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107 ロード級
しおりを挟む胸元にて生じた爆破によって、白いゴーレムの巨体がゆっくりと後方へと傾いでいく。
そのまま倒れるかと思われたのだが、残念なことに途中で止まる。
「くそっ、奥の魔石にまで攻撃が届かなかったか」
「ちっ、伊達にロード級ってわけじゃないってことかよ」
立ち止まり、ことの成り行きを見守っていた俺とキリク。
本討伐作戦の第三段階はジーンの矢と魔法。
だがこちらの想定を超える頑強さにて、倒しきれなかった。
これまでか……。
諦めかけたとき、「ひゅん」と風切り音が鳴った。
計画にはなかったジーンによる第二射。
矢は動きを止めていた白いゴーレムの胸元へと吸い込まれ、ふたたび内部で爆ぜ、新たな火柱を出現させる。
一射目は通常の詠唱による魔法を込めての攻撃。
二射目に指輪を用いた詠唱短縮による魔法を使用することで、疑似的に魔法の連続行使を実現してみせたジーン。
それを受けた白いゴーレム。痛みを感じないはずの巨体が苦しげに暴れだす。
攻撃が効いている証拠なのだろう。だがそのせいで派手に飛び散る瓦礫。雨となって一帯に降り注ぐ。
俺とキリクは声にならない悲鳴をあげて逃げ惑う。
ジーンの居たあたりにも、もぎ取った煙突が投げ込まれて、ぐちゃぐちゃになってしまった。
手のつけられない状況がしばし続く。
ひょっとしたら、俺たちは奴を怒らせただけなのかもしれない。
思考が後ろ向きになりかけたところで、白いゴーレムの動きがピタリと止まった。
チカラを失った両腕がだらりとなり、両膝がそろって崩れ、そのまま前のめりに倒れてしまう。
地響きとともに大量の粉塵が舞う。
津波のように押し寄せる土煙。
俺とキリクは成す術もなく呑み込まれる。
◇
海風が吹き、垂れ込めていた土煙が次第に薄まっていく。
頭のてっぺんからつま先まで、白い粉をまぶされたような格好になった俺とキリクは、お互いの姿に「ブハッ」と吹き出す。
そこへ「おーい」と近寄ってきたのはジーン。彼もけっこうなあり様にて、いつもの身綺麗さは失せてボロボロ。せっかくの色男が台無し。
パーティー「オジキ」の面々がそろったところで、気になるのはやはり白いゴーレムのこと。
「やったかな?」俺が口にすれば、キリクが「どうだろう」と首をひねり、ジーンは「この手の流れのときは、たいていお約束が待っているものだ」と体についた埃を淡々と払う。
冒険者あるある。
『てっきり死んだと思ったら、じつは生きていた!』
これは最後の最後まで油断しないようにとの教訓。
基本中の基本なのだが、地味に体験する機会が多いのが困りもの。
そして今回はそいつがとびっきり最凶の形で具現化する。
なんの前触れもなく空気が一変した。
世界そのものがのしかかるような圧力に血の気が失せる。一瞬にして自分の体が何倍にも重くなったかのよう。心臓をわし掴みにされたようで胸が苦しい。ほんの少しだが呼吸の仕方を忘れ、陸に上がった魚のようになる。
それでも膝を屈することなく、踏ん張り続けていられたのは、これまでの経験の賜物。
第一等級冒険者アトラ、黒き骸、レアンヘレスの黒赤マダラ……、極めつけは紅いドラゴン。
数多の厳しい戦いや稀有な接近遭遇を経た心が折れることはない。
俺は鼻からゆっくりと息を吸い込み、口から倍近い時間をかけて吐き出す。
手を握ったり広げたりして感覚を確かめる。よし、いける。軽く足踏みをして下半身の調子も確かめてみたが、しっかりしたもの。
ちらりと見れば、キリクとジーンも表情こそは険しいものの問題はなさそうである。
◇
横たわる白いゴーレムの胴体部分が内部より爆ぜた。
残骸の奥からゆらりと立ち上がったのは、白い人型。
表面は滑らか。女体のような艶めかしい曲線で構成された形状。八頭身にて手足が長く、スラリとした立ち姿。背丈は俺よりやや大きいぐらいか。
赤いドレスでも着せたら映えそうな容姿ではあるが、生憎と顔は無地にて何もない。
彫像のような白い女。
無造作に細腕をふり、周囲の土煙を払う。
手に何かを持っていたのを視認。俺はすかさず盾をかまえてジーンの前に立つ。
間髪入れずに盾が鈍い音を立ててはじいたのは、飛礫。
白い女がジーンに向けて放ったもの。けっこうな威力にて、狙いも正確だった。当たり所が悪ければ致命傷になりかねない。
俺は盾をかまえたまま無言にて白い女をにらむ。
「おっ、いきなりのご指名か? あいからずモテモテだな。うらやましいぜ」
キリクが軽口を叩きながら短双剣を抜く。
「勘弁してくれ。おおかた魔法が厄介だと判断したのだろう」
ジーンはげんなりしつつも弓に矢を番える。
パーティー「オジキ」の基本戦術は、前衛職である俺が敵の攻撃を受け止め、斥候職のキリクが牽制や動きを封じ、隙あらば魔導士であるジーンが魔法でというのが一連の流れ。
だから俺はまずはこれで様子見をと考えたのだが……。
コトリと鳴った。
小石が落ちる音。
周囲は瓦礫の山にて、何らおかしくはない。
ただし、それが目の前の白い女のせいだとすれば話はべつだ。
白い女がわずかにつま先を動かし、足元に転がっていた小石をはじく。そいつが跳ねたのだが、俺の眼球がついその石の行方を追ってしまう。
ハッとして、すぐさま視線を戻したときには、すでに白い女の姿が視界から消え失せていた。
原始的な手だが、絶妙のタイミング、やられた!
ほんの一瞬にて、地を這うような低い姿勢で駆けた白い女。
気づいたときには、懐に潜り込まれていた。
突き上げるように放たれた左の拳が唸りをあげる。
辛くも盾で防ぐが、盾ごと体が持ち上がり宙に浮く。踏ん張りを失い俺の体が空中にて無防備となったところで追撃。ふり下ろし気味に右の上段蹴りが迫る。
速いっ!
俺は上体をひねりどうにか盾で蹴りを受け切るが、チカラをそらすことには失敗。衝撃をモロに受けて、派手に吹き飛ばされた。
崩れかけの建物の壁へと背中から叩きつけられ、「がはっ」と肺の中身をすべて吐き出す。
そのままズルリとへたり込みそうになるのをどうにか堪えるも、たった一撃にて膝が笑う。視線の先ではジーンが倒れており、キリクが白い女の掌底の一撃を受けて宙を舞っていた。
ロード級。
それはモンスターの中で変異した特殊個体にて、王の名を冠するにふさわしい威容とチカラの持ち主。
改めてその恐ろしさを、俺たちは目の当たりにする。
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