冒険野郎ども。

月芝

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168 坑道

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 辺境都市トワイエの近くを流れる川。季節によっては水量が上下するものの、流れ自体は比較的ゆるやか。雨上がりとかでもないかぎりは、女子どもでも渡れる程度。
 ここを上流に一日ほどさかのぼったところに採石場跡がある。
 かつては賑わっていた場所も、すでにめぼしい石材は採りつくされており、いまでは寄りつく者とてほとんどいない。
 ある嵐の夜のこと。
 採石場跡の一角の岩肌が崩れて、姿をあらわしたのが坑道らしきものの入り口。
 その存在に最初に気がついたのは近隣の村の住人。おそるおそる中を覗き込んでみると、手掘りとおぼしき内部は思ったよりもしっかりとした造り。槍を持った大男が暴れても問題なさそうな高さの天井と幅の広さ。試しに小石を投げ込んでみる。音の響き具合からしてかなり奥にまでつながっていそう。
 だが、だからこそ地元の住人たちはそろって困惑した。
 なぜならこの地域に、かつてそのような立派な坑道があったという記録も記憶も、一切残ってはいなかったから。
 いつ? 誰が? 何の目的でこのようなシロモノを?
 考えれば考えるほどにますます困惑し、混乱するばかり。
 かといって自ら探索に乗り出すほど浅慮ではない。
 村人たちは協議の結果「とにかくご領主さまに届け出よう」と決めた。

  ◇

 ナゾの坑道出現の報を受けた領主は、調査をギルド支部に依頼する。
 これを受けて派遣されたのがギルド職員であるマリルと、さる第五等級のパーティー。
 マリルが同行していたのは上司であるミリダリア女史の指示による。
 もしも新生ダンジョンならば管理はギルドに委ねられる。そうなれば難易度を設定せねばならないし、周辺の環境整備も必要。遺跡の類ならば現場保存に努め、関係各所に通達し、場合によっては本格的な調査隊を送らねばならない。もしもモンスターが住みついていたり、大規模な巣を作っていたり、野盗の類が潜んでいれば近隣住民に危険が及ぶ……、などなど。
 それらの見極めに必要な下調べがマリルの任務である。
 あくまで前段階なので様子見。本格的に潜るつもりはなく、調査はざっくりとしたもの。
 だから予定では往復の移動に二日、調査に一日のみあて、計三日間だけの簡単な出張となるはずであった。
 しかし……。

  ◇

 予定日を過ぎてもマリルたちは帰ってこなかった。
 一日や二日程度、諸事情にて帰還が遅れるなんてことは、冒険者稼業ではよくあること。
 けれども副支部長のミリダリア女史は、異例の速さにて捜索隊の派遣を決定する。
 なぜならミリダリア女史は表裏におけるマリルの上司であったから。仮にも本部直轄の猟犬部隊の一員たるものが、何の連絡も寄越さない時点で不測の事態が発生していると察したのである。
 パーティー「オジキ」は真っ先に手をあげ、捜索隊に志願。
 担当であるマリルは俺たちにとっては第四のメンバーに等しい。仲間を助けるのは当然のこと。
 捜索隊の規模は中堅パーティー五つで編成。
 指揮はギルドの古株職員がとる。
 各パーティーから斥候職が先行。川沿いを疾駆し、さかのぼる。
 トワイエから採石場へは行き帰りともにこの道を通る。途中で奇禍に見舞われた痕跡がないかを探りながら、先を急ぐキリクたち。
 それに遅れることわずか。かなりの速足で行軍を続ける本隊。
 救援活動は時間との勝負。
 だから荷は必要最低限。食料などのかさ張るものは後続に任せる。
 遅れる者は置いていくつもりで動いていたのだが、さすがはミリダリア女史のお眼鏡にかなった連中だけある。誰一人欠けることなくついてゆく。
 おかげで通常であれば丸一日かかる行程が、半日ほどに短縮。
 現地にて合流した先行部隊から「途中に怪しいところは見られなかった」との報告を受けて、いよいよ例の坑道が怪しいということに。
 そこでパーティーごとに手分けをし、さっそく坑道内を捜索することになった。

  ◇

 迷うほどではないが、内部にて幾度も枝分かれをしている坑道。
 慎重に進みながら俺ことフィレオは「うーん」とうなり、キリクもやたらと周囲をぺたぺた触ったり足踏みをしたりして落ち着かない。
 ジーンもかすかに眉をしかめたままにて、「なにか妙だな」と口にした。

「ダンジョンに入った時みたいに圧力を感じる。が、敵は影も形もなし」と俺。
「ヌルいというか。ぼやけているというか。モヤっとしているというか。とにかくはっきりしねえ」とはキリク。

 おっさん三人ともに、冒険者としてこの場所に違和感を抱いている。
 根拠はないが、感覚や直感を信じれば、ここがただの坑道ではないということ。
「いっそうの用心を」とうなづき合った直後。
 しんがりを歩いていたジーンが消えた!
 背後からついてくるはずの足音がしない。
 怪訝に思いふり返るも、銀髪の偉丈夫の姿はどこにもなし。
 忽然といなくなってしまった仲間。ほんの少し前まで言葉を交わしていたというのに。
 俺とキリクはなんら予兆もなく、怪しい物音を耳にすることも、気配も感じなかったことを確認しつつ、すぐさま互いの腰を紐で結ぶ。動きはかなり制約されるが、はぐれないための用心だ。
 何者の仕業なのか、どのような手段を用いたのか、皆目見当もつかない。
 だがこの坑道には尋常ならざる何かが潜んでおり、そいつが明らかに害意を持っていることだけは確かなようである。


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