203 / 210
203 絶望のツバサ
しおりを挟む「ピロロロロロ」
鳴き声が戦場に響く。
見上げた先にいたのは、銀色の紙で折られたトリのような何か。
胸元の中央に大きな穴がひとつ開いている。カラダのパーツのほとんどが鋭角で構成されているというのに、二本の足だけが妙に寸胴。丸い煙突が腹から生えているかのよう。
全長は飛竜より二回りほど大きい。限りなく大型に近い中型の飛行モンスター。
これが第五の災厄を統率している個体。
「……というか、アレが本体なのだろう。ぶんぶん小うるさい連中は、分体にすぎなかったようだな」ジーンは空を仰ぎつつ「ふむ。これはいささか想定外」
銀の怪鳥が遥か上空をゆっくりと旋回している。
一周して、二周して、三周と、同じような軌道をなぞるように、ぐるりぐるりと飛んでいる。
目を離さずに警戒を続けていたキリクが「ヤバい!」と叫ぶ。
まったく同じ軌道に見えて、じつは少しずつ、内へ内へと輪が狭まっていた。飛行速度も上がっている。
それすなわち、渦を巻くようにして加速しつつ、降下をしているということ。
大竜巻の天辺から根元へとたどるようにして飛来する銀の怪鳥。
空を滑るようにして落ちてくる。
ついには大地に対してほぼ垂直の姿勢となったところで、騎兵が用いるランスのような鋭いクチバシが開く。
「ピューイ」
やや気の抜けた声。
けれども直後に大地が爆ぜた。
土煙が起こり、風がうなって跳ねる。
冒険者たちの集団が衝撃にて蹴散らされる。
回避行動が遅れた数名のカラダが木の葉のように宙を舞う。
そのうちの一人をひょいとくわえたのは銀のクチバシ。
銀の怪鳥は降下の勢いもそのままに、地表すれすれにて急転回。
地を這うようにしてしばし飛翔したのちに急上昇。ふたたび大空へと舞い上がる。
それを追うかのようにして、風の波が地を薙いだ。
一連の敵の行動を、とっさに伏せてやり過ごしたパーティー「オジキ」の面々。
目の前にボトリと落ちてきたのは、肘のあたりで千切れた一本の腕。
誰のモノかなんて言わずもがな。
手はナイフを固く握りしめたまま。
それはこの腕の持ち主が、最期の最期まで諦めることなく、決死の抵抗を示した証。
これを前にして俺たち三人は無言で立ち上がる。周囲にいた冒険者たちも同様。
一人の冒険者の死が伝播したのは、恐怖や絶望ではない。燃えあがる闘志。
こんな死にざまを見せつけられて、奮い立たねば冒険者ではない。そしていまこの場所に集っているのは、紛れもない生粋の冒険野郎ばかり。
「門を閉じる以前の問題だな。まずはアレをどうにかしないと」
俺は空を悠然と飛ぶ相手を睨む。
「とっておきの策がある。けれども準備に少々時間がかかる」と口にしたのは、第一等級パーティー「暁」を率いるリーダーの男。
彼から手短に作戦の概略の説明を受けて、イケると判断した俺たちは、その準備時間を稼ぐ役割を引き受けることにした。
◇
囮はじつに損な役割だ。
敵前に身をさらし、命懸けだというのに、最後の一番美味しいところは全部持っていかれる。
ドロ臭く、華がない。
重要であることは認知されているものの、必ずしも世間の評価とは一致していない。
とどのつまり、報われることが少ない貧乏クジ。
そんなクジをあえて引いたのは、俺たちパーティー「オジキ」ほか四組のパーティー。
みな第二等級にて中堅どころ。年齢的にはそろそろ引退を考えていそうなロートルの姿がチラホラ混じっている。
「エサとしては活きがいまいちだが、さすがに若い連中のうしろに隠れているわけにもいかんからなぁ。やっこさんにはこれでかんべんしてもらおうや」
おどけた調子にて誰かが言った。
どっと湧く一同。
ひとしきり笑ってから、さてと動き出す。
囮役を買って出た俺たちは、あえて目立つように盾や剣を打ち鳴らしながら行動。門を目指す。
第五の災厄である銀の怪鳥は門番。
当然ながら、門へと近づこうとするこちらの動きに反応する。
今度は旋回することなく、急降下にて真っ直ぐこちらへと迫ってきた。
風を切り、斜め後方より頭から突っ込んでくる銀の怪鳥。
地を駆けるこちらとの機動力の差は歴然。あっという間に距離を詰められる。
盾の表面に映り込む景色を頼りに、走りながら背後の様子をうかがっていた俺は「散開っ!」と叫ぶ。
とたんに門へと向かう五組のパーティーが各々ちがう方角へと散る。
目の前で獲物がバラけてしまい攻撃目標を見失った銀の怪鳥は、そのまま突風と化して頭上を通過。
あわよくばどさくさに紛れて一撃をと俺は目論んでいたのだが、ヤツの巻き起こす風に煽られて飛ばされないようにするのがやっと。とてもそんな余裕はない。
あっという間に遠ざかる敵影。
しかし今度は空へと舞い上がることなく、地上近くの高度を保ったまま飛行を続けている。
銀の怪鳥は両翼を広げ、カラダを右へと傾け、大きく旋回を開始。
その動きを追っていた俺たちは、奇妙な光景を目撃する。
怪鳥の筒状の足から白い線のようなものが出現。長い尾となり後方へと続いていた。
「なんだアレは?」
「煙、いや、あれは雲なのか」
「飛ぶ速度がさらに増したような」
みなが訝しんでいると、ジーンが「まさか!」と声をあげた。
水蒸気が急激に冷やされると雲になる。もしくは気流の渦が生じて気圧が下がっても雲が発生する。
詳しい仕組みや理屈はともかく、大量の熱と風がなければ生じない現象。
そんなモノが発生しているということは、銀の怪鳥の足から噴き出されているであろうエネルギーは相当量といえ、そのすべてが推進力へと転化されている。
「えーと……、つまりはどういうこと?」
キリクがみんなの疑問を代弁。
そうしたらジーンは真っ青な顔にて、ぼそり。
「狂嵐が吹き荒れる」
第五の災厄・銀の怪鳥。
その真骨頂を俺たちは身を持って味わうことになる。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる