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029 使節団
しおりを挟むホランから渡された桶(おけ)を受け取り、わたしは中身を「えいや」と撒く。
広場にて何をしているのかって?
ご覧の通り、せっせと水を撒いているんだよ。
ほら、昨晩はここで数多のサルどもの首を刎ね、脳みそをほじくり、ナニを抉ったから。
脳みそ祭りのせいで地面のあちこちにはどす黒い染みが。あとニオイも若干残っている。
そんなところに、皇(スメラギ)さまから遣わされた使節団を迎え入れるわけにはいかない。
「どうしよう」急な来訪に頭を抱えた里長のモゾさん。
すると神父さまが「ならばチヨコにやらせるがよかろう。あれの水の才芽ならば、きっと不浄なる気もさらりと流されるはずじゃ」
読み通りわたしが撒いた水にて、みるみるキレイになっていく広場。
でもそのせいでわたしの細腕がパンパン。
っていうか、そもそもの話、剣の母であるわたしを聖都に招くための使節団だよね?
なのに当人に重労働を強いるって、ちょっとおかしくない?
ぶつぶつ文句を垂れていたら、「口より手を動かせ」とホランに注意された。
なんか納得いかねえ!
◇
プィーン、ピーヒャラララン、ピヒャアー、チーン。
なんともか細く頼りないけれども、聞きなれない旋律と音域にて、ちょっと高貴っぽい音色。
そいつを引きつれて使節団が姿を見せた。
上等な着物の官吏、ひらひらした格好の女官、器用に歩きながら演奏する楽師、騎竜や騎馬にまたがった勇壮な軍人たち。立派な四頭立ての馬車に荷車。総勢百を優に超える行列。
想像していたよりもずっと多い!
そしてとっても大袈裟っ!
出迎えた里人たち、みんなの目が点になる。
だって、ポポの里の全住民の数よりも押しかけた連中の方が多いんだもの。
家族そろって出迎えたわたしたちも、これにはあんぐり。
当然ながら慎ましやかな辺境の里の広場では、まともに入りきれるわけもなく、ぐるぐるトグロを巻くようにして、ぎゅうぎゅう。どうにか行列を収めた。
トグロ状になった使節団。
これを割るようにして静々と中心より姿を見せたのは、小太りの官吏。
まっすぐにこちらへと向かってくる。
そして母アヤメの前にかしずくなり、「ごきげんよう、剣の母さま。使節団を預かるガラムトと申します。以後、お見知りおきを」
うちの母は里一番の美人。十八でわたしを産んだので、まだ三十手前。もとから若々しいところに加えて、わたし印の健康優良水を使用するようになってからは、その美にますます磨きがかかっている。
ぶっちゃけ華があるので、官吏のえらい人がまちがえてもしようがない。
まちがわれた当の母もしなをつくりつつ、「あらまぁ、どうしましょう。困ったわ」と満更でもないご様子。
するといつの間にやらわたしの隣にいたホラン。「えへんごほん」とわざとらしい咳払い。ちらちら目で合図を送り、暗にまちがいを指摘。
あわてたガラムト。汗をかきかき、「あまりにも見目麗しく、まぶしさゆえに、つい。これはとんだご無礼を。ではあらためましてごきげんよう、剣の母さま」
詫びつつ彼が次にかしづいたのは、愛妹のカノンの前であった。
◇
しばしの沈黙。
カノンより「ちがうよ、おじちゃん。剣の母はおねえちゃんだよ」と教えられて、自分が大ポカを連続でかましたことを悟ったガラムト。気の毒なほどに狼狽。みるみる顔が青ざめ、額からは滝のような汗。
すっかり微妙な空気となった現場。
どうやって収めるのかと興味深げに待っていたら、ガラムトは恥も外聞もなく、地に額をつけて「すみませんでしたーっ!」
出し惜しみなしの全力全開。
それは洗練された見事な所作にて、一朝一夕にはマネできない完成されたシロモノ。
数多のムズカシイ局面にて交渉を締結させてきた、あの里長のモゾさんをして「謝罪の神、降臨」と感嘆せしめたほど。
いいモノを見れたのでわたしはムフンと満足。快くガラムトの謝罪を受け入れる。
もっともスコップに変じて懐に控えていたミヤビは、最後まで「失礼ですわ」とぷりぷり怒っていたけれども。
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