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124 上陸
しおりを挟む天へと剣の切っ先が乱立しているような峰々。
山の陰影が濃く、地形が険しい。踏破するには斜面を歩くよりも断崖をよじ登る回数の方がはるかに多いことであろう。
麓に広がる森の深緑もまた色濃い。上空からでは地面がまるで見えないほどに密集し生い茂っている木々。各々がこんもりとした泡のような形状にて、それらが絡み合いながら絨毯のように広がっている。
おそらく内部にはほとんど陽の光が届かない。うっかり方向を見失ったらすぐに遭難してしまう天然の迷路。
そんな二つとは対照的であったのが湖。
鏡のように空を映す丸い水面が、ただただ美しかった。
飛行船グリペン号が湖の岸近くにゆっくりと着水。
すぐさま慌ただしくなる船内。
調査に費やせる日数は限られているので、ここから先は時間との勝負となる。
なのに俺たちはのんびりとしたもの。
その理由は調査区画の割り振りにある。
エイジス王国からは飛行船とタラリア女史に第三等級の冒険者パーティー、その他に物資が少々のみの参加。本格的な調査能力がないのは一目瞭然。また今回の探索の主導権はあくまで隣国にある。
「申し訳ありませんが、そちらは湖の周辺を」と調査団を率いる人物から言われても、否とは言えない立場。
そりゃあ、タラリアが本気でゴネたら、山の遺跡へと向かうチームに加わることは可能であっただろう。
しかし彼女はそれをしなかった。にこにこ笑顔にて「いいですよ。わかっておりますから。どうぞお気になさらず」と快諾。
どうやらヴァルトシュタイン王からも「名目参加にて調査結果だけもらえればいいから、あとは好きに過ごしてくれてかまわない」と、事前に言い含められていたようだ。
警護対象が納得している以上は、少々残念だが俺たちもそれに従うだけである。
◇
「例の古代遺跡ってのは山の中腹にあるそうだな。ちょっと行ってみたかったが、さすがにあの山を登りたいとは思わない。ありゃあ、下手をすると死人が出るぞ」
霞がかかっている山を遠目に眺めながらキリクが不吉なことを口にする。
「実際に過去には何人も犠牲者が出ているからな。岩壁の一部にはモロい地層が含まれているらしい。遺跡までの道はどうにか確保されてあるらしいが、しばらく放置されてあったから、どうなっていることやら」
並んで立つジーンが「せめてもう少し時間に余裕があればなぁ」と嘆く。
「ところで俺たちは、どうするんですか? よもや本気で十日近くものんびり過ごすわけじゃないんでしょう」
飛行船から降ろした荷物を整理しつつ声をかけると、タラリアは「そうねえ」としばし考え込む仕草をとる。
山には選抜されたチームが向かっており、湖の底を調べるのは別のチームが担当。
もちろん森の奥にもいくつかのチームが分散し探索する手筈となっている。
自分たちが勝手に動き回るとそれらの邪魔をしかねない。
「じつはこの島って生き物の存在が一切確認されていないのよねえ。せっかくだから湖の近くでムシ採りでもがんばってみようかしら」
昆虫人が採集用の網を片手にムシを追う。
想像してみると、なかなかの光景ではあるが……。
まぁ、当人が気にしていないのならばいいのかな?
◇
湖のほとり、大きな岩がいくつも集まったあたりに、宿泊用の天幕を張り、石にて竃を組んだり、用足しの穴を掘ったり、細々と設営を整えているうちに初日は早や暮れる。
空を映す湖が青から茜色へと変わり、夜の帳が静かに下りて、湖面に星の海があらわれた。
その姿に俺たちは感嘆するばかり。
「すごい……、天と地に星が溢れている」
俺は目の前の絶景に魅入り、まばたきするのも忘れた。
「あらあらあら、これはキレイねえ。話には聞いていたけれども、見ると聞くとでは大ちがい」
顔は前を向いたままで手を動かし、熱心に手帳へ何やら書き込んでいるタラリア。
昆虫人には複眼とよばれる器官があるからこそ可能な芸当。
「周囲に明かりがないから、星のかがやきが際立つなぁ」
きらめきに目を奪われつつも、闇から視線を外さないキリク。斥候職として身に沁みついた習性か。
「あぁ、地上にも似たような場所はある。だがここは別格だ。空気が澄んでいるし、空にも近いからだろうが、なんと美しい」吐息をもらしつつ、うっとりしながらジーンは言った。「資料によると月明かりを映すときも、また格別とあったから、これは今から楽しみだ」
四人して眺めていたら、夜空に流星が走る。
パッと一瞬明るくなった後に、何処かへと流れていく光の筋。
まるで天からの祝福のようにて、自然と歓声があがっていた。
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