冒険野郎ども。

月芝

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102 事変

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 エイジス王国東南部の海岸線にある小さな町キャンプル。
 町の片隅にある温泉宿に逗留すること五日目。
 朝早くに目覚めた俺は海沿いをひとっ走り。
 ほどよく体が温まったところで体術の型の練習をしていたら、そこにキリクとジーンも合流。
 しばし砂浜にて軽く組手なんぞをして、いっしょに汗を流す。

「体に問題はないのか?」

 突きを放ちながらのジーンの問いかけ。
 俺は手の平で拳を受け流しながら「大丈夫だ。むしろ前より調子がいいぐらいだ」と答える。
 今度は俺から前蹴り。
 これを内側に滑り込むようにして避けたジーン。いっきに間合いを詰める。
 ほぼ密着状態にて、気づいたときには俺の視界は反転。柔らかな砂の上に背中から落っこちて空を見上げていた。

「おぉ! フィレオの大きな体が一回転かよ。あいかわらずキレイに投げるなぁ」

 ジーンの投げ技にキリクが感嘆の声をあげた。
 それもそのはず。なにせ投げられた当人が「ちょっと気持ちいいかも」とか思えるほどの妙技なのだから。無理せず、無駄なく、的確に重心を払われた。我が身ながら面白いようにひっくり返るものである。
 次はキリクとジーンが対戦。
 俺は少し離れたところから膝を抱えて見学。
 本気ではないけれども、そこそこ鋭い打撃の応酬を眺めながら、俺は訊ねる。

「そういえば海魔にちょっかいをかけられたとき、おまえたちの目に俺の姿はどう映っていたんだ?」

 何げに聞きそびれており、ちょっと気になっていたのである。
 するとキリクは「衣装屋とか防具屋の軒先にある飾り人形のデカいヤツ」と口にし、ジーンは「顔のない藍色の動く石像」と答えた。
 俺ことフィレオがのっぺりとした石像
 キリクが枯草色の大きなクモ。
 ジーンが長毛の銀狼。
 ふむ。どうやらバケモノになるにしても、素材の良し悪しの影響をかなり受けるらしい。海の上にも容姿格差はあったか。
 この話にキリクが「ジーンだけ格好よくないか? あの色ボケババアどもめっ」と軽く悪態をつく。
 その物言いがおかしくて、俺とジーンはつい「ぷっ」と吹き出す。
 が、その隙にキリクが飛び込んだ。
 ジーンは腰を浮かされて後方へと倒れこむ。
 馬乗りとなったキリクを見上げてジーンが「まいった」と降参。組手の決着はついた。
 しばらくそんな風にして三人でじゃれ合ってから、宿へと戻ったときにはすっかりドロだらけ。
 出迎えてくれた女将さんが呆れ顔にて「先にお風呂へ。その間に朝食の準備を整えておきますから」
 おっさんたちはそろって恐縮しつつ、素直にその指示に従った。

  ◇

 朝食後には三人、思い思いに過ごす。
 俺は一人、町へとくり出すことにした。
 夏場の温泉地はやや閑散としており、どこも暇そう。
 土産物屋の軒先にて出し並べられた商品とにらめっこ。
 マリルには緑の海樹の髪飾りでいいだろうが、問題はミリダリア女史だな。どれにすべきか。彼女がアクセサリー類を身につけているのはみたことがない。やはりブレスレットかネックレスあたりが無難か? ダグザには……、面倒だし地酒と干物でいいだろう。
 俺がムムムと眉間にしわを寄せていたら、突然、背後から「フィレオのおじさまー」と声をかけられビクリとなる。
 夕陽色の髪を揺らしながら、タタタと駆けてくる若い娘。
 彼女の名はルクティ。かつて「モブの洞窟」という初級ダンジョンにて「反発」を意図せず、引き起こしてしまった新米女冒険者。
 たまたま居合わせた俺たちが適切に処理したことで事なきを得て、それ以来、俺たちを「おじさま」と呼び慕う。

「やっぱりフィレオのおじさまだった! 見覚えのある背中だったから、もしかしてと思ったんですけれど、こんなところで会えるだなんて」

 旅先での久しぶりの再会。おっかなびっくりの俺とはちがい、無邪気に喜ぶルクティ。
 配送依頼で近隣まで来ていたそうで、せっかくだからとこっちまで足を運んだとか。
 急に駆けだしたルクティを追って、若いのがあとからぞろぞろ姿をあらわす。
 見覚えのある顔もちらほらと混じっている。総勢九名の男女混合パーティー。

「あっ、オジキだ!」「おひさしぶりー」「やっぱり生きてたか」「ダグザさんの言ってた通りにしぶといや」「ちぇっ、賭けは負けかぁ」「ご無沙汰してます」「あいわからずデケえ」「むきむち、男、温泉……、ポッ」

 十代が集まったとたんに、いっきに場が華やぐ。これが若さのチカラか。
 っと、それはいいとして、どいつだ? 賭けていやがったのは! せめて生きている方に賭けやがれ!
 俺が「ガーっ」と吠えると、若いのがキャッキャとはしゃぎクモの子を散らす。

  ◇

 ルクティたちはそのまま俺にくっついてきて、宿泊先の温泉宿に転がり込む。
 ふらりと出かけたと思ったら大勢の客を連れて戻ったので、出迎えた女将はほくほく顔。「今夜は一本つけますから」と上機嫌。しかしキリクとジーンは心底げんなりした顔にて、非難がましい目を向けてきたので、俺はついと顔をそらす。
 こうして俺たちの安らかな休暇は若い嵐の到来によって、終わりを告げた。
 だが本当の嵐は、その翌朝にやってきたのである。
 まだ朝モヤが残る時間帯。
 キャンプルの正門に飛び込んできたのは息も絶えだえの男。
 近隣にある都市からの伝令にて、夜通し駆け続けた彼によってもたらされたのは、最悪の凶報。

『七渦の回廊にて大反発が発生。それによりエイジス王国は非常事態宣言を発動する』


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