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151 共食い
しおりを挟む二夜連続の事件発生。
相次ぐ大物の不審死に、マナジントン島及び商連合内の緊張感がいっきに増す。
それに拍車をかけたのは、市井に流れるウワサ。
クトミ・レムはアーケード側に謀殺された。
その報復として今度はバニヤン・ロックが殺された。
不穏なウワサにはさらに尾ひれがつきまとう。
「じつはすべて中央の陰謀にて、二大勢力の対立を煽り弱ったところを、支配下に組み込む算段である」などと。
人々の心にまかれた疑心の種が芽を出し、もの凄い勢いにて育っていく。
ただでさえ殺気立っているところに、疑心暗鬼が重なって、街の空気が剣呑なものとなるまでに、たいして時間はかからなかった。
パーティー「オジキ」がこの地へとやってきてから、わずか三日での出来事。
表向きこそ街は変わらず活気に満ちているが、ときおりサッと影が差す瞬間がある。ぷつりと喧騒が途切れ、不気味な沈黙が生まれる。誰もが水面下で何かが進行していることを肌で感じている。なのにあえて目をそらしているような不自然さ。かといって目を閉じているわけでも、耳を塞いでいるわけでもない。
むしろその逆。抜け目なくしたたかに。さりとて焼けた石には手を出さない。
ここは欲望の渦の中。命の喪失、争乱という危機すらもが売り物となる不浄の地。
◇
ライオット家の面々は最初の事件が起こってから、ずっと出ずっぱり。
俺たち三人は極力外出を控え、滞在用にあてがわれた屋敷の二階の一室にて自主待機。
「ウワサの拡散が早すぎる」
カーテンの隙間から外を眺め、次第に変容していく街の雰囲気をジーンは憂う。
「明らかに故意だな。たぶん暗殺に合わせて仕掛けやがったんだろう。ウルリカは言っていたからな。『わたしたち』って」
短双剣の刃の手入れをしながらキリクが不機嫌な調子で言った。
ウルリカという女の言葉を信じるならば、彼女には他にも仲間がいる。
それも相当な手練れ。なにせ警護が厳重な派閥の長をあっさり仕留めているのだから。またウワサの伝わり具合からして、相当数の敵勢が暗躍しているのにちがいあるまい。
「三つの派閥のうち、残されたのは中央か。ジーンのオヤジさんたちは大丈夫なのか?」
俺が心配するも、ジーンは「問題ない」と言った。「ああ見えて剣の腕は相当だ。母に関しては言わずもがな。弟も自分の身は自分で守れる程度には強い。少し心配なのは妹ぐらいだが……」
そんなことを話していると、扉を控えめに叩く音がした。
姿を見せたのはライオット家のメイド。渡されたのはブラン・ライオットからの伝言の書かれた紙。
「仕事を頼みたい」とのことにて、俺たちはすぐに中央の役所へと向かった。
◇
キンザ王橋と港湾地区の中間に位置するのが、役所関連が密集している中央区。
その中でもひと際背が高い建物が商連合の総本山。
数日ぶりに顔を合わせた当主ブランは少しやつれていた。
「いや、まいった。レム家とロック家は一触即発。両派閥もこれに倣うもんで、間に立つこっちはずっと綱渡り状態だ。まぁ、さすがに暴発して共食いなんて無様なマネは許さんがね」
十本ある首。一つ潰してもすぐに新しいのが生えてくる。それが商連合。
全部潰すのはさすがにたいへん。
そこで何者かは十本の首同士を不和にして、共食いを画策している模様。
これがブラン及び中央の見解らしい。だが……。
「何者かの思惑はある程度透けてきたが、その先がまるで見えない。まんまと策が成功して商連合をかき乱したとて、それでどうなる? たんに世界経済が混乱するだけだ。制御できぬ嵐を引き起こしたところで、巻き込まれて自滅するのがオチだろう。いったい何がしたいのやら」
混乱に乗じて何かを狙うという手法は、特に珍しいことではない。
だが今回の騒動はまるで混乱させることそのものが目的のよう。
いまのところその目論みは成功している。
ずっと後手に回っており、中央は火消しにてんてこまい。しかしいつまでも好き勝手を許すほど商連合も甘くはない。着々と包囲網は狭められているとのこと。
それを匂わせつつ当主ブランはパーティー「オジキ」にある依頼をする。
「きみたちに頼みたいのは、岩壁王の調査だ」
◇
ダンジョン「岩壁王」
白い煙を吐き続ける山のふもとにある深い地割れ。
陽の光もほとんど届かない渓谷の一番奥にある絶壁。
そこに刻まれたようにして存在している巨大な石像。形状からして、おそらくは王を模したものと思われるのだが、あいにくと顔の部分がごっそり抉れており、詳細は不明。
内部は七階層に分かれており、各階層には主となるモンスターが存在している。
しかし最上階となる頭部には何もおらず、あるのは壁や天井にびっしりと彫り込まれた焔のレリーフのみ。
だから最上階に足を踏み入れると、まるで自分が燃え盛る窯の中に放り込まれたかのような錯覚を覚えるという。
この場所に不審な連中が出入りしているとの報告を得たブラン・ライオット。
近頃、マナジントン島を騒がしている者らとの関係が疑われるので、すぐに手の者を派遣したいところだが、いささか余裕がない。
正式に冒険者ギルドへ依頼を出すと時間と手間がかかる。また誰が敵で誰が味方かわからない現状において、迂闊に外部に手を求めるのは危険。
実力があり信頼できる者……。
そこでお鉢が回ってきたのがパーティー「オジキ」というわけであった。
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