冒険野郎ども。

月芝

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135 指名依頼その二

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 ところどころに立ち昇っている白い煙は、地中から吹き出している蒸気。
 赤茶けた岩が転がる無味乾燥な景色が波打ち、幾重にも連なる丘陵地帯。
 この一帯は地熱の影響を受けており、何をしなくとも肌がじんわり汗ばむ。

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

 時おり斜面を下ってくる砂塵に混じって、規則正しく聞こえているのは土を掘る音。
 ただいまパーティー「オジキ」の面々はスコップを手に汗だくとなり、せっせと穴掘り作業の真っ最中。
 何のためにかって?
 もちろん冒険者として依頼を受けたからに決まっている。

  ◇

 王都より辺境都市トワイエへと帰還してからの俺たちはホームを中心に活動。
 するとアトラク商会のラグメンツさんから「折り入って頼みたいことがある」との連絡が届く。
 ホームとしている屋敷を格安で提供してくれている大家さんの頼みとあらば、すっ飛んでいくのが借家人の義務。もちろん即参上した。
 そして「イワマジロンの真皮の採集」という指名依頼を受ける。
 イワマジロン。
 ゴツゴツした岩っぽい体表をした縦長に平べったいモンスター。大きなモノになると玄関扉三枚分ほどにもなるというが、たいていは二枚分ぐらい。四肢は短く地面を這うように進む。
 ふだんは岩山などに潜み、じっと獲物が通りかかるのを待つ。うかうかと近づいたところを大きな口にてパクリ。アゴのチカラは強く鉄の鎧をも容易く噛み千切るほど。
 動き自体は鈍重なのだが、怒ると体を丸めて転がりだすのがくせもの。
 そうなると巨大な車輪と化してゴロゴロ。うっかり跳ねられたら洒落にならないダメージを受ける。
 冒険者ギルドが設定している討伐難易度は中程度。でもコツと手順さえ間違えなければもう少し下がる。しかしそれはあくまで狩ることだけの話。
 イワマジロンの真皮は高級家具などに使用される素材。
 肌触りが滑らかにて艶があり、伸び縮み染色も自在。加工がしやすく材料として重宝がられている。でも固い体表と筋肉との間に挟まれた薄い真皮は、手早く解体しないと質がどんどん下がってしまう。
 品質を維持しての剥ぎ取りには相当の技量が必須。
 特殊な技能が必要とされる解体作業込みとなると、とたんに難易度が跳ね上がるというわけ。
 そして俺はその技能を習得している。
 以前にも何度か真皮を納品したことがあり、実績を買われてのご指名。

  ◇

「どれ、こんなもので充分だろう。少し休憩したら始めるとしようか」

 穴掘り作業の手を止めて俺は言った。
 スコップを地面に突き刺し「うーん」と背伸びをしたキリク。「ちょうどいい大きさの窪みがあって助かったぜ。この深さを一からとなるとたいへんだからな」
 ハンカチで額の汗を拭いながらジーンも「そうだな。この手のチカラ仕事となると少人数パーティーはつらいところだ」と答えつつ、腰をトントン。
 銀の貴公子らしくない、いささか年寄り臭い仕草。だが、いかに日頃から鍛えているとはいえ、慣れない作業では使う筋肉が違う。これはしようがない。

 各々水筒を手に休憩中。
 地熱の影響下にあるこの一帯では、あっという間に体内の水分が汗となって流れだしてしまう。油断していると動けなくなってしまうから、こまめな水分補給は必須。
 ノドを潤しつつ俺がぼんやり考えていたのは、浮遊島での一件のこと。
 何やらたいへんなことに巻き込まれつつあるらしいとの自覚はある。
 タラリア女史は俺たちのことを「混迷の時代の到来を告げる先触れ」と言っていた。
 が、だからとて一介の冒険者にどうしろと?
 対策を考えるのはえらい人たちの役目。
 勝手に向こうから押しかけて来る怪事については、お手上げ。
 嵐の海に浮かぶ木枝のごとき小さき者に抗う術はない。ただ翻弄され、流され、沈まないように必死にあっぷあっぷするばかり。
 つまりは、くよくよ考えたり悩んだりするだけ無駄ということ。
 なるようにしかならない。
 という結論に早々に達したおっさん三人組。
 だからこうしていつも通り、冒険者としての活動をしている。
 俺たちに出来ることといえば、これぐらいしかないのだから。

  ◇

 煮て良し、焼いて良し、食べて良し。
 庶民の食卓の味方。冒険者の筋肉の友。トリ型モンスターのホロホロの丸焼きを、キリクがひょいと岩場に投げ込む。
 すると地面がもそもそと動き出し、姿を見せたのはイワマジロン。
 早速、大口を開けてごちそうを食べようとするも、直前にて丸焼きがぴょんと跳ねて逃げた。
 結わえられた組み紐のせいである。
 食べようとすれば逃げる肉。のそりと動いてふたたび口を開けるも閉じたときには、すでに口腔より逃れている。
 二度三度と繰り返すうちに、ついにイライラが募ったイワマジロン。「ガーッ!」と吠えた。
 それを見届けたところでホロホロ肉を抱えたキリクが駆け出す。
 すかさず丸まったイワマジロン。怒りのままに巨大車輪と化して猛追。
 全力疾走にて逃げるキリク。
 ガランゴロンと転がって追うイワマジロン。
 こうなった状態のイワマジロンは速い。
 いかに素早さを信条とし健脚を誇る斥候職とて、とても逃げ切れるものではない。
 そんなことキリクは百も承知。
 彼が向かった先は斜面へと通じる場所。
 下り坂が始まったところでキリクは横っ飛び。
 すぐ背後にまで迫っていたイワマジロンは、これに気づかずキリクを追い越し、斜面を猛烈な勢いにて駆けおりていく。
 キリクはその姿を見送る。「ふー、おっかねえ。あとは任せたぞ。フィレオ、ジーン」

  ◇

 斜面の上から迫る土煙。
 確認した俺とジーンはうなづき合うと、すぐさま穴を挟んで左右に隠れる。
 次第に足下から伝わる振動が大きくなっていき、「ドドド」と聞こえる音も耳にうるさいほどに。
 が、それが唐突にプツリと途切れる。
 直後に「ドーン」という重たい音。
 坂道を転がってきたイワマジロンが勢いのままに穴へと落ちて、ズボリとはまり込む。
 すかさず穴倉へと弓を射かけたのはジーン。
 放った矢が丸まったイワマジロンの体をかすめつつ、穴の底へと到達するなり「パンッ!」と甲高い破裂音が鳴る。これは鏃の先にくっつけた小袋のせい。
 音は穴の中にて盛大に反響。
 驚いたイワマジロンが思わず丸まっていた体勢をとき、顔をグイっと上げた。
 間髪入れずに片手剣を抜いた俺が飛び込む。
 切っ先が狙うのは露わとなった喉元。ふだんは地面を這うような体勢にて隠れている急所。全体が固い体表に覆われているイワマジロンだが、ここだけはあっさり刃が通る。
 いっきに押し込んだ剣。柄越しに伝わったのはブツンと命脈が断たれる際の感触。
 チカラを失いだらりとなったイワマジロン。
 これにて討伐完了。
 だが本番はこれからである。


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