3 / 48
003 腹の中
しおりを挟む『お願い。北へきて、剣の母チヨコ……』
森を彷徨っていると、白いモヤの向こうからわたしを呼ぶ声がする。
近頃、よく見る夢だ。
「あぁ、またか」
わたしは小さく嘆息。
たびたび同じ夢を見れば、さすがに思うところはある。きっとただの夢なんかじゃない。
これは一度、誰かに相談したほうが良さそうだ。
となれば相手は良識と知識の賢人、星読みのイシャルさまだね。聖都についたらどのみち皇(スメラギ)さまのところに帰還の挨拶にいかなくちゃいけないから、ついでに話しを聞いてもらうとしよう。
そんなことを考えていたら、急にカラダがゆさゆさ左右に揺さぶられて、プツンと夢の時間が中断された。
うーんと背伸びをするわたしに白銀の大剣姿となっているミヤビが「チヨコ母さま、お待たせしました。作業完了ですわ」と告げた。
◇
現在、チヨコ組はとある場所に臨時出張中。
気まぐれに海底を散歩しては、腹が減ると大渦を発生させて周辺にあるモロモロを見境なしに丸呑みにしてしまい、船乗りたちからは海の厄災と恐れられている、超超大なイソギンチャクの金禍獣・大喰らい。
そんな大喰らいの腹の中に、わたしたちは魔王のつるぎアンの転移能力にておじゃましている。
ここは呑み込まれた数多の船舶の残骸がゴロゴロしており、まるで海の墓場みたいなところ。
ではどうしてそんな不気味な場所にわたしたちがおもむいているのか。
それを説明するのには時間を少しばかりさかのぼる必要がある。
アレは浜辺にて、新たに仲間となったムギとベニオの能力について検証していたときのこと。
大量に切り倒したマドラの木をムギが収納能力にてグビリと呑み込んじゃって、わたしたちはそろってぽかん。
しかしたまげたのは、わたしたちだけではなかった。
その場面をたまたま目撃したのが、神聖ユモ国の海軍の提督ササノハさん。腰に爆弾を抱えているけれども気のいい爺さま。だけど、いざ戦となるとけっこう無茶をする大胆不敵な猛将でもある。あとかなりの愛妻家ともっぱらのウワサ。
そんなササノハさんってば、わたしたち一行がチューワンに滞在中だと知って、わざわざ訪ねてきてくれたらしい。
で、ムギのチカラをばっちり目撃して「これは!」
ササノハさんが興奮したのには理由がある。
南海の争乱のおり、この海域を暴れまわっていた黒鬼と呼ばれた海賊船。
海軍の船を何隻も沈めた黒鬼も、激しい戦いの末に最期は海の藻屑と消えたわけだけれども、より正しくは海軍とわたしたちによって打ち負かされたあげくに、大喰らいに呑み込まれてしまったのである。
これをたいそう惜しんだのがササノハさん。
なにせ黒鬼、正式名称は試作機二十四号・黒鋼海王丸というらしいのだが、これってばレイナン帝国の最新鋭の技術が満載の船なんだもの。
あれほどの難敵、その身の内を調べられたら、どれほどの有益な情報を得られたことか。
海軍およびえらい人たちがこぞって「ぜひとも確保したかった」と、それはもう悔しがる悔しがる。
で、当然ながらえらい人たちが「ならば」と次に着目したのが、魔王のつるぎアンの転移能力。「これを使ったら回収できるんじゃなかろうか」と考える。
しかしムリだった。
まず第一に、アンはわたし以外の人間に転移空間を使わせない。
心情的な問題もさることながら、どうやらわたし以外の人間を内部に抱え込むと、波長が合わないのか、転移空間の維持そのものが不安定になるらしいからどうしようもない。
でもって次に立ち塞がったのが、物量的な壁。
アンの転移空間はたしかに距離を跳躍する。けれども移動する距離に応じて、相応に内部を移動しなければならない。遠くに行くには、それなりに転移空間内部を歩く必要がある。
身一つならばともかく、黒鬼のような巨大な鉄の塊を引きずってなんて、とてもとても。
かといって運びやすいように細切れにしたのでは元も子もない。
よって回収計画は早々に頓挫してしまった。
が、ここにきて登場したのが第四の天剣・太陽のつるぎムギである。
彼女は変身こそはできないものの、アン同様に独自の空間を造りだし、モノを収納するチカラを有する。
「どれどれ」と収納空間の内部をのぞかせてもらったわたしは、そりゃあ度肝を抜かれましたとも。
なにせ果てが見えないんだもの。
「えっ、これって大喰らいを逆に丸呑み出来ちゃうんじゃないの」
「非。ナマモノはムリ。それに家族以外、立ち入り禁止」
「あっ、そうなんだ」
フム。チヨコ組限定の収納場所か。
ムギの能力は便利だけれども、アンと同じくいろいろ制約がありそう。
その一つがナマモノ、つまり生き物はダメと。
とはいえムギのチカラが光明であることにはちがいない。
かくして黒鬼回収計画は、ふたたび動き出す。
以上が、わたしたちチヨコ組が大喰らいの腹の中に出張している事情である。
これは迫るレイナン帝国の侵略に対抗するのには必要なこと。
とはいえタダ働きをするのはちょっとちがう。
かといって国庫から莫大な恩賞をもらうのも、ねえ。
だってこれから研究やら開発やら、その成果を活かした艦隊の強化やら、対帝国への準備などに、いろいろと出費がかさむだろうし。
ここでうっかり貰うものを貰っちゃうと、そのツケが巡りめぐって税となって国民たちに重くのしかかることになりかねない。
目先の恩賞に飛びついて、オマケに民草の恨みまで押しつけられてはたまらない。
かといって、タダでいいように使われる前例を作るのも得策ではない。
海軍のお願いを聞いたんだから、次は陸軍もとか言い出しそうだし。そしたら教会やら医師会やらまでもがこぞって……。一度が二度、二度が三度、なし崩し的にズルズルでズブズブ。そんなダメな男女関係みたいなつき合い方はちょっと遠慮したい。
そこで黒鬼回収計画を実行するにあたって、わたしはササノハさんにある質問をした。
「ねえ、海での拾得物のあつかいって、どうなっているの?」
「基本的には拾った者のもんじゃ。じゃがブツによっては権利を有する者との交渉に応じる必要があるがな」
この場合のブツに該当するのは、国宝級の宝物とか特殊な魔道具、家督を継ぐのに必要な品とか、背景にややこしい事情を抱えたもの。
それ以外のお金やら物資は、拾った者に第一の権利が与えられる。これは神聖ユモ国のみならず近隣諸国にて共有している海の法律で定められているという。
これを知ってわたしは、にへら。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる