冒険野郎ども。

月芝

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122 とある女記者の手記その三

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 トワイエ冒険者ギルド支部で私を出迎えてくれたのは、マリルという若い女性職員。
 パーティー「オジキ」を担当しているそうで、今回の取材に協力してくれる手筈になっていたのだけれども……。

「困りますね。あまり勝手をされては」

 挨拶もそこそこに、いきなりマリルにやんわりとたしなめられてしまった。
 どうやらこちらの動きはしっかり把握されていたみたい。
 表面上はにこやかな応対だが、思っていた以上に警戒されている?
 やはり彼らには何かあるのか。記者の勘がピコピコ。

「あとさしあたって今回の取材について、お願いしておきたいことが一つあります」

 自分からそう言ったのに、ふいに黙り込んでしまうマリル。
 少ししてから意を決したように口にしたのは「ラナについては触れないでほしい」ということであった。
 ラナとは「七渦の回廊」にて大反発を招いた悪名高きパーティー「金色のグリフォン」のメンバーにして、かつてフィレオの仲間で恋人だったという女冒険者。
 彼女の裏切りが起因となってフィレオは、以前のパーティーを解散するハメになったと私は聞いている。

「けっこうな不義理をされて二人は別れたとか」

 書く書かないについては言及せず、返答を濁しあいまいなままに私は話を続ける。
 ちょっとズルいやり方だが、これもまた取材技術。記者には記者の戦い方があるのだ。

「はい。もう少しで第二等級に上がれるという段階だったのに、突然の一方的な離脱でしたから。フィレオさんが大人だからよかったものの、普通ならば激高して刃傷沙汰が起きてもおかしくなかったことでしょう」
「なのに触れるな、ということは、ひょっとして彼はまだ彼女が処刑されてしまったことを引きずっているんですか?」
「当人は気にしてないと言っています。ですが……、こういうことは傍目の方が気づくものですから」

 男は過去の恋愛を引きずる傾向にあるとは、世に広く知られていること。
 いや、女だってけっこう後々にまで引きずるんだけどね。
 まぁ、それはともかくとして、パーティー「オジキ」の取材を進める過程で判明したのは、メンバー全員が女性で直接間接的に痛い目を見ているということ。
 フィレオはラナに裏切られて、一度はすべてを失いかけた。
 キリクは所属していたパーティーのリーダーが商売女に入れあげて、資金などの一切合切を持ち逃げされ、やはり解散の憂き目にあう。
 ジーンもまたパーティー内の女性を巡る人間関係がこじれにこじれて、解散してしまったらしい。
 そのためなのかパーティー「オジキ」は極力、女性には関わらないと公言して憚らないんだとか。
 しかし、それゆえに彼らを取材するにあたって、女性問題はどうしても避けては通れない。
 だからどうにか誤魔化しつつ、より深層に迫ろうとするも、私の計画はすぐさま瓦解する。
 遠慮のないノック音。
 こちらの許可が待たずに扉を開けて姿を見せたのは、銀髪の美丈夫。
 取材対象の一人であるジーンである。
 眼鏡の奥にある青い双眸に見つめられて、私はおもわず息を呑む。
 美形だとは聞いていたが、まさかこれほどとは……。
 知らず知らずのうちに胸が高鳴る。顔が紅潮するのを抑えきれない。
 そんな私にジーンは告げた。

「キミか? わたしたちを取材したいとかいう酔狂な記者は。悪いがこの後、いろいろと立て込みそうなんで、あまりのんびりと付き合っている暇はない。わたしが応答するから質問は手短に頼む」

 見事なまでに滑らかかつピシャリとした物言い。口を挟む余地なんてまるでありやしない。
 それでも負けじと私は記者魂を燃やし、突っ込んだ質問を重ねるが、答えられることはスラスラ答え、ダメなものは問答無用で断わられてしまう。
 駆け引きや忖度、遠慮に配慮なんて一切なし。
 明確なる線引きがなされており、ギルド本部にあった資料にて開示されてある情報以上のことは得られず、ラナどころか私的な部分にもほとんど踏み込めず。
 見た目は銀の貴公子との異名を持つジーン。
 口調は丁寧にて態度こそは紳士。だがその心は冷徹にて厳格。相手が女性だからとて容赦がない。ちょっとでも的外れなことを口にしようものならば、とたんに正論で錬成された言葉のナイフがずぶずぶと突き刺さる。
 シスターケイトが「一夜の火遊びなら」と言っていた理由を痛感する。
 いくらイケメンでも、こんなのと三日もいっしょにいたら、きっと胃に穴が開く。
 これと共同生活を送っているフィレオとジーンは、やっぱりタダ者じゃない。
 くじけそうになる心を何度も鼓舞し、喰らいついて、大反発のときにキャピタルで対峙したというゴーレムのロード級との戦いの話だけは、どうにか詳しく聞き出すことに成功したところで、時間切れ。
 もっとも時間に余裕があったところで、私の精根の方が先に尽きていただろうが。

「最後にひとつだけ。この後、いったいどのような用事が……」

 依頼内容によっては公言できない類のものもある。
 だから期待せずにおそるおそる訊ねてみたら、意外にもジーンはあっさり教えてくれた。

「許可が下りたんで、ちょっと浮遊島に行ってくる」

 浮遊島。
 トロワグランデ世界の空を移動しているふしぎな島。
 移動中は巨大な雷雲と激しい風壁に守られており、とても近づけやしない。
 通常は海上を飛んでいることが多いのだが、不定期にて大陸内陸部へと姿を見せることがある。
 いったん停止すると、約十五日前後、同じ場所に留まる性質を持つ。その時には雲が晴れ風も止み、上陸することが可能。
 島にダンジョンはないが古代遺跡の存在が確認されているものの、調査はあまり進んでいない。
 なお勝手な立ち入りは禁止されている。
 各地を巡回する島ゆえに、国際的にいろいろと繊細な問題を孕んでいるため。
 だから上陸するには国及びギルド上層部の許可が必要。それとても各国合同の調査研究チームとかが主となるのが常。
 その許可がパーティー「オジキ」に降りた?
 いくら経験豊富とはいえ第三等級にすぎないというのに?
 いったい何をどうしたら、そんなことが可能になるというのか?
 新たなナゾの出現!
 私が呆然としているうちに、ジーンは「では、そういうことなので、これで失礼する」とさっさと席を立ち、行ってしまった。
 残された私は「彼らっていったい何者なの」とつぶやく。
 するとマリルは少し困った表情にて、「えーと、根っからの冒険野郎ですかね」と頬をぽりぽり掻いた。


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