冒険野郎ども。

月芝

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137 託すもの

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 せっせと穴を掘り、誘い出してはワナにはめ、音で驚かして急所を一撃。
 イワマジロンの狩りを間近に見て、はじめは文句ばかりであったムッツリ三人組は押し黙り、ルイーサは「すごい……。こんなにあっさりと。それに役割分担がきちんとしている。連携もばっちりだわ」
 感心する彼女たちを横目に、すぐさま丸太で三脚台を組み、滑車で獲物を吊るす。

「俺たちはこうやって自分たちで組んでいるが、専用の三脚台は道具屋に行けば売っている。が、決して安くはない。便利だが用途が限られているし、所有しているのは狩り専門の大手パーティーぐらいだな」
「ギルド支部によっては貸し出しをしているところもある。必要に応じて問い合わせるのもいいだろう」とジーンが助言。
「この三本の棒の組み合わせは、簡易テントやワナの設置なんかにも応用できるから覚えておくといいぜ」とキリクも教える。

 おっさんの話に熱心に耳を傾けているルイーサ。
 ムッツリ三人組も当初の反抗的な態度がずいぶんと軟化。
 俺がイワマジロンの解体に没頭しているうちに、いつしか彼らも作業を食い入るように見つめていた。

「これは吊るし切りという方法だ。すぐにはムリだろうが、いまはこういう方法もあるとだけ知っておけばいい」

 心臓から回収した魔石を俺は放り投げる。
 受け取ったルイーサは手の中の品とこちらを何度も見比べて「あの、本当によろしいのですか? ご迷惑をおかけしただけでなく、勉強をさせてもらったうえに魔石まで」

 遠慮して恐縮しているルイーサに俺は言った。

「かまわない。技術や知識を後輩に伝えるのも大切なことだからな。俺も先輩たちには散々に世話になったもんだ。だから黙って受け取っておけ。もっともその分、しっかり働いてはもらうがな」

 言葉の通り、俺たちはルイーサたちに仕事を手伝わせている。
 イキのいい若い連中のおかげで穴掘りがはかどるはかどる。
 報酬はイワマジロンの魔石。
 パーティー「オジキ」の目的はあくまで真皮の採集。だから前途ある若人にそっちの方は譲ることに相談の上で決めた。先に手に入れた分もオマケにつける大盤振る舞い。これでダメになった装備類もある程度は整えられるだろう。
 支部長のダグザあたりに知られたら「甘やかし過ぎだ」と呆れられそうだが、笑わば笑え。

  ◇

 新たに四体のイワマジロンを狩り、真皮の採集に成功。
 必要な分は残りあと一枚。
 なのだが周囲には手頃な獲物がおらず、俺たちはふたたび狩り場を変えることにする。
 新天地にて二班に分かれて穴掘りと探索。
 俺とジーン、ムッツリ三人組にて交代でスコップを振るっていると、キリクとともに探索に当たっていたルイーサが、息せき切ってひとりで戻ってきた。
 なんでもキリクから俺を急いで連れてくるようにと頼まれたんだとか。
 何ごとかと彼女と供に向かったのは、谷間になっている場所。
 付近の岩陰に潜んでいたキリクが手招き。
 合流するなり、彼が黙って指差した先にいたのは特大のイワマジロン。

「デカっ! 通常の倍はあるんじゃないのか」

 目を見張って驚く俺にキリクがうなづく。

「あそこまでの大物はオレも初めてだ。そこで相談なんだが、フィレオはあれを解体する自信はあるか?」

 問われて俺は考え込む。
 これだけの大きさとなれば吊るすのはムズカシイ。寝かしたままの作業ともなれば、その分だけ手間と時間がかかる。せめて内臓の処分と血抜きだけでも速やかに行えれば……。
 素直に懸念を口にすると、「真皮を剥ぐのは可能なんだな? ならそっちはオレがどうにかする」とキリクは請け負った。
 彼には何やら腹案があるらしい。仲間がそう言っている以上は、パーティーのリーダーとしては信じるしかあるまい。
 なによりこれほどの大物、見逃すのなんてもったいない。

  ◇

 キリクとルイーサを見張りに残し、俺は一人で戻ると、ジーンたちに穴掘りの中止を告げた。
 汗だくとなり作業に勤しんでいたムッツリ三人組は、ぶーぶーと文句を垂れていたが、それも獲物をじかに見るまでのこと。

