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210 運命の時
しおりを挟む他にも手をあげる志願者はいた。
だが、パーティー単位ではなく個別参加だったので、思いとどまらせる。困難が予想される未知へと挑むのに際して、即席の集団では連携をとるのがムズカシイと判断したからだ。それに後々のことを考えれば、人材の浪費は少しでも抑えるべきであろう。
だから門の向こう側へと渡り、扉を閉める役目はパーティー「オジキ」のみで行う。
パーティー「暁」を率いるリーダーの男に、家族への伝言と「ヴァルトシュタイン王に必ず渡してくれ」と三つの小袋を託す。
俺たちの死後、ドラゴンのウロコは国へと寄贈される約定になっている。
魔王と旗下の二人は無言にて、一連のやり取りをただじっと眺めていた。
冒険者たちに見送られ、俺たちは門へと向かう。
途上にて左肩にとまっていた青い小鳥がさえずる。
「ちゅんちゅん。仲間や奥さん、生まれてくる子のためにカラダを張るなんて、やるわね。冒険野郎はやっぱりこうでなくっちゃ! いいわ、だったら特別にもう一つ、いいことを教えてあげる」
蒼界の魔女が伝えたのは、門の向こうにある世界のこと。
時間の流れがこちらとはずいぶんちがうらしい。
あちらとこちら、二つの世界の流れに多大なズレがあるからこそ、影響し合って容易に門は開けない。
「いい? 何としても十三日間、生き延びなさい。そうすれば運命の時となり、ふたたび門が開くから」
ざっくり換算にて、あちらの一日がこちらの一年に相当するということを教えてくれた蒼界の魔女。
滅びをもたらす災厄が蠢く地にて、地獄の十三日間。
希望というにはあまりにもか細く小さな光。
それでも絶望だけよりかは、ずいぶんとマシにて、可能性がほんのちょっぴり繋がったのか?
おっさん三人が思わず苦笑いを浮かべると、「それから、これはわたしから愛すべき冒険野郎たちに餞別よ。ほら、アーンして」と青い小鳥。
言われるままに、つい口を開けたら何かが飛び込んできた。抵抗する間もなく、そのままノドの奥へと入ってゴクリ、するりと体内へ消えてしまう。
何を飲まされたのかと、あわてる俺たちに青い小鳥がちゅんちゅん鳴く。
「わたしのチカラをちょっぴり込めた神鉄の欠片よ。それを使って、せいぜい意地汚く足掻いてみせなさい。もしも見事に生還を果たしたら、そのときにはご褒美として、あなたたち三人を、正式に蒼界の魔女の陣営に迎え入れてあげる」
言うだけ言うと、俺の左肩より「チチチ」と飛び立つ青い小鳥。
何処かへと羽ばたいていく。
褒美というよりも罰にしか思えない俺たちは、呆然とこれを見送るばかり。
◇
門を間近にして、いったん立ち止まったパーティー「オジキ」の面々。
「本当はアトラに『自分のことなんて忘れて、さっさといい男をみつけろ』みたいなカッコイイ伝言を残したかったんだがなぁ」
ぼそりとつぶやいたのは、俺ことフィレオ。
なんだかんだで、「すまない。あとを頼む」という月並みの台詞しか口に出来なかった。そんな自身の不甲斐なさを吐露。
すると右隣りに並び立つキリクが「キシシ」と笑う。「ぶっちゃけオレも似たようなもんさ。ルクティに気の利いた言葉のひとつでもって考えたけど、ムリだった」
左隣りに並び立つジーンが頷きつつ、「わたしもだ。いざとなるとダメだな。マリルが他の男と微笑んでいる姿を想像するのは、ちょっとツライ」と素直な心情を漏らした。
おっさんたちがそろいもそろって未練たらたら。
じつに格好悪い。
みっともなくって、なんとも締まらない話。
けれども、それが妙におかしくもあって。
くつくつと肩をふるわす俺、キリク、ジーン。
ひとしきり笑い合ってから、俺たち三人はそろって門をくぐった。
◇
第三大陸の門を巡る前哨戦。
先遣隊として現地へと赴いた百名は全滅。
後続の本隊として送られたのは、この戦いのために各国から選抜された精兵六千。
うち負傷者数は三千を超え、死者に至っては二千近くにも及ぶ。
飛行船グリペン号は大破し、特攻により爆沈。船長と一部の乗務員はこれに殉ず。
今回の作戦に参加した冒険者たちも、半数以上が帰らぬ者となる。
多大な犠牲を払い、門を閉じるという目的は達成。
魔王の再臨、蒼界の魔女の介入など、不測の事態が発生したものの、戦いはトロワグランデ側の辛勝にて幕を閉じた。
かくして世界はしばしの猶予期間を手に入れる。
得られた時間は、十三年ほど。
運命の時、門はふたたび開く。
それまでの時間の使い方が、今後の世界の命運を左右する。
ここから先は、わずかばかりの目算の誤りも許されない。些細なしくじりが、見落としが、甘えと油断が、滅びへと直結しかねないからだ。
命を賭して、未来への可能性を繋いでくれた者たちのためにも、より慎重かつ果断な舵取りが求められる。
エイジス王国の王都グランシャリオ。中央にそびえる巨城。
執務室にて、一連の報告とともに、三つの小袋を受け取ったヴァルトシュタイン王。
黙祷を捧げたのちに、中身を検める。
するとそこには紅黄黒、色ちがいのドラゴンのウロコの他に、折りたたまれた紙片が一枚。すべての小袋に同様のものが挿入されてある。
紙片をひろげて目を通した王は、これを丁寧に折りたたむと、ウロコともども小袋へ納め元通りにした。
ヴァルトシュタイン王は側仕えの者に命じる。
「これらを辺境都市トワイエにいるフィレオ、キリク、ジーンら三名の奥方のもとに至急届けよ」
ドラゴンのウロコを巡る約定について知っていた側仕えの者。怪訝そうに「よろしいのですか?」とたずねるも、ヴァルトシュタイン王は「かまわぬ」と答える。「約定ではアヤツらが『死んだ場合は』となっておる。しかし現時点ではあくまで『消息不明』だ。確定ではない。ならば、これらは家族に返すのが筋というものであろう」
もっともらしい理由を口にした王ではあったが、返却を決めさせたのは同封されていた紙片であった。
そこにあったのは、父親がこれから生まれてくるであろう我が子へと贈る名前。
男の子用と女の子用の二種類が記されている。
フィレオたちは、より確実に妻たちへ伝わるようにと、わざとドラゴンのウロコが入った小袋に紛れさせたのであろう。
王命を受けて静々と下がっていく側仕えの者。
残されたヴァルトシュタイン王は、周囲の誰にも聞こえないほどの小さな声でつぶやいた。
「まったく、あんなものを見せおってからに……。これで黙って懐に入れたら、わしはとんだ外道に成り下がるではないか。フィレオ、キリク、ジーン、必ず生きて戻れよ。そして我が子を抱き、名を呼んでやらんと承知せぬからな」と。
瞼を閉じ、しばし門の彼方へと姿を消した冒険野郎どもに想いを馳せていたヴァルトシュタイン王。
ふたたび開かれた双眸には強い光が宿っている。
王は告げた。
「これより今後のことを協議する。すぐに準備を整えよ」
◇
すべての者に等しく時は流れる。
ゆるやかに、けれども着実に刻まれ、けっして止まることはない。
そんな中にあって……。
ある者は来たるべき日にそなえ、武器を手にひたすら己を鍛え上げた。
ある者は来たるべき日にそなえ、後進の育成に心血をそそぐ。
ある者は来たるべき日にそなえ、深謀遠慮を巡らし態勢を整える。
ある者は無念にも志半ばで倒れた。
だが、その想いと志は別の誰かに引き継がれる。
各々が各々の立場や場所で、よりよい未来を掴みとろうと、必死に這いずり回っているうちにも、歳月は容赦なく過ぎてゆく。
◇
運命の時が差し迫る、新大陸暦二千九百九十九年・参ノ月六日。
北のドランシエグ島、皇都フラムケルヒにて勇者マホロ起つ。
かたわらには、紅と黄と黒、三体のドラゴンを駆る三人のうら若き戦乙女の姿あり。
これにトロワグランデ全土より集結した軍勢百五十万の精鋭、数多の冒険者らが加わり進軍を開始。
翌新大陸暦三千年・伍ノ月十三日。
第三大陸中央平原において、門の彼方よりあらわれたる災厄どもと対峙す。
―― 冒険野郎ども。(完) ――
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語りすぎない物語と言うのは想像心を擽られ楽しいもので、本当に最初から最後の最後まで楽しませて貰いました。
完走お疲れ様、ありがとうございました
ぞわぞわする終わり方でした(いい意味で)
泥まみれで奮闘してなんとかかんとか筋を通して生き延びるオジキ達の毎日は本当に面白かったです。
続きがとっても気になりますが、物語、作品としてはここで終わるのが良いんですかね。
それに、オジキ達は英雄じゃ無いんですもんね。災厄の住む向こう側で生き延びるのは確かに英雄の所業…。
それでも信じて待つのが読者であり生かされた人達なんでしょうか…想像だけでワクワクとちょっぴり切なくなれました。
本当に素敵な作品をありがとうございました。
機会があればまたオジキ達の冒険譚を覗かせて貰える事を楽しみにしています。
敢えて語らず。
されど、きっと帰ってくると信じます。
お疲れさまでした(^ω^)
楽しい、心踊る物語をありがとうございました。