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058 冒険者ギルド本部にて
しおりを挟む冒険者ギルド本部。
この建物をひと言であらわすならば、ずん胴。
歳を経て胸周りと腰回りと尻周り、すべてが並列となった逞しいご婦人を、そのまま地面にぶっ刺したかのような形状。
中もまたそのご婦人がむっつりした顔のように、愛想がない。
装飾の類は皆無。下手なダンジョンの方がよっぽど愛嬌がある。事務的かつ機能的な造り。
雰囲気も地方の冒険者ギルド支部とはちがって、ピリリと厳格。絶えず緊張感が漂っている。
俺ことフィレオがパリっとした制服姿の職員に案内されて、まず向かったのは白衣姿がうろうろしている区画。
とある一室にて裸にひん剥かれ、血を抜かれ、見たことのある医療用魔具から、何のために使うのか想像もつかない機具に次々とかけられ、アレやコレやを徹底的に調べられる。
「提出された検査結果を信じないわけではないが、珍しい症例につき念のために再検査」との名目。
まぁ、自分の年齢を考えると、タダで本部の優秀な医師らに健康診断をしてもらえるのは、それほど悪い話でもあるまい。
◇
ひと通りの検査が終了したら、今度は地下へと案内される。
そこは楕円形をした立派な闘技場。
石舞台の中央に立つのは、赤い棍棒を手にした白髪の老爺。
で、何故だか立ち合いを強要された。わけがわからない。
「もたもたせんと、さっさとそこから適当なものを選べ」
別段、声を荒らげたわけでもないのに有無を言わせぬ迫力。
促されるままに俺は片手剣と盾を選ぶ。
そうしていざ向かい合ってみれば、全身からドッと汗が噴き出し、背中とシャツがたちまちくっついてしまう。
殺気は感じられない。圧力もない。見た目はどこにでもいる好々爺。
だが紛うことなき強敵っ!
いつしか俺はじりじりと移動。すり足にて正面よりやや軸をずらした位置へ。剣を盾の後ろに隠すようなかまえをとる。
相手からすると盾を前面に押し出したようなかまえにて、剣の姿が見えにくくなるために、くり出された切っ先が急に飛び出すかのような錯覚を覚える。また刃の間合いも把握しにくくなる。
俺の姿を見て、老人が「ほぅ」と感心したような声を零す。
「ふぅむ。お主……もしや、ブレイドに師事していたのか?」
老人の口よりあまりにも意外な名前が出たもので、俺はつい戦いを忘れた。
ブレイド。
その男は俺がガキの時分に、故郷の村をタウロスの脅威から救ってくれた、冒険者パーティ―を率いていたリーダー。
村に滞在していたのは十日あまり。その間、短いながらも俺は彼から基礎的な体さばきや盾の扱いを習ったが……。
思考は唐突に中断される。
くり出されたのは棍棒による一撃。
基本的な突き。だがそれはおそろしく洗練されており、俺の目には棍棒の先端部分の平らな丸しか見えない。音もしなかった。通常、チカラを込めて武器をふるえば大なり小なり音を発する。それがない。
いつ老人が攻撃をくり出したのかさえも俺にはわからなかった。なのに気づけたのは思考に意識が引きずられたことにより、体の方が無想状態に近くあったからか。
あらゆる予備動作がごっそりと抜け落ちている。
ただ棍棒だけが真っ直ぐにこちらへと飛んでくる。
理解よりも先に体が動く。盾で受け流し、その隙に反撃。それが片手剣と盾の基本的な戦い方。だが俺は盾に棍棒の先端が触れる直前、大きく横っ飛びをして接触を全力で回避。
自分でもなぜこのような行動をとったのかは不明。
ただ、ゾクリとした。己の内にて培ってきた冒険者としての本能が「避けろっ!」と叫ぶ。その声に身を委ねただけのこと。
それは正解だった。
今さっきまで自分が居た場所を突き抜けた棍棒。たんにくり出されただけの一撃に見えたソレが激しく回転しているのを視認。どういう理屈かはナゾだが、もの凄い回転ゆえにぱっと見には通常の突きと見分けがつかないほど。だが内包されてあるチカラは比較にならない。
もしもまともに正面から受けていたら、盾ごと巻き取られて派手にはじき飛ばされていたことであろう。
「ちっ、気づきおったか。おもしろくない。無駄に勘がいいところまでブレイドから受け継いだようだな」そう言った老人。「あれも妙に避けるのだけは上手かったからな。まったく、いかにも剣聖みたいな名前をしておったくせに、盾の扱いばかりに特化しおって」
ぶちぶち文句を垂れる老人。
一見すると隙だらけ。けれども俺はただの一歩も踏み込めなかった。
槍や棍棒などの長物は、その広い間合いが利点。欠点は一つ一つの動作の後の戻りが大きくなること。真っ直ぐに突きを放てば、放った分だけ戻さねばならない。
相対する者としては、そこが狙い目。
だが信じられないことに、老人にはそれすらもなかった。
予備動作も初動も事後の処理も何もない。
あるべきものがすべてごっそりと削ぎ落され、残ったのは純然たる剛撃のみ。
想像もつかない武芸の高み。
才能の上に胡坐をかくことなく精進し続けた者だけがたどり着ける境地。
努力や経験だけでは埋めようのない差。それを眼前にして、俺は改めて己という存在の矮小さを自覚する。
第一等級冒険者アトラ。黒き骸の首無し騎士。人外領域との対決を経てわずかなりにも芽生えかけていた自信がたちまち砕けた。
けれども臆することはない。委縮することも。
むしろ心が沸き立つ。こんな機会を与えられたことに感謝する。なぜならこれほどの達人と刃を交えることなんて、一介の冒険者には過ぎたることなのだから。
俺はひとつ大きく深呼吸。瞬時に全身から無駄な緊張を取り払い、肉体を万全の状態に近づける。
「いきます」
静かに俺が宣言をすると、老人は目を細めて喜色を浮かべた。
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