冒険野郎ども。

月芝

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 俺とキリクとジーンの三人はホームである家に戻って、丸一日を死んだように寝て過ごす。
 何が疲れたって、最後の空の旅が一番体にこたえたよ。
 冷えは三十路半ばのおっさんにはキツイ。おかげで節々が悲鳴をあげて、うるさくってしようがない。古傷が痛む。寝返りをうつのがツラい。あと階段の上り下りも。
 三人で相談のうえ、ガッポリ稼いだことだし、体の回復をはかりつつ当面のんびりすることにした。
 キリクは手持ちの道具が乏しくなったからといって、しばらくは組み紐編みに専念するそうな。
 ジーンも詠唱短縮の指輪の制作に取りかかるという。
 俺は馴染みの鍛冶職人ガンツのところに顔を出し、新しい武器防具類の一式を頼みに出かける。
 そして案の定、むちゃくちゃ説教を喰らった。

「なにをどうしたら、毎度毎度、装備がぜんぶダメになるっていうんだ!」
「だから、それは不可抗力で……」
「言い訳なんぞいらん。このへっぽこめがっ! それで、またいつものやつか? 金ならあるだろうに。いっそのこともっといい装備にすればよかろう。フィレオの腕ならば十分に扱るだろうし、元だって取れるはずだが」

 いつも俺がガンツに頼んでいる品は、見た目は地味、丈夫だけど性能はそこそこ。この店で扱っている品の価格帯としては、中の中よりちょい上ぐらいのランクのモノ。
 いい武器を持ちたい。もっといい装備を身につけたい。
 それは冒険者ならば誰もが考えること。
 だが俺は考えがあって、あえてこのランクの品に留めている。

「気持ちはありがたいけど、やっぱりいつものでいいや。目立つとロクなことがないから」

 これがその理由。
 冒険者らは商売柄、どうしても他人の装備に自然と目がいきがち。
 いい剣を腰にぶら下げているだけで、イヤでも目立つ。注目を集める。
 だが俺に言わせれば、そんなものは街中で高価なアクセサリーを身につけて、ふらふらしているようなもの。
 わざわざ自分から災いを招く必要はなかろう。
 第一等級のアトラみたいなバケモノならば、不埒な輩もあっさり返り討ちにしてしまうのだろうが、元三等級どまり、現五等級のおっさんではそうもいかない。
 ギリギリの局面で背後からバッサリとか、散々につけ狙われた挙句にとか、そのような事態は避けたい。
 あとは性能に甘えて技が荒くなることを嫌ってという理由もある。
 よって「いつもので頼む」と俺が言えば、ガンツは「はぁー」と重いタメ息。「そこまで慎重なくせして、どうしてボロボロになるんだか。新しいパーティーになってから特にヒドイじゃないか? ひょっとしてメンバーとソリが合ってないんじゃないのか」

 なんだかんだでガンツは俺の身を案じてくれている。
 まぁ、そんな彼だからこそ俺も安心して装備類を任せているのだが。

「いや、むしろキリクやジーンと組んでから、かなりいい具合だ。みんな同じぐらいの経験を積んでいるせいか、いちいち細かい指示出しをする必要がない分、こっちも自由に動けているし」

 これは俺の正直な心情。
 いちおうパーティーのリーダーとはなっているものの、現場では三人が対等にて、誰かが誰かに何かを押しつけることがない。また不必要に庇うこともなく、ごく自然な流れにて、各々が成すべきことを成している。
 一つ一つの行動がきちんと結果を産み出すことへと繋がっている。
 まるで一切、迷うことなくパズルを組み立てているみたいで、これがたいそう気持ちがいい。

  ◇

 鍛冶屋を出た足にて、俺は冒険者ギルドへと向かう。
 報酬の支払いの確認。それとついでに留守にしていた間のことなどを聞くために。
 冒険者は情報収集の手間を惜しんではならない。なぜなら美味しいネタを見逃さないため、そして自身の命を守るためにも。
 お昼過ぎにて閑散としているギルド内。
 馴染みの職員のマリルを見かけたので声をかける。
 帰還の挨拶をしがてら、しばし彼女と世間話に興じる。

「さっそくの昇格、おめでとうございます」

 こちらを見上げるマリルから面と向かって褒められて、なにやらこそばゆい。
 年甲斐もなくちょっと照れていると、目についたのが受付脇に置かれた会報誌。
 ギルド本部にある広報の編集部が十五日に一回発行しているモノ。各ダンジョンの近々の状況や傾向と対策、モンスターの情報、注目パーティ―の特集などなど。わりと役立つ情報が目白押し。
 だから俺も極力目を通すようにはしていたのだが、ここのところドタバタ続きにて、すっかり存在を忘れていた。

「最新のが発行されているのか。すまないが一部、貰えるかな?」

 俺がそう言って手をのばそうとすると、急にマリルに遮られた。

「あの、その、今回のはたいしたことが書かれていませんから。フィレオさんがわざわざ読む価値なんてありませんよ。ほんとうにしょうもない記事ばっかりで、だから、その……」

 明らかなる挙動不審。
 マリルはどうあっても俺にこいつを見せたくないらしい。
 とはいえダメと言われると余計に見たくなるのが人情。
 ゆえに俺は自分の上背を活かし、ひょいと小柄な彼女の頭を通り越して会報誌に手をのばした。
「あーっ」というマリルの悲痛な声は無視して、手にした会報誌をパラパラ。
 それでどうしてマリルがあのような態度をとったのかを理解した。
 会報誌の中にて掲載されてあった、とある新進気鋭パーティーの特集記事。なんでも炎の谷にて、ナガハナを狩るのに成功したらしい。
 ナガハナとは灼熱の溶岩が点在する谷に生息する大型のモンスター。巨大な魔石をはじめとして、いろいろと有益な素材が採れる。ただし相応に強く、通常は複数のパーティーが合同で当たってどうにか。
 それを自分たちだけで倒したというのだから、たいしたもの。
 記事とともにデカデカと写真が載っており、そこには仲間たちといっしょに誇らしげな表情を浮かべているラナの姿もあった。


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