冒険野郎ども。

月芝

文字の大きさ
32 / 210

032 先頭車両

しおりを挟む
 
 車両内を突如として襲った強烈な揺れ。
 俺はとっさに手をのばし座席の縁を掴む。暴れそうになる我が身を押さえつけ、強引に持ちこたえる。
 ジーンも肘掛けにしがみつく格好で難を逃れていた。
 衝撃で宙へと投げ出されたカオリの小さな体は、キリクが受けとめ庇いどうにか無事。
 揺れはすぐに収まったものの、俺たち一行はともかく、車両内は騒然となっている。大多数の客らが対応できずに、無防備に座席から放り出され、苦し気にうめき声をあげていた。

「ケガはないか」キリクからの確認に「大丈夫みたい。ありがとう」と答えるカオリ。しかし上着を掴む小さな手がかすかにふるえている。
「何が起こった」俺は状況がわからないながらも、周囲を警戒。
「脱線……ではないな。鉄道は変わらず走り続けている。線路上に何か転がっていたのかもしれんが、うん?」

 現状を把握しようとしていたジーン。その視線が窓の外へと釘付けになっている。
 俺もそれに倣うが、相も変わらず車窓が滑らかに流れ続けているばかり。だが、その動きが明らかにこれまでよりも速くなっているような……。

「バカな、ここにきて加速したというのか! じき終着駅のシナイに到達するはずだというのに。今の段階で速度を上げるなんて」

 ジーンの疑問の答えはすぐに判明した。
 前の車両から飛び込んできた制服姿の乗務員。彼が声を張り上げる。

「お客さまの中に魔導士の方はおられませんか? おられましたら、ぜひお力添えを」

 鉄道には動力源の機具を管理運用するための、専属の技師と魔導士らが複数乗務しているはず。なのに客に協力を求める時点で彼らに何かがあったのは明白。おそらくは緊急事態につき、先ほどの揺れとも関係しているはず。
 しかしパーティ「オジキ」は現在、護衛依頼の真っ最中。
 どうしたものかと逡巡しているジーンにカオリが言った。

「護衛ならばキリクたちがいれば間に合うでしょう。だからジーンはあちらをお願い」

 雇い主の許可が出たところで、「では行ってくる」とジーンは乗務員の要請に応じ、すぐに先頭車両へと向かった。

  ◇

 わたしことジーンは制服姿の背を追う。彼は説明や助けを求める乗客らの声を一顧だにすることなく、先へ先へと急ぐ。
 混乱する客車をいくつか抜けて、ようやくたどり着いた先頭の機関車両。

「こちらです」扉を開けて入室を促す乗務員。

 先頭車両内では、五人の人間が床に倒れていた。
 五人が五人とも後頭部から血を流しピクリとも動かない。
 明らかにおかしな状況を前にして、わたしは立ち尽くす。
 機具が放つ唸り。鉄道が線路上を駆ける「ガタンゴトン」という音に混じって、微かに耳が拾ったのは、「ブゥン」という風切り音。
 理解するよりも先に体が動く。大胆にしゃがみこんだわたしは、そのまま前転。
 直後に先ほどまで己の頭があったところを、何かが通り過ぎるのをちらりと視認。
 わたしをここまで案内してきた乗務員の男がふるった凶器。

