剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?六本目っ!不帰の嶮、禁忌の台地からの呼び声。

月芝

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003 腹の中

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『お願い。北へきて、剣の母チヨコ……』

 森を彷徨っていると、白いモヤの向こうからわたしを呼ぶ声がする。
 近頃、よく見る夢だ。

「あぁ、またか」

 わたしは小さく嘆息。
 たびたび同じ夢を見れば、さすがに思うところはある。きっとただの夢なんかじゃない。
 これは一度、誰かに相談したほうが良さそうだ。
 となれば相手は良識と知識の賢人、星読みのイシャルさまだね。聖都についたらどのみち皇(スメラギ)さまのところに帰還の挨拶にいかなくちゃいけないから、ついでに話しを聞いてもらうとしよう。
 そんなことを考えていたら、急にカラダがゆさゆさ左右に揺さぶられて、プツンと夢の時間が中断された。

 うーんと背伸びをするわたしに白銀の大剣姿となっているミヤビが「チヨコ母さま、お待たせしました。作業完了ですわ」と告げた。

  ◇

 現在、チヨコ組はとある場所に臨時出張中。
 気まぐれに海底を散歩しては、腹が減ると大渦を発生させて周辺にあるモロモロを見境なしに丸呑みにしてしまい、船乗りたちからは海の厄災と恐れられている、超超大なイソギンチャクの金禍獣・大喰らい。
 そんな大喰らいの腹の中に、わたしたちは魔王のつるぎアンの転移能力にておじゃましている。
 ここは呑み込まれた数多の船舶の残骸がゴロゴロしており、まるで海の墓場みたいなところ。
 ではどうしてそんな不気味な場所にわたしたちがおもむいているのか。
 それを説明するのには時間を少しばかりさかのぼる必要がある。

 アレは浜辺にて、新たに仲間となったムギとベニオの能力について検証していたときのこと。
 大量に切り倒したマドラの木をムギが収納能力にてグビリと呑み込んじゃって、わたしたちはそろってぽかん。
 しかしたまげたのは、わたしたちだけではなかった。
 その場面をたまたま目撃したのが、神聖ユモ国の海軍の提督ササノハさん。腰に爆弾を抱えているけれども気のいい爺さま。だけど、いざ戦となるとけっこう無茶をする大胆不敵な猛将でもある。あとかなりの愛妻家ともっぱらのウワサ。
 そんなササノハさんってば、わたしたち一行がチューワンに滞在中だと知って、わざわざ訪ねてきてくれたらしい。
 で、ムギのチカラをばっちり目撃して「これは!」
 ササノハさんが興奮したのには理由がある。
 南海の争乱のおり、この海域を暴れまわっていた黒鬼と呼ばれた海賊船。
 海軍の船を何隻も沈めた黒鬼も、激しい戦いの末に最期は海の藻屑と消えたわけだけれども、より正しくは海軍とわたしたちによって打ち負かされたあげくに、大喰らいに呑み込まれてしまったのである。
 これをたいそう惜しんだのがササノハさん。
 なにせ黒鬼、正式名称は試作機二十四号・黒鋼海王丸というらしいのだが、これってばレイナン帝国の最新鋭の技術が満載の船なんだもの。
 あれほどの難敵、その身の内を調べられたら、どれほどの有益な情報を得られたことか。
 海軍およびえらい人たちがこぞって「ぜひとも確保したかった」と、それはもう悔しがる悔しがる。
 で、当然ながらえらい人たちが「ならば」と次に着目したのが、魔王のつるぎアンの転移能力。「これを使ったら回収できるんじゃなかろうか」と考える。
 しかしムリだった。
 まず第一に、アンはわたし以外の人間に転移空間を使わせない。
 心情的な問題もさることながら、どうやらわたし以外の人間を内部に抱え込むと、波長が合わないのか、転移空間の維持そのものが不安定になるらしいからどうしようもない。
 でもって次に立ち塞がったのが、物量的な壁。
 アンの転移空間はたしかに距離を跳躍する。けれども移動する距離に応じて、相応に内部を移動しなければならない。遠くに行くには、それなりに転移空間内部を歩く必要がある。
 身一つならばともかく、黒鬼のような巨大な鉄の塊を引きずってなんて、とてもとても。
 かといって運びやすいように細切れにしたのでは元も子もない。
 よって回収計画は早々に頓挫してしまった。

 が、ここにきて登場したのが第四の天剣・太陽のつるぎムギである。
 彼女は変身こそはできないものの、アン同様に独自の空間を造りだし、モノを収納するチカラを有する。
「どれどれ」と収納空間の内部をのぞかせてもらったわたしは、そりゃあ度肝を抜かれましたとも。
 なにせ果てが見えないんだもの。

「えっ、これって大喰らいを逆に丸呑み出来ちゃうんじゃないの」
「非。ナマモノはムリ。それに家族以外、立ち入り禁止」
「あっ、そうなんだ」

 フム。チヨコ組限定の収納場所か。
 ムギの能力は便利だけれども、アンと同じくいろいろ制約がありそう。
 その一つがナマモノ、つまり生き物はダメと。
 とはいえムギのチカラが光明であることにはちがいない。
 かくして黒鬼回収計画は、ふたたび動き出す。

 以上が、わたしたちチヨコ組が大喰らいの腹の中に出張している事情である。
 これは迫るレイナン帝国の侵略に対抗するのには必要なこと。
 とはいえタダ働きをするのはちょっとちがう。
 かといって国庫から莫大な恩賞をもらうのも、ねえ。
 だってこれから研究やら開発やら、その成果を活かした艦隊の強化やら、対帝国への準備などに、いろいろと出費がかさむだろうし。
 ここでうっかり貰うものを貰っちゃうと、そのツケが巡りめぐって税となって国民たちに重くのしかかることになりかねない。
 目先の恩賞に飛びついて、オマケに民草の恨みまで押しつけられてはたまらない。
 かといって、タダでいいように使われる前例を作るのも得策ではない。
 海軍のお願いを聞いたんだから、次は陸軍もとか言い出しそうだし。そしたら教会やら医師会やらまでもがこぞって……。一度が二度、二度が三度、なし崩し的にズルズルでズブズブ。そんなダメな男女関係みたいなつき合い方はちょっと遠慮したい。
 そこで黒鬼回収計画を実行するにあたって、わたしはササノハさんにある質問をした。

「ねえ、海での拾得物のあつかいって、どうなっているの?」
「基本的には拾った者のもんじゃ。じゃがブツによっては権利を有する者との交渉に応じる必要があるがな」

 この場合のブツに該当するのは、国宝級の宝物とか特殊な魔道具、家督を継ぐのに必要な品とか、背景にややこしい事情を抱えたもの。
 それ以外のお金やら物資は、拾った者に第一の権利が与えられる。これは神聖ユモ国のみならず近隣諸国にて共有している海の法律で定められているという。
 これを知ってわたしは、にへら。


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