冒険野郎ども。

月芝

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128 白い扉

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「あ、開かねえ」「くっ、これは」

 キリクとジーンの二人が顔を真っ赤にしてチカラをこめても、ビクともしない白い扉。
 だから俺も加わるが状況は変わらず。
 背後に迫る巨兵たち。
 焦る中、「あらあら、これって、もしかして」と言い出したのはタラリア。
 彼女が指差したのは扉の上部。よく目を凝らさないと見えないほどの細い溝が、天井へと向かい真っ直ぐに伸びている。
 白い扉は上下による開閉式っ!
 どおりでいくら押しても引いてもウンともスンとも言わないはずだ。
 だから扉を持ち上げて開けようとするも、めちゃくちゃ重い。
 わずかに持ち上がるも、ほんのわずか。指先もロクに挟めやしない。通り抜けるには全然足りない。もっとチカラが必要。
 そこで俺は剣を鞘ごと隙間に突っ込み、床に置いた盾を支点にして即席でテコを設置する。
 剣が重みでギリリと軋む。イヤな音を耳にしながら、これによりどうにか手を差し込めるだけの隙間を得る。
 キリクたちにテコの方を頼み、俺は両手を白い扉の下へかけると、渾身のチカラにてこれを持ち上げた。
 ふくらはぎが震え、太ももが痙攣し悲鳴を上げる。背筋がガッチガチに固まり、いまにも腰が砕けそう。パンパンに張った肩の筋肉。根元から腕が抜けそうにて、口元からは血がひとすじ垂れた。
 視界が赤くなり、頭に血がのぼる。いまにも血管が切れそう。
 だがおかげで、少しずつだが扉が持ち上がっていく。

「フィレオさん、これを口に」

 タラリアが差し出してくれたのは一枚のハンカチ。
 このままだと歯がダメになるとのうれしい気遣い。俺は目で感謝し、ハンカチをくわえさせてもらう。
 憂いがなくなったところで存分に踏ん張る。
 更に持ち上がる扉。
 ある程度のところにまできたところで、俺は扉の下へと我が身を潜りこませ、自身を柱として空間を確保することに成功。

「あまり長くはもたない。いそいでくれ」

 まずキリクが先に抜け安全を確認、続いてタラリアと機材等の荷物。そしてジーンが俺の歪んだ剣は放棄し盾だけを拾って潜ったときには、巨兵の姿がすぐそばに!
 こちらを捕まえようと伸びてくる指先。
 触れる直前、俺はいっきに扉の向こうへと転がり込む。
 ギリギリのところで難を逃れるも、憐れ巨兵の指の一部は断頭台と化した扉の餌食となった。
 欠けた巨兵の指先と絡まるようにして室内へと雪崩込んだところで、脱力した俺は大の字に寝転がり「はぁはぁ」と息も絶え絶え。

  ◇

 白い扉の奥はそこそこ天井の高い広間にて、ここにも壁画があった。
 幸いなことに奥には通路も続いており先には進めそう。
 一同ホッと胸を撫でおろす。

「金の扉はイタズラ。黒いのにはヤバいのがいて、白が一人ではほぼ開閉不可能な造りとはな。まいった。あと体中が痛い」

 ヘロヘロになった俺は床にのびたまま。
 タラリアは壁画の記録を撮りつつ、「へー、ほー」となにやら感心している。
 キリクは奥の通路を調べに行き、ジーンはたまさか手に入った巨兵の指先をいそいそと荷袋に詰めていた。「これはこれで貴重な資料だからな」

 じきに戻ってきたキリクが「上の階へと通じる階段があったぞ」と報告。
 回復した俺もむくりと起きて、おっさん三人はタラリアのもとへ。

「あらあら、もう動いて大丈夫なの?」
「おかげさまでどうにか。それよりもこの壁画はいったい……」

 宙に浮かんでいる島は、この浮遊島のことだろう。
 それはあっちの大広間にあったのと同じ。
 ちがうのは、こっちのは空から海へと落ちる姿が描かれてあったこと。
 そしてより大きな島か、もしくは大陸のようなモノが出現する。

「あっちの壁画とは逆の構図? にしては雰囲気が異なっているような」

 俺が首を傾げていると「あらあら、いいところに気がついたわね」出来のいい生徒に喜ぶ教師のように笑みを浮かべ、タラリアは言った。「あっちの壁画では島が飛び立つ姿が描かれてあった。てっきり災厄から逃れるために避難しただけなのかと思っていたけれども、そうじゃなかったようね。こっちの壁画から考えるに、どうやらこの島はカギの役割を果たしているみたい」

 島そのものがカギであり、第四の種族の古代文明が栄えていた大陸はおそらく海の中。
 話が壮大すぎて、いまいちピンとこない俺とキリク。ジーンのみ理解が追いついているのか「なるほど」と独りごちている。
 ついでに向こうの壁画の内容や、浮遊島の森の秘密なんぞを教わり、キリクが「はははは、マジかよ」と乾いた笑い。「あっぶねー。うっかり枝とか折らなくてよかったぁ」
 ジーンは厳しい目をしつつ少し考え込んでいたが、それからこんなことを言い出す。

「もしも真実がその通りだとして、わたしが気になるのは古代文明を壊滅へといざなった災厄のことだ。これほどの超技術を保有する者たちが太刀打ちできない相手。もしかしたらその災厄とやらが、失われた大陸ごと封印されているとは考えられないだろうか?」

 そして古代人たちは木へと姿を変じて、悠久の刻を越えるべく眠りについた。来たるべき日に備えるために……。
 いかにもあり得そうなジーンの推測。
 知れば知るほどに、未来に暗雲が垂れ込めるような気がして、俺たちはおもわず黙り込んでしまう。
 黒い扉の奥にいたナゾの存在もかなり見事な邪悪っぷりであったというのに、あんなもの目じゃないようなのが他にもいるとか。
 想像するだけで気分がズーンと沈んでいく。

「パン!」

 手を叩き陰鬱な沈黙を破ったのはタラリア。

「いくら考えたとてしようがないわ。可能性は可能性として、いまはとにかく地上を目指しましょう。心配するのは無事に帰ってからね」

 もっともな言葉にて、俺たちはうなづき合うと、奥の通路へと歩きだした。


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