父さまは、さすがに落ち着いている。
とっくに頭皮が解脱状態なのは伊達じゃない。
「バカタレ! 勝手に殺すでないわ。心配せずともたいしたケガはしておらん。みな一撃であっさり昏倒させられておる。にしても情けない。こんなのが迎えの護衛とはな。じつに嘆かわしい。しばらく見ぬうちに聖都の軍人の質も随分と落ちたものよ。こんな連中にチヨコを預けて、本当に大丈夫なのか?」
なかなか辛辣な神父さま。
このご意見に、ホランがぽりぽり頬をかき、わたしは顔をしかめた。
四人そろったところで、「どうやってこの局面を乗り切るか」「いつものようにハウエイさんの薬で」「いや、全員の記憶を飛ばすのはムズカシイ」「いっそのことすべてサルのせいにして」なんぞと相談をしていたら、床から聞こえてきたのは「うーん」という声。
目を覚ましたのは、のびていた中で一番立派な鎧を身につけていたチョビひげのおっさん。
いかにもなおっさんは、起きるなり顔を真っ赤にして「けしからん!」と大激怒。
自分たちの不甲斐なさは棚にあげて、やれ詫びを入れろ、やれ責任者出てこい、やれ犯人の首を差し出せ、などとやかましい。
で、やんやとうるさいから、残りの軍人たちも目を覚まし、さらにかしましいことに。
好き勝手な主張にて興奮する軍人たち。
あまりにも想像通りの展開。あきれたわたしの顔から表情が消えた。
騒動を見かねたホラン。自分の身分を明かし、いさめようとするも、それより先に動いたのは里長のモゾさん。膝をぷるぷるさせながら、「あのう、おそれながら」と消え入りそうな声を発する。
◇
中身はともかく見た目は屈強な五人の軍人。
向き合うは、ひょろっとした極薄毛中年。
戦力差は明確。
心配するホランが、「まかせて大丈夫なのか?」と小声でたずねてきたので、わたしは親指をビシっと立てた。
ポポの里にはクセの強い愉快な仲間たちがいっぱい。
そんな連中を束ねている男が、たんなる軟弱者であるわけがない。
媚びへつらい、なだめすかし、ときに涙を浮かべ、過剰なほどの身ぶり手ぶりにて平身低頭。
パッと見、ガミガミ怒鳴られ、ひたすらへこへこ。一方的にやり込められている風に見えて、そのじつ不利益をこうむることや、理不尽な要求はのらりくらりとかわす。
強者には強者の戦い方があり、弱者には弱者の戦い方がある。
ときに感情が前面に出てこじれやすい交渉の場は、さながら嵐の海のごとく。
荒れ狂う波に翻弄されるばかりの小枝こそが、我らが里長。
しかし小枝はとっても身軽。流れに逆らうことなく、ゆらゆら浮かぶ。
対してムリな航海を強行している小舟こそが、ちょびヒゲ一同。
どちらが先に沈むかなんて自明の理であろう。
頃合いを見計らって、ちょびヒゲの耳元でそっとささやく里長モゾ。
「いやはや、お怒りはごもっとも。なれどもことが公になれば皆様方の名誉が。栄光ある神聖ユモ国軍の威信にも少々傷が……。いえいえ、脅すなどとはめっそうもない。そもそもの話、五人もの立派な方々が倒されるなんてことが奇怪千万。この地ではいにしえより、ときに森の朝霧が人心を惑わすと申します。もしや運悪くそれに巻き込まれてしまっただけなのかも」
まさかの夢オチ!
すべてをなかったことにしようという荒業。
さすがにちょっとムリくりが過ぎるのでは?
交渉の行方を見守るわたしはヤキモキ。
しかしモゾさんの術中にはまり、散々に思考をかき乱された状態にあったちょびヒゲは、あっさり折れた。
小物ほど自己保身に長けている。そのくせ部下の手前、なかなか引き下がることもできない。
だからもっともらしい理由ときっかけさえ与えてやれば、パクリとエサに喰いつく。
「では、我らはこれより戻って使節団を案内してくる。くれぐれも丁重に迎えるように」
モゾさんに一本釣りされたちょびヒゲ。尊大に言い放つとフンと鼻を鳴らし、部下を連れて教会を出ていった。
やったぜ、さすがは我らが里長!
でもこれならわたし、必要なかったよね?
えっ、やってもらいたいことが他にもあるの? へいへい。
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