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064 追憶のレアンヘレス
しおりを挟む「見事な連携だった。おかげで助かったぞ。我が名はサフィール、貴公らは」
「俺たちは冒……」
王女さまから礼とともに自己紹介を受けたので、ついいつもの調子で俺が答えようとするも、隣にいたジーンの肘が脇腹にめり込む。ぐふっ。
「わたしはジーン、こちらのデカいのがフィレオ、そっちのボサボサ頭がキリク。わたしたち三人は『流しの傭兵』です。よもやこのような形で拝謁の機会を得ようとは、恐悦至極」
貴族の作法にのっとり、恭しく頭を下げたジーン。俺とキリクもあわてて倣う。
しかし当のサフィールは「やめてくれ。今は戦時下だ。一致団結して国難に対しているというのに、上も下もあるまい」とざっくばらんな態度。どうやら見た目通りの気さくな御方らしい。
「それがしからも礼を」と言ったのは金髪の偉丈夫。ゲーニッツと名乗った剣士。「よくぞ王女さまと子どもを守ってくれた。本当にありがとう」
順繰りに三人の手をがっしと握り、礼を述べるゲーニッツ。
彼に直接触れたことで、俺はハッとさせられる。
固くぶ厚い手の平。無骨で逞しい指。剣を振るためだけに特化した部位へと変容している。いったいどれほどの鍛錬を積めば、このような肉体になるのか想像もつかないほどの完成度。すなわちそれに見合うだけの力量の持ち主ということ。
さすがは伝説に名を連ねるだけのことはある。
◇
これから大切な軍議があるというので、サフィールたちは城へと戻って行った。
俺たちパーティ―「オジキ」は、しばらく街中を散策。情報収集と状況確認に努める。
ひとしきり見て歩いた後に、ジーンがつぶやく。
「姫騎士サフィールと伝説の剣士ゲーニッツ、戦時下の都……。どうやらここは伝承にあるレアンヘレスで間違いないようだな」
「それってオレたちが遠い過去へと来ちまったってことか? おいおい、悪い冗談はよせよ」
キリクが笑い飛ばそうとするも、声にチカラはない。
俺としても信じがたいところ。だが全身の感覚が、いまを現実だと告げている。
なるほど。だからジーンはさっき俺の挨拶を邪魔したのか。なにせ冒険者という職業が確立するのは、ずっと後世になってから。
しばしムズカシイ顔をしていたジーン、ふとこんな考えを口にする。
「いや、さすがに過去ではあるまい。時の流れは絶対だ。だとすれば……、正しくは追憶のレアンヘレスと言うべきか。我々は何者か、もしくは何かの想いの中に囚われている?」
過去から未来へと向かう時の流れは絶対。
不可逆だからこそ、現在が重要な意味を持つ。もしも自由に行き来できれば、今という時そのものの存在意義が失われてしまう。なにせやり直し放題となるのだから。
もっとも時間を遡るのも、追憶の世界に囚われるのも、どちらも俺の理解の範疇を越えているから同じようなもの。
とにもかくにもパーティ―のリーダーとして考えるべきは、みんなで無事に生還を果たすこと。
俺が指針を示すと二人も賛同。
「追悼の世界うんぬんの真偽のほどはともかくとして、原因はやっぱりあの壁画なんだろうなぁ」
神殿の方角に顔を向けながらキリクがげんなり。
状況的に考えてもそうとしか思えない。まぁ、そうだったとしても、現在、神殿内部にあの壁画はなかったので、確かめようもないのだが。
「目下の懸念事項は二つある」
ジーンが二本の指を立てて、「あくまで仮説だが」と断りを入れてから説明をはじめる。
その一、帰る方法。
追憶の世界で何かを成せばいいのか、ただ時が至れば自然と解放されるのか。
その二、追憶の世界とはいえ、感触は本物。
となれば、もしもここで怪我を負ったり死んだ場合、どうなってしまうのか。
「追憶の世界とて関与できるのは、先の戦闘ではっきりしている。となれば、その逆もありうると考えて、慎重に行動した方がいいだろう」
ここが精神の産物だとしても、限りなく現実に近いのは確か。
遜色のない同調を示している時点で、ここでの死は精神の死を意味し、ひいては肉体の死を誘発するかもしれない。
それがジーンの見解であった。
「ならば、やることはいつもと同じということか」
「だな。冒険者はせいぜい冒険者らしく、やらせてもらうとしようぜ」
俺の言葉にキリクがニヤリとほくそ笑む。
不思議は不思議として、とりあえず一旦脇へ。冒険者たるもの、どのような場所や環境に置かれても自分を見失わないことが肝要。わからないことにいくら頭を悩ませても時間の無駄。いま出来ることだけを考えて行動した方がよっぽど有意義。
なんぞと決意が固まったところで、ジーンよりとっても残念なお知らせ。
「ちなみにレアンヘレスが滅びるのは、二日後の昼過ぎだったはずだ」
現在、都は魔王軍に包囲されており、脱出するのはほぼ不可能。
よって、ここにパーティ―「オジキ」の参戦が半強制的に決定!
何者の追憶なのかはわからないが、まさか、この局面を打開せよとか無茶は言わないだろうな?
そいつはいくらなんでも、おっさん三人には荷が重すぎる。
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