剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

文字の大きさ
32 / 81

032 旅立ち前

しおりを挟む
 
 ポポの里に使節団が来て二日目のこと。

「明朝、発つ」

 使節団の代表ガラムトから直々に告げられ、わたしは「へー」
 事前にホランとカルタさんから、予定については聞かされていたので驚きはない。
 なにせ使節団は大所帯。これらが居座り続けるにはポポの里はあまりにも手狭。
 ゆえに里から一日半のところにあるタカツキの街にひとまず移動。
 しばし休息し英気を養ってから、本格的に聖都を目指すそうな。
 なお旅の間中、わたしはお神輿状態にて上げ膳据え膳らしい。下着の替えまで用意されているから、手ぶらでいいとのこと。
 楽ちんなのは素晴らしい。
 ホクホクしていたら、こそっとカルタさんが耳うち。

「満ち足りた怠惰。それは甘い毒。知らず知らずのうちに心と体を蝕むから、くれぐれもご用心を」

 どうやらわたしをつけ狙う連中は、子ブタちゃんを丸まる太らせてから、美味しくいただく算段であったようだ。
 くわばらくわばら。

  ◇

 出立することが決まったとたん、ウワサを聞きつけた里人らが続々と家に顔を出す。
 涙を浮かべて「元気でね」と別れを惜しんでくれる者、「しっかりやれよ」と応援してくれる者、「あとのことは心配するな」と請け負ってくれる者。万歳三唱にて「郷里の誇り」とよろこぶ者。
 そんな中にあって数名ばかし、反応が気になる人たちがいた。

 やたらと笑顔が際立つ里長のモゾさん。
 いつになく満面の笑み。
 理由をたずねたら「いやー、剣の母を輩出した地ということで、中央からかなりの援助が確約されてねえ。まいったまいった。これから忙しくなっちゃうなぁ」
 街道がビシっと整備される。辻馬車の定期路線ができる。それに伴い荷物や人の往来が活発になる。里を守る堀や壁も設置される。
 ないない尽くしの寂れた辺境が、かつてない好景気に見舞われ、発展することは確実。
 おいでませ、明るい未来。
 それを成した偉大な里長として、剣の母チヨコとならんで銅像ぐらいは建っちゃうかも。これには思わず顔もほころぶというもの。
 フム。わたしとしては、とりあえず銅像うんぬんに関しては願い下げである。

 神妙な面持ちの神父さま。
 でも口の端々にて笑みを必死にこらえているのが見え隠れ。
 かわいい教え子の門出を祝ってというには、少々様子がおかしい。
 だから理由はたずねたら「いやー、じつは本部が教会を建て直してくれるそうでなぁ。ボロ鐘まで新しくしてくれるという。しかも待望の神像も設置されるそうな。ありがたやありがたや」
 神聖ユモ国の国教は二柱聖教。
 男老神コウボウと女神ガラシアを信仰している。
 なのにこれまでポポの里の教会には神像のひとつもなかった。
 神像を造るのを許されているのは教会本部が認定した彫刻師のみ。いろいろと利権が絡んでいるので、その分だけ上積みされる設置費用。辺境の東のはずれのきわきわにある里なんかでは、とても手が出ない。
 しようがないので、これまでは素人が彫ったそれっぽいモノを拝んで、お茶を濁してきた。
 このあくまで「それっぽいモノ」というのがミソ。
 どこぞより「おい!」と文句を言われても「はぁ? アレは神さまとはちがいますけど」とすっとぼけられる。
 とはいえ、これはかなりミジメな話。
 さらば、屈辱の日々よ。
 おいでませ、神像たち。明るく健全な信仰生活!
 あぁ、あと学び舎の先生も新任されるそうで、「ようやく悪ガキどもの世話から解放されるわい」と神父さまウハウハ。
 この話を聞いたとき。
 どうしてだかわたしの脳裏には、売られてトボトボ去っていく子ウシの姿が浮かんだ。

 ごきげんの里長と神父さまとは対照的に、渋い表情を見せたのが呪い師のハウエイさん。
 理由をたずねたら「外部から人や物が流れてくるってことは、こっちの儲けが減るってことだからねえ。いまのうちに何か手を考えておかないと」
 ぶつぶつ文句を言いつつ「こいつは餞別だ。せいぜい気張りな」と渡されたのは、薬包が入った巾着袋。赤青黄黒の四色の薬包が三つずつ。

 赤はシビレ薬。量を調節すれば限りなく死に近づける。
 青は眠り薬。量を調節すれば限りなく死に近づける。
 黄は下剤。量を調節すれば内臓をもぶちまけるかもしれない。
 黒はダケさんの胞子。使い方次第で砦ぐらいならば落とせるかもね。

 なにやら物騒な中身である。
 ふつう、旅の餞別といえばお腹が痛くなったときの薬とか、熱冷ましとかなのでは?
 わたしが首をかしげていたら、ハウエイさんは「なぁに、備えあればというやつさ」とにやり。
 さっき「何か手を」とか言っていたけれども、わたしはとっても不安です。

 入れ替わり立ち代わり。別れの挨拶に来てくれた里人たち。
 最後は鬼と見まがう巨体を誇る鍛冶師のボトムさん。
 ムスとしたまま無言にて、ずいと差し出したのは腰に巻く帯革。
 帯刀する者や職人なんかが身につけている品にて、スコップに変じた勇者のつるぎミヤビがすっぽり収まる仕様になっている。
 さっそく身に着けてみると、これまたあつらえたようにピッタリ。そして何やらカッコイイ!
 この気の利いた贈り物を誰よりよろこんだのはミヤビ。「ステキですわ!」と大絶賛。
 勇者のつるぎから褒めちぎられて、すっかり気を良くしたボトムさん。鼻の穴をぷくぷくさせながら帰っていった。
 フム。あいかわらずごつい背中だ。あの無骨な指先で、どうやってこんなイケてる帯革を作れるのか、わたしはふしぎでしようがない。

  ◇

 夜は家族水入らずで静かに過ごす。
 父タケヒコは眉間にしわを寄せてずっとムズカシイ顔をしていた。若干十一歳の娘を遠い聖都に送り出すことに、内心では承服していないのだろう。
 母アヤメはわりとウキウキしている。カルタさん情報によると「剣の母」の実家にも相応の経済的援助がなされるそうで、きっと頭の中ではいろいろ皮算用をしているのだろう。
 妹カノンは終始ニコニコ。どうやら姉の晴れ舞台を誇っているみたいなのだが、わたしとしては心中複雑である。
「おねえちゃん、行っちゃヤダー! わーん」ぐらいの反応が欲しかった。くすん。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...