冒険野郎ども。

月芝

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113 分かたれた道の果て

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 ダンジョン「七渦の回廊」より発生した大反発。
 エイジス王国が非常事態宣言を発動してから五日目の夜更け。
 王国西、国境付近の森の奥、月下を急ぐのはパーティー「金色のグリフォン」の一行。

「あっ」

 木の根に足をとられて転んだ男性メンバー。
 ひょうしに担いでいた荷袋の中身を地面にぶちまけてしまう。
 淡く灯る紅い光が夜の森にいくつも浮かび上がる。ダンジョンコアの欠片だ。

「バカやろうっ!」

 リーダーであるエイサーに怒鳴られ、あわてて拾い集めようとするが、男の動きはどこか緩慢であった。
 しかしそれも無理からぬこと。
 大反発にてモンスターが溢れかえり、混乱するダンジョンより命からがら逃げ出し、その後もほとんど休みナシでの強行軍を続けていたのだから。
 そのかいあって今夜中には国境を超える目途はついたものの、ここにきて歩みがガクンと落ちる。
 イラ立つエイサーを尻目に、倒れたメンバーに「大丈夫?」と声をかけたのはラナ。散らばったダンジョンコアの欠片を拾うのを手伝う。

「ねえ、エイサー。もう、みんなとっくに限界を超えてる。このままだと潰れてしまうわ。少し休むべきよ」

 ラナの忠告にエイサーは舌打ち。
 しかし「それもそうだな」とうなづいたので、自分の意見が受け入れられたとラナは安堵するも、直後に彼女の表情は驚愕へとかわる。
 月の光を受けて白刃が閃く。貫いたのは転んだ男の胸元。
 無言にて背後からのひと突き。
 血刀を手にしたエイサーが、絶命した仲間の骸を蹴る。

「役立たずのゴミはいらん。よろこべ、これでおまえらの取り分が増えたぞ」

 こともなげにそう言ってのけた非情な男。
 双眸には狂気の色がありありと浮かんでいた。
 命を冒涜する重たい音を耳にしながら、ラナは呆然と立ち尽くす。

  ◇

 リーダーであるエイサーに命じられるままに、ノロノロと歩き続ける一行。その姿は冒険者のパーティーなどではなく、亡者の群れのよう。
 末尾にて、ぼんやりと足を動かし続けるラナ。疲労といろんな精神的ショックが重なり、すでに思考がほとんど機能を放棄していた。
 いつしか森に白いモヤが垂れ込める。
 やがてすぐ前を歩く仲間の姿もおぼつかないほどの濃霧となった。
 ザッ、ザッ、ザッという足音を頼りに追いかけていく。
 その足音が一つ、また一つと減っていくのにも気づかずに……。
 いつしか自分以外の足音がすべて消えていた。
 頼りとすべき音が失せて、ラナが足を止める。
 虚ろな目で周囲を眺めるも、視界は白に染まっており何も見えない。
 霧に向かって呼びかけるが返事はない。
 だから、てっきり自分も見捨てられたのかと思った。
 しかし、ちがった。
 ふいにガクンと視界が下がる。
 膝の裏を蹴られ体勢を崩されたと気づいたときには、地面にへたり込んでいた。
 背後から首筋に突きつけられる刃。
 わずかにでも抵抗すれば、容赦なくノドを切り裂くとの明確な意思が冷たい感触越しに伝わる。
 朦朧としていた意識が強制的に引きずり起こされた。生殺与奪の権利を他者に委ねたことにより、皮肉にもラナは自分が冒険者であったことを思い出す。
 絶望的な状況下で、うしろから聞こえてきたのは若い女の声。

「こんなことになって残念です、ラナさん。フィレオさんもさぞや悲しむことでしょう」

 聞き覚えのある声に、ハッとするラナ。
 時を置かずして声の主を思い出せたのは、捨てた男の名前を耳にしたから。

「その声……もしかして、マリル、なの?」

 マリルとは辺境都市トワイエの冒険者ギルド支部の若い職員にて、かつてラナがフィレオとパーティーを組んでいたときの担当。金の髪をしたおかっぱ頭の小柄な娘。
 個人的なつき合いこそはなかったが、よく見知った相手との意外な場所での再会を経て、ラナはあることに気がつく。

「まさかあなたが猟犬の一員だったとはね」

 冒険者ギルド本部直属の猟犬部隊。
 規模、構成員の数、正体、その他一切が不明にて、ギルド内での不祥事案件を取り締まる役目を担う者たち。
 このたび七渦の回廊にて発生した大反発。
 すみやかに鎮静化するには、原因を特定し解消するのがもっとも手っ取り早い。
 調査する過程で、真っ先に疑われたのはダンジョンコアの過剰欠損行為。その観点から調べてみたら、事件が起こった直後に奇妙な動きをしていたパーティーの存在が判明。ギルドより号令がかかっているのにも関わらず、招集にも応じず現場を立ち去ったことから、第一容疑者として浮上。
 すぐさま本部より各地に潜っている構成員たちに捕縛の命が下り、猟犬たちが野に放たれていたのである。

  ◇

 ゆっくりと霧が晴れていく。
 ぼんやりとした視界の中に複数の猟犬とおぼしき影。足元に転がるのはエイサーや仲間たちの姿。全員が昏倒させられ縛られている。
 見上げれば、雲間からのぞく星たちの姿がかすんでいた。
 じきに夜が明ける。
 空が薄い藍色へと変わっていくのを黙って見つめていたラナ。やにわに隠し持っていたナイフを抜くと、自身のノドを貫こうした。
 だが切っ先が軽く肌を破ったところで、マリルに阻止されてしまう。

「ダメですよ。報いを受けずに逝こうだなんて、ムシが良すぎます」

 ガツンと後頭部に一撃をもらい昏倒するラナ。
 薄れゆく意識の中で、ラナが耳にしたのは「どうして本物を捨てて、わざわざニセモノを選んだのか、わたしは理解に苦しみます」というマリルのつぶやきであった。


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