「なんじゃこりゃあ……」
「あー、これはあの穴ではムリだ」
「こんなのを相手にするとか、おっさんたちマジかよ?」

 なんぞとほざくムッツリ三人組は放っておき、俺たちパーティー「オジキ」の面々は額を突き合わせて、ごにょごにょと段取りを確認。
 役割分担を決めると早速準備を始めた。

  ◇

 魔法を行使するための準備を整え終えたジーン。
 ジーンがうなづいたのを確認してから、宙へと踊りでたのはキリク。
 谷間の上空を横断する形にて通した一本のロープ。そこに連結する形で繋がる組み紐の先にキリクの姿はあった。
 胸元に抱えているのは火で炙られたホロホロの丸焼き。油と滴る肉汁にまみれて、キリクそのものが旨そうなニオイを発している。
 基本的に待ちの姿勢にて獲物を狩るイワマジロン。出現したごちそうに反応。
 鼻先をちらちらとかすめるように浮遊している肉を見て、首をのばして大口をバカンと開ける。
 が、もう少しというところで届かない。
 だからさらに体を持ち上げて食べようとするも、やはり届かない。
 当然だ。キリクが自身を結ぶ組み紐の長さを調節して、少しずつ上へと逃がれているのだから。
 今回は怒らして転がすのはなし。
 なにせこの大きさともなると、落とし穴を掘るのがムズカシイ。
 かわりにこうやってエサをちらつかせて、急所をさらけ出させる算段。
 あとちょっとという、絶妙な距離にて焦らされる特大イワマジロン。
 唐突にガバッと起きての仁王立ち。
 これまでの鈍重な動きがウソのような瞬発力。
 危うく喰われそうにあったキリク。どうにか鼻先を蹴飛ばし「ひえーっ」と難を逃れた。
 同時に露わとなったノドの急所。
 俺は物陰より飛び出した。
 大股にて助走をつけつつ、身体を開く。胸、腕の筋肉と関節をめいっぱいに伸ばす。自身を弓弦と化し、緊張が限界へと達したところでチカラを開放。 
 渾身の投擲にて放たれたのは槍。
 これはムッツリ三人組が露店商から売りつけられたインチキ品の一つ。欠けて使い物にならない穂先は外し、手持ちのナイフをくっ付けたモノ。
 即席槍がズブリと特大イワマジロンのノドへ突き刺さる。
 でも体が大きい分だけ皮や肉も厚い。倒し切れない。
 が、これは最初から折り込み済み。
 続けて魔法を発動させたジーン。放ったのはイカズチの魔法。
 蒼い閃光が走り、稲光が槍へと落ちた。
 槍を通して体内へと流れ込む雷撃。
 立ち上がったままにてビリビリ痙攣する特大イワマジロン。
 しかしどっこい生きている。なぜならジーンがあえて魔法の威力を落としているから。
 倒すのが目的ではない。
 狙いはあくまで真皮。黒焦げにしては元も子もない。
 このタイミングで二本の分銅つきの組み紐を放ったのは、宙に留まっていたキリク。
 一本を痺れて立ち上がったまま硬直している特大イワマジロンの首へと巻きつける。
 もう一本は地上にいる俺へとめがけて。
 俺が左腕にてしっかりと受け取ったのを見届けてから、キリクの身が急降下。
 谷を横断するよう上空に通されてあるロープ。そこに設置されてある滑車がカラカラ音を立てて勢いよく回り、組み紐で繋がれた俺の身がいっきに上昇。
 雷光によって黒ずんだ槍の石突が迫ったところで、チカラまかせにコレを蹴飛す。
 トドメの一撃!
 深々とめり込んだ槍を足場にして、後方へタンっと跳ねた俺の体。
 振り子の要領にて戻ってきたところに、今度は相棒の片手剣を深々と突き刺す。途中で組み紐を手放し両手持ちに切り替え、根元近くにまで剣身を押し込む。
 柄にぶら下がった格好にてあえて暴れると、俺の全体重がかかった刃がズズズと下方へ向けて動きだす。
 ゆっくりと走り出した刃がじょじょに加速。
 ついには特大イワマジロンの腹部を切り裂き、はらわたを盛大にぶち撒けた。


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