冒険野郎ども。

月芝

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203 絶望のツバサ

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「ピロロロロロ」

 鳴き声が戦場に響く。
 見上げた先にいたのは、銀色の紙で折られたトリのような何か。
 胸元の中央に大きな穴がひとつ開いている。カラダのパーツのほとんどが鋭角で構成されているというのに、二本の足だけが妙に寸胴。丸い煙突が腹から生えているかのよう。
 全長は飛竜より二回りほど大きい。限りなく大型に近い中型の飛行モンスター。
 これが第五の災厄を統率している個体。

「……というか、アレが本体なのだろう。ぶんぶん小うるさい連中は、分体にすぎなかったようだな」ジーンは空を仰ぎつつ「ふむ。これはいささか想定外」

 銀の怪鳥が遥か上空をゆっくりと旋回している。
 一周して、二周して、三周と、同じような軌道をなぞるように、ぐるりぐるりと飛んでいる。
 目を離さずに警戒を続けていたキリクが「ヤバい!」と叫ぶ。
 まったく同じ軌道に見えて、じつは少しずつ、内へ内へと輪が狭まっていた。飛行速度も上がっている。
 それすなわち、渦を巻くようにして加速しつつ、降下をしているということ。
 大竜巻の天辺から根元へとたどるようにして飛来する銀の怪鳥。
 空を滑るようにして落ちてくる。
 ついには大地に対してほぼ垂直の姿勢となったところで、騎兵が用いるランスのような鋭いクチバシが開く。

「ピューイ」

 やや気の抜けた声。
 けれども直後に大地が爆ぜた。
 土煙が起こり、風がうなって跳ねる。
 冒険者たちの集団が衝撃にて蹴散らされる。
 回避行動が遅れた数名のカラダが木の葉のように宙を舞う。
 そのうちの一人をひょいとくわえたのは銀のクチバシ。
 銀の怪鳥は降下の勢いもそのままに、地表すれすれにて急転回。
 地を這うようにしてしばし飛翔したのちに急上昇。ふたたび大空へと舞い上がる。
 それを追うかのようにして、風の波が地を薙いだ。

 一連の敵の行動を、とっさに伏せてやり過ごしたパーティー「オジキ」の面々。
 目の前にボトリと落ちてきたのは、肘のあたりで千切れた一本の腕。
 誰のモノかなんて言わずもがな。
 手はナイフを固く握りしめたまま。
 それはこの腕の持ち主が、最期の最期まで諦めることなく、決死の抵抗を示した証。
 これを前にして俺たち三人は無言で立ち上がる。周囲にいた冒険者たちも同様。
 一人の冒険者の死が伝播したのは、恐怖や絶望ではない。燃えあがる闘志。
 こんな死にざまを見せつけられて、奮い立たねば冒険者ではない。そしていまこの場所に集っているのは、紛れもない生粋の冒険野郎ばかり。

「門を閉じる以前の問題だな。まずはアレをどうにかしないと」

 俺は空を悠然と飛ぶ相手を睨む。

「とっておきの策がある。けれども準備に少々時間がかかる」と口にしたのは、第一等級パーティー「暁」を率いるリーダーの男。
 彼から手短に作戦の概略の説明を受けて、イケると判断した俺たちは、その準備時間を稼ぐ役割を引き受けることにした。

  ◇

 囮はじつに損な役割だ。
 敵前に身をさらし、命懸けだというのに、最後の一番美味しいところは全部持っていかれる。
 ドロ臭く、華がない。
 重要であることは認知されているものの、必ずしも世間の評価とは一致していない。
 とどのつまり、報われることが少ない貧乏クジ。
 そんなクジをあえて引いたのは、俺たちパーティー「オジキ」ほか四組のパーティー。
 みな第二等級にて中堅どころ。年齢的にはそろそろ引退を考えていそうなロートルの姿がチラホラ混じっている。

「エサとしては活きがいまいちだが、さすがに若い連中のうしろに隠れているわけにもいかんからなぁ。やっこさんにはこれでかんべんしてもらおうや」

 おどけた調子にて誰かが言った。
 どっと湧く一同。
 ひとしきり笑ってから、さてと動き出す。
 囮役を買って出た俺たちは、あえて目立つように盾や剣を打ち鳴らしながら行動。門を目指す。
 第五の災厄である銀の怪鳥は門番。
 当然ながら、門へと近づこうとするこちらの動きに反応する。
 今度は旋回することなく、急降下にて真っ直ぐこちらへと迫ってきた。
 風を切り、斜め後方より頭から突っ込んでくる銀の怪鳥。
 地を駆けるこちらとの機動力の差は歴然。あっという間に距離を詰められる。
 盾の表面に映り込む景色を頼りに、走りながら背後の様子をうかがっていた俺は「散開っ!」と叫ぶ。
 とたんに門へと向かう五組のパーティーが各々ちがう方角へと散る。
 目の前で獲物がバラけてしまい攻撃目標を見失った銀の怪鳥は、そのまま突風と化して頭上を通過。
 あわよくばどさくさに紛れて一撃をと俺は目論んでいたのだが、ヤツの巻き起こす風に煽られて飛ばされないようにするのがやっと。とてもそんな余裕はない。
 あっという間に遠ざかる敵影。
 しかし今度は空へと舞い上がることなく、地上近くの高度を保ったまま飛行を続けている。
 銀の怪鳥は両翼を広げ、カラダを右へと傾け、大きく旋回を開始。
 その動きを追っていた俺たちは、奇妙な光景を目撃する。
 怪鳥の筒状の足から白い線のようなものが出現。長い尾となり後方へと続いていた。

「なんだアレは?」
「煙、いや、あれは雲なのか」
「飛ぶ速度がさらに増したような」

 みなが訝しんでいると、ジーンが「まさか!」と声をあげた。
 水蒸気が急激に冷やされると雲になる。もしくは気流の渦が生じて気圧が下がっても雲が発生する。
 詳しい仕組みや理屈はともかく、大量の熱と風がなければ生じない現象。
 そんなモノが発生しているということは、銀の怪鳥の足から噴き出されているであろうエネルギーは相当量といえ、そのすべてが推進力へと転化されている。

「えーと……、つまりはどういうこと?」

 キリクがみんなの疑問を代弁。
 そうしたらジーンは真っ青な顔にて、ぼそり。

「狂嵐が吹き荒れる」

 第五の災厄・銀の怪鳥。
 その真骨頂を俺たちは身を持って味わうことになる。


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