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095 想いの蒼珠
しおりを挟む断罪の儀式はキリクとジーンの圧勝に終わった。
その夜のこと。
あてがわれた部屋で俺が一人休んでいると、ガレウスの訪問を受ける。
話はロインの事件に関すること。
「フィレオ殿は実際に神種の教団の連中と接して、どう感じた?」
部下を率いて奴らのアジトへと乗り込んだ彼は違和感を覚えたという。
組織の規模、度し難い狂信的な思想、資金力などはかなりのモノ。
だというのに対応がお粗末。どこか素人臭さが漂っており、在り方がちぐはぐ。箱物は立派だが中身が伴っていない。辺境の無知な村人に、いきなり立派な城と装備を与えたかのよう。組織や思想を御しきれずに、操るべき者が振り回され暴走している。
かつて俺たちが感じたのと似たような違和感をガレウスも感じていた。
「ほかにも気になることがある。コズンがロインを害する際に直接動いていた連中のことだ。おそらくは相当の手練れであったはず。悪い意味での玄人。だが今回の調査が進む過程で、それらの存在がほとんど姿を見せていない」
それらしい存在といえば、飛行船にて襲撃してきた空賊たちぐらい。
拘束直後にコズンを尋問したところ、彼もその辺のつながりについてはよくわかっていなかった。「自分は闇ギルドに依頼を出しただけ」の一点張りにつき、その言葉にウソはなさそう。
もちろんそちらの線でも調査は続いているが、玄人は逃走も巧みにてあまり成果は期待できないらしい。
これらを踏まえてガレウスは「もしかしたら」と、ある考えを口にした。
それは神種の教団の背後には、彼らを操っている何者かの存在がいるのかもしれないということ。
始まりこそはコズンの依頼だったのかもしれないが、途中から神種の教団の動きが明らかに目立っている。
少なくともケリーやマホロの情報を教団に流し、扇動した者がいる。
闇ギルドが自分たちで追跡する手間を惜しみ、教団を利用した可能性もあるが、希少種なんていう極上のネタ、みすみす外部の者に委ねるであろうか?
飛行船での一件からして、もしかしたら最後に美味しいところだけをかっさらう算段だったのかもしれないが、墜落をも厭わぬあの襲撃の荒々しさはまるで……。
すべては想像の域にて、憶測はどこまでいっても憶測にすぎない。
とりあえず得たいの知れない第三者がいると想定して、マホロの身辺の用心を怠らないようにしたほうがよさそうだと、俺とガレウスの意見は一致した。
◇
ガレウスが退室し、俺はふたたび一人となる。
頭の中がごちゃごちゃして興奮しているせいか、どうにも寝つけない。
ベッドから起き上がりテラスへと出た。
とたんに冷たい夜風が肌を刺す。息こそは白くならないが、北の夏の夜はかなり寒い。
見上げた夜空の空気はとても澄んでおり、無数の星が競うようにまたたいていた。
眺めているうちに、気分が落ち着き、次第に頭の中の熱も収まっていく。
一連の騒動について、静かに己の内にてふり返る。
わからないことだらけにつき、考えたところで答えのでないことばかり。それでも最後の最後に、どうしても気になったのは次のこと。
『希少種だから狙われたのか、それともマホロゆえに狙われたのか』
なんとなくだが、俺には後者のように思えてならない。なにせドラゴンが祝福を与えるようなスゴイ子だし。
いずれあの子を中心にしてうねりが発生する。
それこそ世界中を巻き込むような、とてつもない大きなうねりが……。そんな確信めいた予感が胸の奥に燻っている。
が、それを俺が口に出すことはない。
神々の意思? 歴史の必然? 世界の理? 運命の輪?
どれもこれも一介の冒険者の手には余る。パーティー「オジキ」に出来ることといったら、せいぜい依頼を受けて、それを無難にこなすことだけ。
今回の依頼はマホロと指輪を獣皇に届けること。
俺たちの仕事は終わった。
それは同時に一つの別れをも意味していた。
◇
三日後、俺が本復したところで、パーティー「オジキ」は皇都フラムケルヒを辞去することにした。
アリーシャ王女とガレウスがマホロを連れて、わざわざ城門まで見送りに来てくれた。
俺とジーンとキリク、三人がそれぞれマホロを抱き、別れを告げる。
「いっぱい食べて大きくなるんだぞ。達者でな」と俺。
「父ちゃんみたいに強く、母ちゃんみたいにいい女になれよ」とキリク。
「どうか健やかに。キミの未来に幸あらんことを」とジーン。
俺は懐から蒼い珠を取り出しマホロに与える。
かつてクライホルン湖で手に入れた品。宝石としての価値はないが、人の想いが詰まった結晶にて、小さな奇跡を成した証。
女の子への贈り物を考えたとき、あいにくとそれっぽい品をコレしか持ち合わせていなかったから、こいつで勘弁してもらうことにする。
するとキリクとジーンも自分の荷物から珠を取り出し、いっしょに贈る。
三つの蒼い珠をもらって、目をぱちくりしているマホロ。
最後に「どうかこの子のことをお願いします」とそろって頭を下げて、アリーシャ王女とガレウスが力強くうなづいたのを見届けてから、俺たちは背を向ける。
少し遠ざかったところで、背後からマホロの泣き声が聞こえてきた。
思わず立ち止まりふり返りそうになるのを、グッとこらえて、俺たちは黙って歩き続けた。
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