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032 旅立ち前
しおりを挟むポポの里に使節団が来て二日目のこと。
「明朝、発つ」
使節団の代表ガラムトから直々に告げられ、わたしは「へー」
事前にホランとカルタさんから、予定については聞かされていたので驚きはない。
なにせ使節団は大所帯。これらが居座り続けるにはポポの里はあまりにも手狭。
ゆえに里から一日半のところにあるタカツキの街にひとまず移動。
しばし休息し英気を養ってから、本格的に聖都を目指すそうな。
なお旅の間中、わたしはお神輿状態にて上げ膳据え膳らしい。下着の替えまで用意されているから、手ぶらでいいとのこと。
楽ちんなのは素晴らしい。
ホクホクしていたら、こそっとカルタさんが耳うち。
「満ち足りた怠惰。それは甘い毒。知らず知らずのうちに心と体を蝕むから、くれぐれもご用心を」
どうやらわたしをつけ狙う連中は、子ブタちゃんを丸まる太らせてから、美味しくいただく算段であったようだ。
くわばらくわばら。
◇
出立することが決まったとたん、ウワサを聞きつけた里人らが続々と家に顔を出す。
涙を浮かべて「元気でね」と別れを惜しんでくれる者、「しっかりやれよ」と応援してくれる者、「あとのことは心配するな」と請け負ってくれる者。万歳三唱にて「郷里の誇り」とよろこぶ者。
そんな中にあって数名ばかし、反応が気になる人たちがいた。
やたらと笑顔が際立つ里長のモゾさん。
いつになく満面の笑み。
理由をたずねたら「いやー、剣の母を輩出した地ということで、中央からかなりの援助が確約されてねえ。まいったまいった。これから忙しくなっちゃうなぁ」
街道がビシっと整備される。辻馬車の定期路線ができる。それに伴い荷物や人の往来が活発になる。里を守る堀や壁も設置される。
ないない尽くしの寂れた辺境が、かつてない好景気に見舞われ、発展することは確実。
おいでませ、明るい未来。
それを成した偉大な里長として、剣の母チヨコとならんで銅像ぐらいは建っちゃうかも。これには思わず顔もほころぶというもの。
フム。わたしとしては、とりあえず銅像うんぬんに関しては願い下げである。
神妙な面持ちの神父さま。
でも口の端々にて笑みを必死にこらえているのが見え隠れ。
かわいい教え子の門出を祝ってというには、少々様子がおかしい。
だから理由はたずねたら「いやー、じつは本部が教会を建て直してくれるそうでなぁ。ボロ鐘まで新しくしてくれるという。しかも待望の神像も設置されるそうな。ありがたやありがたや」
神聖ユモ国の国教は二柱聖教。
男老神コウボウと女神ガラシアを信仰している。
なのにこれまでポポの里の教会には神像のひとつもなかった。
神像を造るのを許されているのは教会本部が認定した彫刻師のみ。いろいろと利権が絡んでいるので、その分だけ上積みされる設置費用。辺境の東のはずれのきわきわにある里なんかでは、とても手が出ない。
しようがないので、これまでは素人が彫ったそれっぽいモノを拝んで、お茶を濁してきた。
このあくまで「それっぽいモノ」というのがミソ。
どこぞより「おい!」と文句を言われても「はぁ? アレは神さまとはちがいますけど」とすっとぼけられる。
とはいえ、これはかなりミジメな話。
さらば、屈辱の日々よ。
おいでませ、神像たち。明るく健全な信仰生活!
あぁ、あと学び舎の先生も新任されるそうで、「ようやく悪ガキどもの世話から解放されるわい」と神父さまウハウハ。
この話を聞いたとき。
どうしてだかわたしの脳裏には、売られてトボトボ去っていく子ウシの姿が浮かんだ。
ごきげんの里長と神父さまとは対照的に、渋い表情を見せたのが呪い師のハウエイさん。
理由をたずねたら「外部から人や物が流れてくるってことは、こっちの儲けが減るってことだからねえ。いまのうちに何か手を考えておかないと」
ぶつぶつ文句を言いつつ「こいつは餞別だ。せいぜい気張りな」と渡されたのは、薬包が入った巾着袋。赤青黄黒の四色の薬包が三つずつ。
赤はシビレ薬。量を調節すれば限りなく死に近づける。
青は眠り薬。量を調節すれば限りなく死に近づける。
黄は下剤。量を調節すれば内臓をもぶちまけるかもしれない。
黒はダケさんの胞子。使い方次第で砦ぐらいならば落とせるかもね。
なにやら物騒な中身である。
ふつう、旅の餞別といえばお腹が痛くなったときの薬とか、熱冷ましとかなのでは?
わたしが首をかしげていたら、ハウエイさんは「なぁに、備えあればというやつさ」とにやり。
さっき「何か手を」とか言っていたけれども、わたしはとっても不安です。
入れ替わり立ち代わり。別れの挨拶に来てくれた里人たち。
最後は鬼と見まがう巨体を誇る鍛冶師のボトムさん。
ムスとしたまま無言にて、ずいと差し出したのは腰に巻く帯革。
帯刀する者や職人なんかが身につけている品にて、スコップに変じた勇者のつるぎミヤビがすっぽり収まる仕様になっている。
さっそく身に着けてみると、これまたあつらえたようにピッタリ。そして何やらカッコイイ!
この気の利いた贈り物を誰よりよろこんだのはミヤビ。「ステキですわ!」と大絶賛。
勇者のつるぎから褒めちぎられて、すっかり気を良くしたボトムさん。鼻の穴をぷくぷくさせながら帰っていった。
フム。あいかわらずごつい背中だ。あの無骨な指先で、どうやってこんなイケてる帯革を作れるのか、わたしはふしぎでしようがない。
◇
夜は家族水入らずで静かに過ごす。
父タケヒコは眉間にしわを寄せてずっとムズカシイ顔をしていた。若干十一歳の娘を遠い聖都に送り出すことに、内心では承服していないのだろう。
母アヤメはわりとウキウキしている。カルタさん情報によると「剣の母」の実家にも相応の経済的援助がなされるそうで、きっと頭の中ではいろいろ皮算用をしているのだろう。
妹カノンは終始ニコニコ。どうやら姉の晴れ舞台を誇っているみたいなのだが、わたしとしては心中複雑である。
「おねえちゃん、行っちゃヤダー! わーん」ぐらいの反応が欲しかった。くすん。
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