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031 中立派
しおりを挟むちょっと耳に入れておきたい情報があるというので、ホランとカルタさんを自室へ招き、粗茶をふるまう。
ひと口すするなり「ウマっ!」とカルタさん、目を見開く。
「えっ! 何これ? めちゃくちゃ美味しいんだけど。私よりぜんぜん淹れるのが上手じゃない」
「あー、それは腕のせいじゃなくって才芽の影響だよ」
かくかくしかじか。わたしが水の才芽について説明すると、カルタさんは興奮。
「スゴイじゃない! 聖都で売り出したら大儲けよ」
どこかで聞いたような台詞である。
わたしがジト目を向けると、ホランはついと顔をそらした。
「っていうか、嬢ちゃん。さっきから気になっているんだが、どうしてオレはちょいちょい呼び捨てで、こいつは『さん』づけなんだ?」
「どうしてって、雰囲気とか品格の差かな。あとはニオイ?」
なんとなく汗のすえたような漢臭と、ギュッと抱きしめたくなるようないいニオイ。
どちらを尊重するかと問われたら、迷うことなく後者であろう。
素直に答えたらホランがへこんだ。
カルタさんは腹を抱えてケラケラ笑っている。
おかげで話がちっとも進みやしない。
◇
ホランがカルタさんを連れて、わざわざわたしに会いにきた理由。
紹介するためだけでなく、じつは今回の使節団の内幕について教えておくため。
「ホランから聖都の事情のあらましは聞いているんでしょう?」
カルタさんの言葉にわたしはコクンとうなづく。
天剣(アマノツルギ)をもたらす剣の母。
これをめぐって、第一妃派と第二妃派が激烈な綱引き合戦を展開中。
なんとしても自分の息のかかった者を使節団として派遣し、何も知らぬ小娘を篭絡して自陣へ組み込もうと画策。そうすれば次期皇位をめぐる争いに有利になるから。
まったく実感はないのだが、どうやらわたしはスゴイらしい。
「ぶっちゃけ今回の件ではモメにモメてねえ。あんまりにも話がまとまらないから、ついに皇(スメラギ)さまが重い腰をあげたのよ」
あえて妻同士や子どもらが争うにまかせている絶対権力者。
国を背負って立つならば、覚悟と気概を持て。その程度でつぶれるのならば惜しくはない。という厳しい教育方針。
とはいえ、あんまりモタモタしているうちに他国の者に出し抜かれては意味がない。
そこで折衷案として提示したのが……。
「アレなの?」
「そう、アレなのよ」
わたしとカルタさんに「アレ」呼ばわりされたのは、使節団を率いるガラムト。
初っ端からいろいろトンチンカンなことをして、笑いを提供してくれただけでなく、それはもう見事な土下座まで披露してくれたおっちゃん。
「あんまり言ってやるな。ああ見えてマジメな方なんだ。仕事一筋でどこの派閥にも属していない。もっとも、だからこそ皇さまに選ばれたのだろうが」
ホランによれば、ガラムトのおっちゃんはどっちつかずの中立派。
官吏にしろ軍人にしろ女官や衛士もそうだが、みなキビシイ試験や訓練を経て着任している。
よくいえば叩き上げ。悪くいえば後ろ盾を持たない者たち。
貴族がいて家柄があり、生まれながらに明確な身分差が存在する神聖ユモ国では、裏でいろいろある。コネとかコネとかコネコネとか。
そんな環境にもめげずに日々がんばっている者たちの代表格がガラムトにて、そういった出自の者らの大半が中立派。しょうもない派閥争いには我関せずを貫いている。
上が誰になろうとも、自分は自分の仕事をするだけさ。といった感じ。
宮仕えって給金がよくて安定しているけれども、とってもたいへん。
「で、代表はガラムトさまなんだけど、使節団の中には第一妃と第二妃、双方の息がかかった連中がけっこう混じっているのよ。きっと聖都への道中にあれこれちょっかいをかけてくると思うから。私もできるだけがんばるけど、チヨコちゃんもいちおう覚悟はしておいてね」
守るには守るが、最後に頼れるのは己のみ。カルタさんからそう宣告される。
どうやら影盾もあんまり頼りにはならないらしい。
わたしがタメ息混じりに「やれやれだぜ」とつぶやくと、懐の中のミヤビが「チヨコ母さまには、わたくしがついておりますわ」とこっそり励ましてくれた。
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