冒険野郎ども。

月芝

文字の大きさ
151 / 210

151 共食い

しおりを挟む
 
 二夜連続の事件発生。
 相次ぐ大物の不審死に、マナジントン島及び商連合内の緊張感がいっきに増す。
 それに拍車をかけたのは、市井に流れるウワサ。
 クトミ・レムはアーケード側に謀殺された。
 その報復として今度はバニヤン・ロックが殺された。
 不穏なウワサにはさらに尾ひれがつきまとう。

「じつはすべて中央の陰謀にて、二大勢力の対立を煽り弱ったところを、支配下に組み込む算段である」などと。

 人々の心にまかれた疑心の種が芽を出し、もの凄い勢いにて育っていく。
 ただでさえ殺気立っているところに、疑心暗鬼が重なって、街の空気が剣呑なものとなるまでに、たいして時間はかからなかった。
 パーティー「オジキ」がこの地へとやってきてから、わずか三日での出来事。
 表向きこそ街は変わらず活気に満ちているが、ときおりサッと影が差す瞬間がある。ぷつりと喧騒が途切れ、不気味な沈黙が生まれる。誰もが水面下で何かが進行していることを肌で感じている。なのにあえて目をそらしているような不自然さ。かといって目を閉じているわけでも、耳を塞いでいるわけでもない。
 むしろその逆。抜け目なくしたたかに。さりとて焼けた石には手を出さない。
 ここは欲望の渦の中。命の喪失、争乱という危機すらもが売り物となる不浄の地。

  ◇

 ライオット家の面々は最初の事件が起こってから、ずっと出ずっぱり。
 俺たち三人は極力外出を控え、滞在用にあてがわれた屋敷の二階の一室にて自主待機。

「ウワサの拡散が早すぎる」

 カーテンの隙間から外を眺め、次第に変容していく街の雰囲気をジーンは憂う。

「明らかに故意だな。たぶん暗殺に合わせて仕掛けやがったんだろう。ウルリカは言っていたからな。『わたしたち』って」

 短双剣の刃の手入れをしながらキリクが不機嫌な調子で言った。
 ウルリカという女の言葉を信じるならば、彼女には他にも仲間がいる。
 それも相当な手練れ。なにせ警護が厳重な派閥の長をあっさり仕留めているのだから。またウワサの伝わり具合からして、相当数の敵勢が暗躍しているのにちがいあるまい。

「三つの派閥のうち、残されたのは中央か。ジーンのオヤジさんたちは大丈夫なのか?」

 俺が心配するも、ジーンは「問題ない」と言った。「ああ見えて剣の腕は相当だ。母に関しては言わずもがな。弟も自分の身は自分で守れる程度には強い。少し心配なのは妹ぐらいだが……」

 そんなことを話していると、扉を控えめに叩く音がした。
 姿を見せたのはライオット家のメイド。渡されたのはブラン・ライオットからの伝言の書かれた紙。
「仕事を頼みたい」とのことにて、俺たちはすぐに中央の役所へと向かった。

  ◇

 キンザ王橋と港湾地区の中間に位置するのが、役所関連が密集している中央区。
 その中でもひと際背が高い建物が商連合の総本山。
 数日ぶりに顔を合わせた当主ブランは少しやつれていた。

「いや、まいった。レム家とロック家は一触即発。両派閥もこれに倣うもんで、間に立つこっちはずっと綱渡り状態だ。まぁ、さすがに暴発して共食いなんて無様なマネは許さんがね」

 十本ある首。一つ潰してもすぐに新しいのが生えてくる。それが商連合。
 全部潰すのはさすがにたいへん。
 そこで何者かは十本の首同士を不和にして、共食いを画策している模様。
 これがブラン及び中央の見解らしい。だが……。

「何者かの思惑はある程度透けてきたが、その先がまるで見えない。まんまと策が成功して商連合をかき乱したとて、それでどうなる? たんに世界経済が混乱するだけだ。制御できぬ嵐を引き起こしたところで、巻き込まれて自滅するのがオチだろう。いったい何がしたいのやら」

 混乱に乗じて何かを狙うという手法は、特に珍しいことではない。
 だが今回の騒動はまるで混乱させることそのものが目的のよう。
 いまのところその目論みは成功している。
 ずっと後手に回っており、中央は火消しにてんてこまい。しかしいつまでも好き勝手を許すほど商連合も甘くはない。着々と包囲網は狭められているとのこと。
 それを匂わせつつ当主ブランはパーティー「オジキ」にある依頼をする。

「きみたちに頼みたいのは、岩壁王の調査だ」

  ◇

 ダンジョン「岩壁王」
 白い煙を吐き続ける山のふもとにある深い地割れ。
 陽の光もほとんど届かない渓谷の一番奥にある絶壁。
 そこに刻まれたようにして存在している巨大な石像。形状からして、おそらくは王を模したものと思われるのだが、あいにくと顔の部分がごっそり抉れており、詳細は不明。 
 内部は七階層に分かれており、各階層には主となるモンスターが存在している。
 しかし最上階となる頭部には何もおらず、あるのは壁や天井にびっしりと彫り込まれた焔のレリーフのみ。
 だから最上階に足を踏み入れると、まるで自分が燃え盛る窯の中に放り込まれたかのような錯覚を覚えるという。

 この場所に不審な連中が出入りしているとの報告を得たブラン・ライオット。
 近頃、マナジントン島を騒がしている者らとの関係が疑われるので、すぐに手の者を派遣したいところだが、いささか余裕がない。
 正式に冒険者ギルドへ依頼を出すと時間と手間がかかる。また誰が敵で誰が味方かわからない現状において、迂闊に外部に手を求めるのは危険。
 実力があり信頼できる者……。
 そこでお鉢が回ってきたのがパーティー「オジキ」というわけであった。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...