「ちっ、外したか。魔導士風情がずいぶんといい動きをする」

 態度を豹変させた乗務員。
 その一事でもって目の前の男がニセモノだと、わたしは遅まきながら気がつく。
 どうやらまんまと誘い出されてしまったらしい。

「……狙いはカオリか?」
「さぁね」

 男が質問に答えることはない。しかし代わりに浮かべたいやらしい笑みが、すべてを物語っている。
 手には砂を詰めた革袋のような凶器が握られてある。いかに不意打ちだろうとも、大の男らを五人も昏倒させていることからして、威力は充分。もしかしたら鉄粉でも入っているのかもしれない。強い衝撃を放つ武器。下手に受けたら骨ごとやられてしまうか。
 わたしは自分の装備を素早く確認。愛用の弓は役に立ちそうにもない。詠唱短縮の指輪は現在切らしている。腰のポーチにはいくつかの魔具が入っているものの、この場で助けとなる品はない。武器らしい武器といえば足のブーツに仕込んである隠しナイフぐらい。
 対する男は、いかにも荒事に慣れた様子。ややこちらを侮っているみたいだが、それとても演技かもしれない。警備が厳重だといわれる鉄道。そこにまんまと入り込んでは犯行を重ねている時点で、とにかく油断がならない相手と考えるべきであろう。
 なによりこれだけのことを仕出かしておいて、単独犯というのは考えにくい。仲間が他にもいると見ていい。
 わたしの思考はそこで中断される。
 男が動いたからだ。
 軽やかな踏み込みからの横蹴り。絶妙の間合いにて振り抜かれた右足。胴体を薙ぎ払うかのような軌道が、途中で変化。カクンと急降下。その先にはわたしの無防備な膝が晒されてある。
 避けられない。このままだと関節が砕かれる。
 そう判断したわたしは、弓を手放し、あえて相手に向かって深く踏み込む。
 てっきりこちらが棒立ちで蹴りを喰らうか、無様に後方へ逃げ惑うかと考えていたのだろう。男がギョッとした表情を浮かべた。
 まぁ、そうだろう。一般的な魔導士の反応としては、せいぜいそんなものだ。
 だが生憎と、わたしは少々変わり種でね。

 深く踏み込むことで蹴りの威力を殺し、回転を未然に防ぐ。
 しかし男の本命は別にあった。蹴りの影に隠れるかのようにしてくり出されたのは、手にした凶器。
 最初から蹴りは獲物の動きを止めるだけにて、トドメはこちらでと目論んでいたようだ。
 弧を描くように上段から迫る革袋。どうにか頭部への直撃を避けたとて、肩か背中に喰らうことになる。
 防いではダメだ。あくまで避け切らなければならない。
 わたしは男の懐間近まで接近。相手の胸倉を両手で掴むなり、そのまま迫る敵の勢いを利用して、男の体全体を自身を軸とした動きに巻き込む。
 蹴りが不発となった男は片足立ちにて、不安定な態勢ながらもこの動きに抗う。
 その抵抗を薙ぎ払うかのように、わたしは足を勢いよく払った。
 瞬間、二人の間にあったすべてのチカラが連結する。
 密着状態から放たれた投げ技が炸裂。
 天地が逆転。二人分の体重を乗せて、男の背が固い床へと叩きつけられる。

  ◇ 

 どうにか捨て身の投げが成功。実戦で試したのは初めてだったが、決まってくれて助かった。
 わたしはムクリと起き上がり、倒れた男を見下ろす。
 首がヘンな角度に折れ曲がっている。おそらく受け身を取り損ねたのだろう。
 犯行計画の全容や仲間のことなどの情報を聞き出したかったが、こうなってはしようがあるまい。
 まずは先頭車両と後方を繋ぐ扉に近寄り内鍵をかける。
 これで敵勢の再侵入は防げるはず。
 それから転がっている五人の状態を確認。全員息はしている。死んではいない。
 作業服姿の技師二人に魔導士が二人、ひときわ立派な制服はおそらく責任者。
 わたしは順番に起こしてゆく。その結果、魔導士一人を残し、全員がどうにか目を覚ます。
 手早く事情を説明して、すぐに鉄道の速度を落とすように進言。
 だがしかし……。

「操作盤がめちゃくちゃに破壊されている。これでは機具を動かせられない」
「ダメだ。魔力調整が狂いまくって、暴走しかけている」
「くそっ、緊急ブレーキも反応しないぞ」

 技師と魔導士らの悲痛な声が、容易ならざる事態を告げた。
 このままだとシナイの駅舎に鉄道が勢いのままに突っ込むことになる。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...