135 / 210
135 指名依頼その二
しおりを挟むところどころに立ち昇っている白い煙は、地中から吹き出している蒸気。
赤茶けた岩が転がる無味乾燥な景色が波打ち、幾重にも連なる丘陵地帯。
この一帯は地熱の影響を受けており、何をしなくとも肌がじんわり汗ばむ。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
時おり斜面を下ってくる砂塵に混じって、規則正しく聞こえているのは土を掘る音。
ただいまパーティー「オジキ」の面々はスコップを手に汗だくとなり、せっせと穴掘り作業の真っ最中。
何のためにかって?
もちろん冒険者として依頼を受けたからに決まっている。
◇
王都より辺境都市トワイエへと帰還してからの俺たちはホームを中心に活動。
するとアトラク商会のラグメンツさんから「折り入って頼みたいことがある」との連絡が届く。
ホームとしている屋敷を格安で提供してくれている大家さんの頼みとあらば、すっ飛んでいくのが借家人の義務。もちろん即参上した。
そして「イワマジロンの真皮の採集」という指名依頼を受ける。
イワマジロン。
ゴツゴツした岩っぽい体表をした縦長に平べったいモンスター。大きなモノになると玄関扉三枚分ほどにもなるというが、たいていは二枚分ぐらい。四肢は短く地面を這うように進む。
ふだんは岩山などに潜み、じっと獲物が通りかかるのを待つ。うかうかと近づいたところを大きな口にてパクリ。アゴのチカラは強く鉄の鎧をも容易く噛み千切るほど。
動き自体は鈍重なのだが、怒ると体を丸めて転がりだすのがくせもの。
そうなると巨大な車輪と化してゴロゴロ。うっかり跳ねられたら洒落にならないダメージを受ける。
冒険者ギルドが設定している討伐難易度は中程度。でもコツと手順さえ間違えなければもう少し下がる。しかしそれはあくまで狩ることだけの話。
イワマジロンの真皮は高級家具などに使用される素材。
肌触りが滑らかにて艶があり、伸び縮み染色も自在。加工がしやすく材料として重宝がられている。でも固い体表と筋肉との間に挟まれた薄い真皮は、手早く解体しないと質がどんどん下がってしまう。
品質を維持しての剥ぎ取りには相当の技量が必須。
特殊な技能が必要とされる解体作業込みとなると、とたんに難易度が跳ね上がるというわけ。
そして俺はその技能を習得している。
以前にも何度か真皮を納品したことがあり、実績を買われてのご指名。
◇
「どれ、こんなもので充分だろう。少し休憩したら始めるとしようか」
穴掘り作業の手を止めて俺は言った。
スコップを地面に突き刺し「うーん」と背伸びをしたキリク。「ちょうどいい大きさの窪みがあって助かったぜ。この深さを一からとなるとたいへんだからな」
ハンカチで額の汗を拭いながらジーンも「そうだな。この手のチカラ仕事となると少人数パーティーはつらいところだ」と答えつつ、腰をトントン。
銀の貴公子らしくない、いささか年寄り臭い仕草。だが、いかに日頃から鍛えているとはいえ、慣れない作業では使う筋肉が違う。これはしようがない。
各々水筒を手に休憩中。
地熱の影響下にあるこの一帯では、あっという間に体内の水分が汗となって流れだしてしまう。油断していると動けなくなってしまうから、こまめな水分補給は必須。
ノドを潤しつつ俺がぼんやり考えていたのは、浮遊島での一件のこと。
何やらたいへんなことに巻き込まれつつあるらしいとの自覚はある。
タラリア女史は俺たちのことを「混迷の時代の到来を告げる先触れ」と言っていた。
が、だからとて一介の冒険者にどうしろと?
対策を考えるのはえらい人たちの役目。
勝手に向こうから押しかけて来る怪事については、お手上げ。
嵐の海に浮かぶ木枝のごとき小さき者に抗う術はない。ただ翻弄され、流され、沈まないように必死にあっぷあっぷするばかり。
つまりは、くよくよ考えたり悩んだりするだけ無駄ということ。
なるようにしかならない。
という結論に早々に達したおっさん三人組。
だからこうしていつも通り、冒険者としての活動をしている。
俺たちに出来ることといえば、これぐらいしかないのだから。
◇
煮て良し、焼いて良し、食べて良し。
庶民の食卓の味方。冒険者の筋肉の友。トリ型モンスターのホロホロの丸焼きを、キリクがひょいと岩場に投げ込む。
すると地面がもそもそと動き出し、姿を見せたのはイワマジロン。
早速、大口を開けてごちそうを食べようとするも、直前にて丸焼きがぴょんと跳ねて逃げた。
結わえられた組み紐のせいである。
食べようとすれば逃げる肉。のそりと動いてふたたび口を開けるも閉じたときには、すでに口腔より逃れている。
二度三度と繰り返すうちに、ついにイライラが募ったイワマジロン。「ガーッ!」と吠えた。
それを見届けたところでホロホロ肉を抱えたキリクが駆け出す。
すかさず丸まったイワマジロン。怒りのままに巨大車輪と化して猛追。
全力疾走にて逃げるキリク。
ガランゴロンと転がって追うイワマジロン。
こうなった状態のイワマジロンは速い。
いかに素早さを信条とし健脚を誇る斥候職とて、とても逃げ切れるものではない。
そんなことキリクは百も承知。
彼が向かった先は斜面へと通じる場所。
下り坂が始まったところでキリクは横っ飛び。
すぐ背後にまで迫っていたイワマジロンは、これに気づかずキリクを追い越し、斜面を猛烈な勢いにて駆けおりていく。
キリクはその姿を見送る。「ふー、おっかねえ。あとは任せたぞ。フィレオ、ジーン」
◇
斜面の上から迫る土煙。
確認した俺とジーンはうなづき合うと、すぐさま穴を挟んで左右に隠れる。
次第に足下から伝わる振動が大きくなっていき、「ドドド」と聞こえる音も耳にうるさいほどに。
が、それが唐突にプツリと途切れる。
直後に「ドーン」という重たい音。
坂道を転がってきたイワマジロンが勢いのままに穴へと落ちて、ズボリとはまり込む。
すかさず穴倉へと弓を射かけたのはジーン。
放った矢が丸まったイワマジロンの体をかすめつつ、穴の底へと到達するなり「パンッ!」と甲高い破裂音が鳴る。これは鏃の先にくっつけた小袋のせい。
音は穴の中にて盛大に反響。
驚いたイワマジロンが思わず丸まっていた体勢をとき、顔をグイっと上げた。
間髪入れずに片手剣を抜いた俺が飛び込む。
切っ先が狙うのは露わとなった喉元。ふだんは地面を這うような体勢にて隠れている急所。全体が固い体表に覆われているイワマジロンだが、ここだけはあっさり刃が通る。
いっきに押し込んだ剣。柄越しに伝わったのはブツンと命脈が断たれる際の感触。
チカラを失いだらりとなったイワマジロン。
これにて討伐完了。
だが本番はこれからである。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる