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142 嗜好
しおりを挟む広間の中央でポテポテしている緑のスーラ。
近づいたキリクが腰のポーチから投擲用の鉄ペンを取り出すと、これをブスリ。
でも鉄ペンは吸収されることなく「ペッ」と吐き出された。
どうやら銅貨五もしない安物はお気に召さなかったらしい。
他にもナイフやらマキビシやら組み紐やらハーケンなどを次々と与えてみるが、もぐもぐと吸収したのはハーケンのみ。
続いてジーンが手持ちの品から小物をいくつか与えてみるも、ほとんどの品が吐き出されてしまう。食べたのは弓の交換用の弦と鏃。
これらのことにより、緑のスーラは食に関して激しい選り好みがあることが判明。
雑食にてなんでも消化吸収するとはいえ、そこには嗜好性の差異が見られることを確認してから、今度はアトラが大剣を手にした。
いくら斬りつけても表面のぬるぬるが、すべての物理攻撃を無効にするので、切っ先をゆっくりと近づけていく。
緑のスーラの体内にじょじょに沈むように埋まっていく剣身。
が、しばらくしたら鉄ペン同様に「ぺっ」と吐き出されてしまう。
紅風の異名を持つ第一等級冒険者の得物にて、無名ながらも大業物。使われている素材などは間違いなく最高品質のはず。だが緑のスーラはお気に召さない。
アトラは他にも手持ちの荷物からいくつか差し出すも、露骨にそっぽを向かれてちょっとへこんだ。
床に手をつきガックシなアトラを横目に俺は腰の片手剣を抜く。
その瞬間、にゅるんと伸びてきた触手は緑のスーラのもの。
片手剣をぐるぐる巻き。
抵抗する間もなくあっさり奪われ、もぐもぐ喰われたっ!
以上の事柄から頭脳明晰かつ容姿端麗な銀髪魔導士が導き出した答えは……。
「キリクのハーケン、わたしの弦と鏃、そしてフィレオの盾と剣。これらに共通しているのはすべてガンツが作った品だということだ。どうやら緑のスーラはトワイエ産ガンツ味が好みのようだな」
◇
おいおい。鉄はしょせん鉄だろう?
なんてことがないのは、冒険者ならば誰もが知っていること。
素材が同じでも扱う職人の腕によって、仕上がりは千差万別。
烈火を通し、汗だくになりながら一心不乱にハンマーを打ち下ろし、火花を散らし、魂を込めて錬成加工される品々には、目には見えない何かが宿る。
生と死を賭けるようなギリギリの局面にて、俺たち冒険者は確かに感じるのだ。手にした武器から、身を守る鎧から。
だからこそ上級な冒険者ほど鋳物中心の既製品では満足せずに、馴染みの鍛冶師を持つようになる。
ジーンの指示により、パーティー「オジキ」はガンツ製の品をすべて提出し並べる。
俺の愛用品のほとんどはガンツ製なので、結果としてほとんど身ぐるみを剥がれた。つま先やカカトの強化を頼んでいたせいで、ブーツまで脱ぐハメとなり裸足となる。床が冷たい。
キリクはハーケンと胸当てと籠手。身軽が信条である斥候職ゆえに装備品はあまり多くはない。しかしキリクもまたブーツに加工を頼んでいたせいで、裸足となる。
ジーンは弓の弦と鏃、あとはベルトやボタンや留め金とか細々したもの。だがそれらを外したせいで衣服の前がはだけることに。そしてジーンも同様にて裸足となった。
それにしても銀髪の端正な男の悩ましげな格好には参った。
妙に艶めかしくて目のやり場に困る。ホームで散々に見慣れているはずなのに、なぜだか惹きつけられるというか、照れるというか。
キリクもちらちらと気にしている。同性ですらもがこれ。
だというのにこの場にいる唯一の女性であるアトラはジーンには見向きもしないで、なぜだか俺の方をガン見。ふーむ。あいかわらずよくわからない娘だ。
ありったけのガンツ製の品が並べた理由。
それは緑のスーラを手懐けるためである。
スーラが懐かないのは周知の事実。そして倒せないのもまた然り。
ならばどうにかして懐柔するしかあるまいとの結論に達したジーン。
敵を倒すのは何も殺すことだけじゃない。味方に取り込むのもまた立派な勝利。
幸いにも相手が欲しがっている品はわかっているので、どうにかこれらを使って活路を見い出そうという作戦。
「大丈夫かよ? スーラって意思疎通が不可能なんじゃないのか」
心配するキリクをよそに、ジーンはやや自信ありげ。
「確かに運の要素は否定できないが、まるっきり勝算がないわけじゃない。なにせことが食に関することだからな」
一度、ごちそうの味を覚えてしまうと、以前の状態に戻るのはムズカシイ。
これは大なり小なりみんな経験していること。
それはスーラとて同じはず。いや、他の個体とちがって嗜好性を持つがゆえに、より強く感じるだろう。ちゃらんぽらんの中に唯一生まれたからそこ、ソレが特別な意味を持つ。
ジーンの説明を受けて、俺たちは「なるほど」とうなづいた。
◇
俺の手によって差し出されるガンツ製品。
それらをモグモグと食べていく緑のスーラ。
そのたびにぷるるんと全身をふるわす。
これは喜んでいるのか?
ボタンなどの小さなものから始まり、じょじょに大きなものへと移行。
食欲旺盛な緑のスーラは、途中でペースを落とすこともなくモリモリ食べ、食べたとたんに体内にてシュワシュワと泡にかえて消化吸収。
そのくせ体には目立った変化はない。
いくら食べても太らない体質のようで、うらやましい。
たまに勢い余って俺の手ごと飲み込まれるものの、ちゃんと手の方は吐き出してくれるので助かっているが、「おまえはいらん」と暗に示されているようで心中複雑。あとスーラの体内はほんのり温かかった。
でもそんな調子で食べ続けていれば、ごちそうはみるみる目減り。
残りが一つとなったところで、俺は緑のスーラに語りかける。
「さて、楽しい時間もそろそろ終わりだ。だってこれで最後なのだから。あぁ、せめて扉の外に出られれば、もっといろいろと食べさせてやれるのになぁ」
わざとらしい仕草にて、台詞も棒読み。
ひどすぎる演技にキリクとジーンだけでなくアトラまで、ププッと吹き出す。
だが直後に、広間に異変が生じる。
中央部分に突如として宝箱が出現。
なんら予兆もなく、それこそポンっと出た!
ということは……。
目論み通りにて、懐柔成功にて試練達成?
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