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104 避難
しおりを挟む斥候から戻ったキリクの報告により、キャンプルの町から選択肢が一つ消えた。
とりあえず防衛戦はナシだ。
『山を越えて向かってくるのは白いゴーレム。通常個体とは明らかにちがう様子からして、おそらくはロード級と思われる』
ゴーレムは全身が鉱物で出来た巨人。
大きさは二階建ての家屋ほどにて、動きは鈍重。だがチカラは非常に強く、質量それ自体が脅威。ただ歩き回られるだけで周囲に被害が及ぶ。
そのくせ極めて頑丈。並みの攻撃ではまるで歯が立たない。
倒すには足を封じて動きを止め、胸の奥にある魔石を抉るしかないのだが、これが非常に厄介。
鉱山などで用いられる掘削道具か、ハンマーなどの打突中心の重装備を整える必要があり、ときには討伐に攻城兵器である破城槌を持ち出すこともあるほどの相手。
が、温泉と漁業にて細々と生計を立てているキャンプルに、そんな特殊なシロモノがあるわけもなく……。
「もはや逃げるしかあるまい」
ここにきて町の主だった面々の意見も一致。
ようやく避難行動を開始。
しかし予定が狂って、すぐに中断を余儀なくされてしまう。
悪い時には悪いことが重なるもの。なんと避難先である最寄りの都市に、すでにモンスターが殺到していることが判明する。
どうやら白いゴーレムとは違う経路にて山を越えた一団があったらしい。
受け入れの要請に向かった使者が血相を変え、這う這うの体にて逃げ帰ってきたもので、町は一層の混乱に見舞われた。
そうしている間にも白いゴーレムはずんずんとこちらに近づいている。
さすがにマズイと判断したジーンが、おもむろに声を張り上げた。
「わたしに一つ考えがある」
ジーンが提案したのは避難計画。
と、いっても逃げ道はすでに封じられている。
そこで彼が考えたのは、海へ活路を見い出すこと。
「幸か不幸か、相手はゴーレムだ。その巨体の相手をするのは骨が折れるものの、岩の塊ゆえに水に沈む。少なくとも海の上までは追いかけてこれない」
ありったけの漁船を出してもきっと足りないだろうから、イカダでもこしらえていったん陸を離れる。
なおその際に持ち出すのは食料や水のみ。
お金や貴重品などは壺か箱にでも詰めて、地中深くに埋めておく。
こうしておけば災禍が去ったあとで掘り出すことも可能。
「運がよければ航路を通りがかった大型船の助けを借りることもできるだろう。余力があるのならば、誰か腕のいい船乗りをホウライ群島側に送って救援要請をすればいい」
全員が助かり、最低限の私財は守れる。
ジーンの案は、満場一致で可決され、みなはすぐさま行動を開始した。
◇
キリクを中心にした斥候部隊が白いゴーレムの動きと周辺を警戒、逐次報告。
ジーンは対策本部に詰めて、進捗状況の確認や指示などを飛ばす。
ルクティたち若手は守備隊に協力しつつ、住民たちの避難誘導。
そして俺はイキのいい男衆を率いて、ノコギリ片手にせっせとイカダ造りに精を出す。
「フィレオさん! もう材木がありません」
「だったら適当な家を崩して、柱や梁、使えそうなモノを片っ端からぶん捕ってこい」
「わかりました。いくぞーっ」
「おうっ」
砂浜にて汗まみれになりながらも忙しなく働く男たち。
あちらこちらにて威勢のいい声や怒号が飛び交う中、地元の大工の棟梁の差配によって、次々とイカダが組まれていく。
傍らでは女衆の手によって樽に詰められた食料や水が運ばれてきていた。
町の住人全員分にて、最低でも三日分ともなれば相応の量。とてもすべては載せきれないので、濡れても問題なさそうな中身の樽は、イカダの一部として構造に組み込む予定である。
◇
一丸となってことに当たったおかげで、着々と準備は整っていき、住民たちも続々と浜辺へ集まりつつある。
あとは順番にイカダや漁船に乗り込んでいくばかり。
そんな最中に「チヨ、チヨ、どこにいったの? お願い、返事をしてちょうだい」と声がする。
女がキョロキョロと誰かを探していた。
これにいち早く気づいたのがルクティ。「どうかしましたか?」と訊ねたところ、「ちょっと目を離した隙に、娘がいなくなってしまって」と母親がオロオロ。「ひょっとしてあの子ったら、自宅に人形を取りに戻ってしまったのかも。あぁ、どうしましょう」
やや取り乱している母親から話を聞いたルクティ。「それなら自分が迎えに行ってきますから、お母さんはこちらでお待ち下さい」と言って、町の方へと駆け出した。
◇
表通りから一本奥へ入った家の扉が少し開いているのを見つけて、ルクティがそっと中をのぞくと、小さな女の子が「うんしょ、うんしょ」とイスによじ登っている姿が見えた。どうやらイスを足場にして棚の上の人形をとるつもりのようだ。
「ごめんね、おいてっちゃって。あっ!」
ガタンと揺れて体勢を崩した幼女。
ひょうしにイスの上から落ちてしまう。
これをあわてて受け止めたのはルクティ。
「あー、びっくりしたぁ。まだドキドキしてるよ。あなたがチヨちゃんね?」
見知らぬお姉さんに抱き留められた幼女は目をぱちくりしながらも、コクンとうなづく。
「さぁ、お母さんが心配しているから戻りましょう。もちろんその子もいっしょに、ね」
ルクティの言葉に喜色を浮かべるチヨ。
二人は手をつないで表へ。
だがその時、激しい警鐘が町に鳴り響く。
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