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051 明暗
しおりを挟む昼下がりの冒険者ギルドの受付は、とっても暇。
あてがわれていた書類仕事も早々に片づけてしまったマリル。退屈を持て余し、引き出しの中から会報誌を取り出す。
前号にてちょっと気まずい思いをしたせいか、何んとなしに読んでみる気になれなかったのである。しかしギルド職員たるもの、やはり目を通しておくべき情報。
ゆえに最新号を机に広げページをめくるも、マリルはすぐに首を傾げた。
会報誌には冒険に役立つ情報の他に、様々な特集記事なども掲載されてある。そして巻末にはパーティ―の昇格情報も。
細かな文字の羅列を何度も目で追う。しかしそこにはあるべき名がない。
彼女が探していたのはパーティ―「金色のグリフォン」という名前。
フィレオの下を去り、ラナが新たに加入したところ。
前号にて特集が組まれ、大々的に取り上げられていた新進気鋭のパーティ―。単独にて炎の谷の巨大モンスター・ナガハナを討伐。躍進目覚ましく第二等級に昇格間違いなしと、記事では太鼓判を押されてあったのだが。
なのに、昇格情報はナシ。
等級の昇格に関して、三等級までは支部長の権限にて認定できる。しかし二等級以上は本部の委員会に決定権が移る。
ということは、本部の会議にて選定から漏れた?
でもどうして、成果は充分なのに……。
マリルが物思いにふけっていると、いつの間にやら背後に何者かの気配。
あわてて振り向いたら、そこには仁王立ちしているミリダリア女史の姿。
サボっているところを上司に見られて、恐縮するマリル。
だがミリダリア女史はそのことには触れない。彼女の視線は机の上に広げられた会報誌に注がれていた。
「昇格情報のページ……。ラナさんが移籍なさった『金色のグリフォン』の名前を探していたのですか?」
てっきり怒られるものとばかり思っていたマリルは、きょとんとしつつもコクコクと頷く。
「あのパーティ―の第二等級への昇格は見送られました。まぁ、妥当な判断ですね」
ここだけの話との断りを入れてから、声を潜めたミリダリア女史がその理由について語る。
パーティ―「金色のグリフォン」がナガハナを討伐。
記事では華々しく取り上げられていたが、実態はヒドイものであった。
単独と謳いながらも、二十二名の大規模パーティ―での挑戦。
にもかかわらず四人が死亡、五人が重軽傷、うち三人は再起不能の大怪我を負う。五割近い損耗率にて、とても勝利を誇れるような数字ではない。
加えて解体作業やその後の管理がずさんにて、せっかく手に入れた素材も、その大部分が価値を下げることに。
「そんなこと、記事ではひと言も触れられていなかったのに」
あまりの内容にマリルも開いた口が塞がらない。
「その記事も記者と編集に金をバラ撒いて書かせていたそうですよ。べつにその行為自体は珍しいことではありません。自分たちの宣伝になりますから。ですが今回のはいささか目に余ったそうで、関係者らはみな僻地に飛ばされたそうです」いつも以上に冷めた目をして、淡々とミリダリア女史は言った。「それにパーティ―を率いるエイサーでしたか。その男の評判もあまり芳しくありません」
他所のパーティ―からの人材の引き抜き。
これ自体も珍しい行為ではない。しかし行うにしても、それなりの配慮というものがある。事前になんの通達もなくいきなりなんてマネをされたら、抜けられた側がたまったものじゃない。
だから多くの場合では、相応に話し合いの場を設け、時には移籍金などを支払った上で慎重に行われるもの。
フィレオの場合は同時に不幸が重なったことが、パーティ―解散の直接的な原因とはいえ、ラナの行動がかなりの不実であったことは否めない。
それを知ったうえでやらせたエイサーという男の悪辣さも際立つ。
「はっ! もしかして、昇格しそうになっている相手から引き抜くことで、ライバルを蹴落とし、自分たちをより有利にしようとして」
話を聞いたマリルが思いつきを口にする。
ミリダリア女史は肯定も否定もしない。だがその態度こそが自分の考えが大筋で当たっているとマリルは確信した。
「エイサーは貴族家の三男でして、けっこうな美男子だそうですよ。見栄えもよく、立ち居振る舞いも洗練されており、程よく腕も立ち、弁舌が爽やか。そしてラナさんの件でもわかるように、そういう男です。これまでにも似たようなことをくり返しています。記者を抱き込んだりしていたことからしても、相当の野心家なのでしょう。おそらくは第一等級パーティ―『暁』の運営をマネしているのでしょうが、実態はお粗末なものです」
第一等級パーティ―「暁」は、三十名近い精鋭で構成された大規模パーティー。
依頼内容に応じて、メンバーの編成を変えて臨機応変に対応することで有名。
個々の能力も高く、本来であればそれぞれがパーティ―を率いて活躍していてもおかしくない実力者揃い。
そんな猛者どもを束ね、集団として成立させているのは、リーダーの卓越した手腕と圧倒的才覚があったればこそ。そして確かな信頼に裏打ちされている絆があるから、継続していられる。
しかしエイサーという男は、その上辺の利点だけを見ており、肝心の部分を蔑ろにしているらしい。
その結果が、対ナガハナ戦にて如実にあらわれている。
「そんなパーティ―が、この先もやっていけるのでしょうか?」
冒険者稼業は実入りがいいものの、絶えず命の危険が付きまとう。
それゆえに共に困難に挑み、時に背中を預けるに足る仲間は、かけがえのないもの。
それを自分に都合のいい駒か何かのようにかんちがいをし、使い潰している。
マリルの目には自ら崖に向かって突っ込んでいるようにしか見えない。
だからこそ、このような質問が口をついて出た。
対するミリダリア女史の答えは非情なもの。
「無理でしょうね。早晩のうちに必ず詰みます」
不義理な行為にて他者に走ったラナ。
すぐそばに本物がいたというのに、どうしてわざわざニセモノを選ぶのか。憤りと共に理解に苦しんでいたマリルではあったが、それでも彼女の行く末を知って、暗鬱な表情を浮かべずにはいられない。
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