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189 星渡りの船
しおりを挟む夜明け前に走り出した砂舟。
じきに星たちがぽつぽつ姿を隠し、空が白じみだした頃。
帆を操る昆虫人のリープが「こいつは縁起がいいや」と声をあげた。
彼が顔を向けていたのは船体の右側遠方。
キラキラと光の帯のようなものが、砂の海の上を漂っている。
風に舞う姿は繊細でしなやか。優雅さは花嫁が被るベールを連想させる。
俺たちが見惚れていると「あれはトビトーの群れさ」とリープが教えてくれた。
トビトーは、ギサの海にすむ魚。
ふだんは砂の中、奥深くを群れで行動しているのだが、いい風が吹くときには地上へと顔をだし、長いヒレを翼のように広げて、空を飛ぶ。
だからトビトーの群れと遭遇することは、砂の海を渡る船乗りたちにとっては吉兆とされている。
そのおかげかギサの海の船旅、三日目は良風に恵まれた。
予定していたよりもずいぶん早く、目的地へとと到達することができた。
◇
真っ青な空。
降り注ぐ陽光を受け砂が白い。
ぼんやりとゆらめく景色。
薄い砂塵の彼方。
遠目には小山のように見えていた姿が、近づくほどに明確となっていく。
岩礁にでも叩きつけられたかのような無残な船体の欠片、あるいは折れた竜骨の一部とおぼしきモノが、そこかしこに点在している船の墓場のような場所。
砂舟乗りたちから星渡りの船と呼ばれるソレらは、一つ一つがとても巨大な残骸で、間近にすると見上げるほどもある。
一帯に入るなり日差しが途切れがちとなった。残骸が生み出す影のせいだ。
白から薄闇へ。薄闇から白へ。慣れる間もなく視界が目まぐるしく入れ替わる。そのせいで自然と眉根が寄って前方をにらむような目つきとなる。
帆を三分の二ほどたたみ速度を落とした砂舟。障害物に気をつけながら合間をゆっくりと進んでいく。
「スゲーな。コレが本当に星の海を渡る船だってんなら、とんでもない大きさだぜ」
「あぁ、下手な街ぐらいすっぽり収まるかもしれないな」
目の前を通り過ぎていく巨大な残骸。
圧倒されたキリクと俺は「へー」と感心しきり。
そんな俺たちに「アハハ、星渡りうんぬんの話はあくまで伝説だから」とリープが笑う。「実際のところは、よくわかってないんだよねえ。えらい学者先生とかも散々に調べてくれたらしいんだけど、さっぱりなんだってさ」
ジーンがこれにうなづき、より詳細な説明を引き継ぐ。
「英知の塔と星渡りの船もそうだが、このギサの海もたいがいのナゾだ。便宜上、砂漠とされているが、実態はかなりちがうからな」
なにせここギサの海は、通常の砂漠ほど暑くならない。
ふつうの砂漠は昼は熱砂の灼熱地獄、夜は一転して凍える極寒地獄と化し、気軽に立ち入れるような場所ではない。
けれどもギサの海はちがう。
日中といえども、それほど高温にはならず、夜間もまた低温にならない。
なにせ水筒一本で過ごせる程度なのだから。
どうやら足下の砂に秘密があるようで、一定以上の熱がこもらず、また一定以上に冷めない性質を持つ。
鍋に放りこんでグツグツ煮込んだとて、せいぜいぬるま湯程度にしかならない。
砂のようで砂ではない。ニセモノの砂ゆえに「偽砂の海」と呼ばれるようになったとか。
かといって安易な場所なのかといえば、けっしてそんなことはない。
危険と安全の境界となるのが、この星渡りの船の一帯。
ギサの海の中心部と外縁部を隔てるかのようにして、残骸がぐるりと周囲に散らばっており、向こう側とこちら側とでは、環境がまるで異なる。
外縁部にはほとんど危険がなく、わりと気軽に往来できる。
けれども中心部にはモンスターが多数出没し、迂闊に舟を乗り入れられないほど。
どうしてこのような生態区分が発生しているのかもまたナゾにて、一説には星渡りの船の残骸に含まれる成分が原因ではともいわれているが、あくまで仮説の域を出ない。
まぁ、とどのつまり、何だかよくわからない土地ということ。
ジーンの講義に耳を傾けているうちに、次第に船足がゆっくりとなっていく。
そして終わるのに合わせたかのようにして、砂舟は静々と止まった。
◇
「くれぐれも無茶をしちゃダメだからね! もしものときにはソレを焚くように。運が良ければ近くを通りかかった砂舟が駆けつけてくれるから」
パーティー「オジキ」と必要な品を詰めた荷袋を舟から降ろし、遠ざかっていくリープの砂舟。
別れ際にリープから渡された緊急用の発煙筒。
十日後にまた迎えに来てくれるよう頼んであったのだが、念のためにと手渡された品。紐を抜くと赤い煙がたつらしい。そいつを手に俺は砂舟を見送る。
舟の姿が豆粒ほどになったところで、発煙筒を荷袋に突っ込み、砂漠を踏破するために用意したマントを羽織り、仲間たちに声をかける。
「さてと、それじゃあ行こうか」
とっくに準備を整えていたジーンとキリクが黙ってうなづく。
俺たちはギザの海中心部に見えている英知の塔を目指し歩きはじめた。
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