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070 斬紐と炎霧
しおりを挟む路地裏へ入ったとたんに、俺はギョッとなった。
思いのほかに道幅があるのは獲物を誘い込むのにちょうどいい。
だがしかし、道が真っ直ぐに伸びており、どこにも逃げ場がないっ!
「走れ!」
屋根の上あたりから降って来るキリクの声に急かされ、俺は全力疾走。
背後から猛り狂った黒赤マダラが逃すまいと追いかけてくる。移動速度こそはあまり速くはないが、大きな蛇体の分だけ一歩というか、一にょろりがデカい。だから思ったほど距離が稼げない。
加えて背後から飛んでくる鎌。
いちいちふり返って確認なんてしていられないので、並走しているキリクの「右っ」「左」「しゃがめ」「跳べ」との指示を頼りに、勘で避けるしかない。
息せき切って駆けるうちに、石のアーチを潜りトンネルへと突入。
視界が暗転するも、出口の明かりは見えている。短いトンネルだ。せいぜい五十歩ほどの長さか。
抜ける直前にキリクの叫び。「やばっ! 思いっきり跳べ!」
俺は右足を地面に叩きつける勢いにて踏み込む。主の意志に応えて肉体が反応。瞬時に血が巡り、ふくらはぎと太ももの筋肉を鼓舞。ダンっとチカラの限り跳躍。
ブーツの底をかすめて疾走するのは、黒赤マダラの大鎌。ジュッと摩擦音が鳴る。
ちょろちょろと逃げ回る獲物を狙って放たれた一撃が、猛然と地面に突き刺ささり轟音を立てる。
衝撃にて周辺の石畳が大破。俺も巻き込まれて、派手に吹き飛ばれた。
受け身をとってダメージを最小にとどめる。
転がる勢いを利用してすぐさま立ち上がったとき、体が後ろを向いていたのは、きっとシスターケイトの祝福の祈りの賜物。
顔をあげるなり目に映ったのは飛来する凶刃。次なる黒赤マダラの一手に寸でのところで気がつけた。
くっ、体勢が悪い。回避行動が間に合わない。
俺は剣での防御を選択。ただしあえて踏ん張らない。最低限のチカラだけを残し脱力。向かってくる衝撃に備える。
まばたきする間もなく、鎌と片手剣が十字に重なり、ガツンと来た。
まともに正面から受けたのであっさり押し負ける。剣身の一端が俺の右胸部にめり込む。メキメキと不穏な音。もの凄い圧力にて剣のみならず革鎧も悲鳴をあげる。
鎌ごと後方へ吹き飛ばされながら、なおも俺は剣の柄を放さない。もしも離したが最期、鎌がすべてを押し切り、真っ二つにされてしまうから。
歯を食いしばり耐えているうちに、唐突に圧力が軽減。死の気配が薄まる。
奴の伸びきっていた長椀にギリリと喰い込んでいたのは、キリクの斬紐。シルクスパイダーの糸を特殊な編み方をすることで生み出される切れ味は鋭く、さらには血を吸うほどに収縮。くわえ込んだ獲物を容赦なく締めあげて離さない。
「ブツン」と鈍い音がした。
猛追を見せていた長腕が、半ばより千切れる。
これにより、ついに三本目の腕の破壊に成功! しかし同時に俺の剣も限界を迎え、折れてしまう。
紙一重の差にて黒赤マダラの長椀の脅威を退けたものの、はじき飛ばされた俺は、今度は受け身もまともにとれずに背中から石畳に激突。
何度も跳ねて転がり滑りながらも、かろうじて視認できたのは、トンネルにて身動きが取れなくなっている黒赤マダラの姿。
内部に張り巡らされたキリクの組み紐に絡めとられたのだ。切れ味鋭い斬紐もたっぷりと仕込んでいるらしく、もがくほどにその身が傷ついてゆく。
薄暗がりの向こうからバケモノの悔しげな咆哮。ざまぁみやがれ。
それを聞きながら意識が遠のきそうになる俺の襟首をつかんだのは、いつの間にか屋根の上から降りてきていたキリク。
彼はそのまま俺を乱雑に引きずっては、最寄りの縦穴へ飛び込む。
そこは都内地下に張り巡らされた下水道へと通じる穴。普段は蓋がされて塞がれてある場所。
落ちていく俺の目に映ったのは遠ざかる出入口と、ハシゴにぶら下がり呪文を唱えているジーンの姿。
「地を這いすべてを呑み込み、爆ぜろ、炎霧」
詠唱が完了し、魔法が放たれる。
そして何故だかジーンまでハシゴを手放し、降ってきた。
「なにやら物騒な言葉だなぁ」
俺がぼんやり考えていると、視界の先の先、外へと通じる穴の向こうが真っ赤に染まる。
そしてパーティ―「オジキ」の三人は、そろって汚水の中にドボンと落ちた。
◇
パーティ―「オジキ」がそろって下水道へと避難した直後。
ジーンが発動した魔法によって、地上では濃霧が発生。たちまち路地裏界隈を埋め尽くす。
だがその霧は通常のモノのように宙へと浮きあがることもなく、せいぜい大人の胸元ぐらいの高さまでしか届かない。
空気よりも、やや重たい気体によって構成された霧。それはとても揮発性の高い性質を持つ。
黒赤マダラが囚われたトンネル内にもどんどんと流れ込み、一帯の濃度を更に高めてゆく。
身にべったりとまとわりつく不快な霧。
これをイヤがった黒赤マダラは、いっそう激しく暴れる。
蛇体をひねった際、力任せにて一本の組み紐を引き抜く。
ひょうしに、ポッと小さな火が灯った。小指の先ほどの大きさ。火打ち石と鉄くずを用いて作った即席の仕掛け。キリクが設置したもの。
そんな小さな火に触れたとたんに、すべての霧が豹変する!
路地裏は焔に満ち、爆炎が唸りをあげて駆け巡り、すべてを赤に染め上げ席巻。
熱風渦まくトンネル内は即席の溶鉱炉と化し、黒赤マダラの蛇体を蹂躙、これを焼き尽くさんとする。
バケモノが絶叫をあげるも、それすらもが豪炎に包まれかき消された。
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